第11回 自己励起システムの安定化/
音や振動のアクティブコントロール

多くの音場や振動場は、異なる物理現象がお互いに作用しあうことで発生する不安定な相互作用から増幅されます。1つの物理現象が大きくなることで他の物理現象も大きくなり、その結果最終的に非線形制限により安定なリミットサイクルに達するまで、最初の物理現象をさらに増幅させます。

典型的な例は、燃焼室内の燃焼と空気/燃料供給の相互作用により発生する、気体の流れ、コンプレッサーサージ、振動などからの不安定な振動現象です。第3回にて、この様な相互励起はフィードバックループにおける2つのシステム(図1のQとB)で記述できることをご説明しました。この構造から、安定化のためのコンセプトを追加することが出来ます。システムGの追加による、不安定なフィードバックの補正です(図1参照)。


図1:不安定なフィードバックを補正する構造

これまでの音場や振動場の再現とは異なり、Gは1次音場ypの負のコピーを再現する必要はありません。なぜならyp自身はyとysによって決まるため、システム全体の安定性を確保するだけで十分だからです。このため、Gの伝達特性は下記の特性方程式を満たします。
  B・(Q+G)= 1

 実際には2次音場の振幅や位相は、特定の値を満たす必要はなく安定する広い数値の中にとどまっていればよいのです。またアクティブシステムの中で早期に作用することで、大きな振幅を必要としません。このため、強力な信号処理ユニットやアクチュエータも不要になるかもしれません。結果として2次音場は小さなものですが、大きな効果を持つ可能性があります。

この安定化の単純なコンセプトは、物理的現実に直接適用されます。始めに、ヘルムホルツ共鳴器やレイケ管の様な単純なシステムの計算と実験結果がよく一致することが知られています。これらの単純なシステムに加えて、この手法は特に流体音響学の技術的な課題に対しても有効なことが期待されます。しかし産業界のニーズに応えるためには、センサ、コントローラ、アクチュエータへの要求は大幅に増加します。それにも関わらず、この手法を重要な技術システムやプロセスに対して、実際にうまく適用することが出来ました。

例として、170MWガスタービンの433Hzで発生する自己励起型の燃焼振動を、アクティブコントロールシステムでうまく低減することが出来ました。これらの振動は、燃焼室の音場、バーナーへの燃料と空気の供給、そして燃焼反応自身の間のフィードバックにより発生します。音圧の変動は燃料供給の脈動を引き起こし、その結果燃焼の放熱率を変動させます。この変動は圧力変動を発生させ、さらに音場を刺激します。安定化の手法は、燃焼室の圧力変動をモニタして、燃料供給の特別な弁を駆動するコントローラに圧力変動を入力します。この弁は、自己励起サイクルから発生する脈動を補正する様に燃料の流量を調整します。

図2は、上記のアクティブコントロールをオン、オフにした状態でのガスタービンの燃焼室内で測定された圧力変動(音圧)の振幅を示しています。ここでは、燃焼室内の音圧が210 mbar(177 dB)から30 mbar(160dB)まで80%以上も低減されたことがわかります。


図2:ガスタービンの燃焼室内における音圧振幅

他の事例として、開放型の風洞で現実に問題になる、低周波の圧力と速度の変動のアクティブコントロールを紹介します。風洞のバフェッティングと呼ばれるこの現象は、ノズルから下流に流れる渦流出により励起されます。コレクタ部に到着すると、圧力変動を発生させダクトの音響モードを励起します。そして共振時にダクト内に定常波が発生し、さらなる渦を発生させます。風洞バフェッティングは音響と空力の測定を大きく歪ませてしまう可能性があるため、この問題を軽減させるための様々な対策が過去に検討されてきました。残念ながら、これらのパッシブな対策の多くは耳障りなノイズを発生させ、風洞のアプリケーションには適用できませんでした。

一方、アクティブコントロールシステムを適用することで、さらなるノイズを発生させることなく風洞バフェッティングを大幅に低減することが出来ました。このシステムは風洞の中で適切に駆動されたラウドスピーカを使用し、インピーダンスの変化をもたらすことで共振周波数におけるフィードバックプロセスに影響を与えます。

図3は風洞試験室内で測定された、通常の状態とアクティブコントロールシステムがオンの状態における音圧の周波数スペクトラムを示しています。アクティブシステムがオンの状態では、測定を妨げていた共振周波数における音圧が20dB以上低減されていることが確認できます。


図3:風洞試験室内における音圧レベルの周波数スペクトラム
(100km/h, 通常状態とアクティブコントロール ARCがオンの状態)

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