第10回 放射音のアクティブな補正/
音や振動のアクティブコントロール

多くの技術的騒音制御問題は、振動する構造体からの音の伝搬や放射を取り扱います。その様なケースでは、放射された音場よりも音の放射自身を制御しようとします。この概念を図1に記載します。

図1 アクティブな放射音の制御の概念

このためには、基本的に2つの手法があります。1つは周囲の媒体を励起する振動源を制御する手法、もう1つは振動源からの伝達を減らすために周囲の媒体を制御する手法です。始めの手法では構造の振動パターンに作用し、2つ目の手法は放射されるパワーの合計が減少する様な構造にして、放射インピーダンスを変更します。

後者は放射構造に直接2次ソースを配置し、流体力学的に放射を打ち消す様な体積の流れを作り出すことで実現できます。個別の、または分散された振動源によりこの考え方を実現するための基礎的な考察とは別に、圧電型のアクチュエータ素子をパッシブな吸収体に取り付けることも興味深い試みです。しかし、これらの実用的な有効性はさらに検証する必要があります。

他には構造物を通して音の放射に影響を与える手法もあります。最も簡単な手法は、構造物の運動エネルギーに比例する放射構造の二乗平均速度を最小化して、構造物の振動を全体的に低減することです。これは、例えば数個のソースで寄与が高い全ての固体伝搬音を再現して、構造的な振動を全体的に制御できる場合に有効です。この手法については、第5回で説明をした高速列車の室内の低周波騒音の補正の例において確認できます。この例では、ボギーの2次ばねにおける加振力を補正することで、室内の音圧レベルを大きく下げることが出来ました。
また、放射に寄与している振動モードのみを制御する手法も有効です。そしてこの手法は、前述の放射構造の二乗平均速度を最小化する手法よりも、少ない数の2次ソースで実現できます。このことは、少ないモードが放射に寄与している場合により当てはまります。

このアクティブな対策は周囲の媒体の構造と音響の相互作用に完全に集中しているので、通常“アクティブ構造騒音制御”、またはASAC(Active Structural Acoustic Control)と呼ばれます。この手法の難しさは、適切なセンサで放射に関連するすべてのパラメータを捉える必要があることです。放射音場に適切にマイクロフォンを設置することで実現できる場合もありますが、多くの場合これは実現不可能です。このため、例えば構造的な測定のみから効率的な放射モードの複素振幅の様な、放射に関連するパラメータを算出することが必要です。

代表的な例として、航空機のプロペラからの圧力が胴体に作用して発生する機内の騒音のアクティブコントロールについて記載します。機内に複数のラウドスピーカを配置する代わりに、胴体に配置された複数のアクチュエータにより機内の音場を減らすことが出来ます。
図2では航空機のある標準的な試験結果を示しています。ここでは、翼通過周波数(blade passage frequency : bpf)の次数に同期した42個の電磁フォースアクチュエータにより、80個のマイクロフォンで測定される機内の音圧が、翼通過周波数の次数音が最小化する様に制御されます。

図2 プロペラ機内でアクティブに音の放射を制御した場合の周波数スペクトル

他の航空機の結果を示す表1の比較表からも、ASACの方がラウドスピーカを用いたANCよりも4つの次数音についてよい結果になったことを示しています。

表1 プロペラ機内の音圧低減レベルの比較(dB)

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