第9回 閉空間におけるアクティブコントロール(後編)/
音や振動のアクティブコントロール

アクティブ手法による車の室内音を制御する試みは1980年から行われ、10年後に初めて成功事例が報告されました。その後、乗用車の場合では4~6個のラウドスピーカの装置が適切かつ扱いやすいことが判明しました。またこの手法/装置により、300Hz以下(この周波数帯域は車室内の全座席で検知可能であり、人が乗車した際の頭の位置や頭の動きによって影響をあまり与えない周波数帯域です)で音場を全体的に減少させたり、変化させることができることも判明しました。
1/2エンジン次数(例:4気筒エンジンであれば2次)の高調波スペクトルを持つエンジン音に対しては、予測可能な正弦波形ノイズ成分を補正し、その結果として良好な音の修正が行えます。図1 は入力信号と構成の典型例を示しています。

図1 車室内音をアクティブに制御するシステムの主な構成

このようなシステムを設計する際に最初の最も重要なステップとしては、標準オーディオシステムのラウドスピーカやパワーアンプで必要とされる音場を提供することができるかどうか(これは今日のほとんどのシステムの場合で当てはまります)、または追加の二次音源が必要とされるかどうかを確認することです。これらのラウドスピーカは、適応信号処理ユニットが所与のrpm信号および誤差信号(実際の信号と所望の信号との差)から決定する信号によって駆動されます。信号処理ユニットで実現されるそれぞれのアルゴリズムは、誤差信号を最小化すること、及び目標信号を近似することを目的とします。多くの場合で、現在の音圧値(実際の音圧値) 信号は、自動車の屋根領域に適切に配置された6つのマイクロフォンによって検知されます。
純粋なノイズ抑制システムの場合、目標信号はゼロになります。平均二乗誤差を最小化することによって、信号処理アルゴリズムは、信号それ自体を等しく最小化します。異なる目標信号を定義することによって、車両内で異なる車内音を実現することも可能です。しかし現実的には、そのような目標信号は、エンジン回転速度やエンジン負荷のような重要な操作パラメータから決定/評価されなければなりません。
図2にそのような組み合わせにより達成することができるノイズ低減の一例を示します。4気筒乗用車の支配的なエンジン2次は、2つの前部座席において、はっきりと比較可能なレベルまで低減出来ていることが見てとれます。この例では最大20dBまでのレベルの低減を実現することが出来ました。

図2 運転席(左図)及び助手席(右図)におけるエンジン2次に起因する
「音圧レベル-回転速度」グラフ
(左右図いずれも上側の曲線(点線)がアクティブノイズキャンセルなしの場合、下側の曲線(実線)がアクティブノイズキャンセルありの場合を示しています)

使用するラウドスピーカ及びマイクロフォンの数を増やすことにより、特に正弦波ノイズ成分を制御する場合には、このアプローチはより大きな容積に適用する場合においても有益です。これは航空機のキャビン内におけるターボプロペラエンジンによって引き起こされるノイズ成分に特に当てはまります。航空機におけるアクティブノイズキャンセルの実現可能性がはっきりと証明されて以降、そのようなシステムは大量生産用途の為にさらに開発されてきており、世界市場上で購入することが出来ます。
トーンエンジン音以外の運転音では、適切な二次信号を評価する為に十分な遅延時間を提供するコヒーレントな入力信号を見つける困難さがあります。したがって、実際の実験で得られた広帯域での低減レベルとしては、これまで5 dB程度までにとどまっ ていました。
この場合においても、考慮すべき周波数範囲を制限することによって、より大きなレベル低減を見込むことができます。約40Hz付近で支配的な低周波ローリングノイズの場合、フィードフォワード制御とフィードバック制御をうまく組み合わせたシステムを使用することにより10dB程のレベル低減が見込めます。
前述した様に、グローバルな場の制御では、制御に必要な容積の大きさや考慮する最大周波数に応じて、二次ソースの数が増加します。しかしながら、多くの問題に対しては、全体の容積の中の小さな部分でそれぞれの音場および振動場を局所的に制御すれば十分な場合があります。制御対象の容積を小さくすると周波数上限が一定の(決められている)場合には容積の観点から2次ソースを少なくする必要があり(少なくすることが出来て)、一方ソースの数が一定の(決められている)場合には周波数の上限を高くすることが出来ます。図3に示した様に、容積の制限を考慮することは価値があります。

図3 部分的な容積のローカル制御の原理図

上記内容は、アクティブ車室内音制御の周波数範囲がどのように拡張し得るかという実例によって検証することが出来ます。つまり、特定の状況に関して注意深くチェックしなければならない位置でラウドスピーカやセンサの数を増やすことによってこの検証を行うことができます。実車の検証では、乗客の頭部の大きな動きが制限されますが(小さな動きは許されます)、ソースの数を一定に保ちつつ、頭部周辺の小さな容積部分で制御を行えます。試験車両における音響試験では、車室内音制御の周波数範囲をエラーマイクロフォンの耳に近い位置で約300Hzから約600Hzへと拡張できる様になりました。

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