技術資料

電気化学測定 概説

1.電気化学測定とは

電気化学測定とは、セル(サンプル)に対し電気的な信号を印加することで化学的な反応を起こすこと、またその応答信号から内部で起こっている化学的反応を評価することです。 一般的な例では水の電気分解があります。下図のように、水中に2つの電極を入れて電極間に電流を流すと、水が電気分解されて正極からは水素ガス、負極からは酸素ガスが発生します。各々の電極では右記のような化学反応が起こっています。

水の電気分解のイメージ

2. 電気化学測定法の種類

前述の二電極測定のほか、電気化学測定では、参照電極と呼ばれる電位の安定した電極を1つ追加して測定をする三電極測定があり、一般的に三電極式測定が使用されています。二電極測定の場合、二電極の反応を総括した情報しか得られませんが、参照電極を用いることにより一方の電極の反応だけを観察できる為、より詳細な評価を行うことが可能になります。

二電極測定と三電極測定のイメージ

2-1. 直流分極測定

直流分極測定は、作用電極-対電極間に電圧を印加し、作用電極-参照電極間の電位を設定したい値にコントロールする(ポテンショスタット)、もしくは作用電極-カウンター電極間の電流を制御し、作用電極-参照電極間の電位を計測する(ガルバノスタット)ことで生じる酸化還元反応を電気的に検出する手法です。 制御する電位/電流を一定値、三角波、矩形波、またはステップ波などの波形でスイープし、電位-電流曲線、時間-電位/電流などのグラフに表示しそのデータから得られる情報を考察します。

【代表的な直流測定法の例】

  • サイクリックボルタンメトリー(三角波、CV)
  • クロノアンペロメトリー(定電圧、CA)、クロノポテンショメトリー(定電流、CP)
  • リニアスイープボルタンメトリー(LSV)
  • ディファレンシャルパルスボルタンメトリー(DPV)
  • 電気化学ノイズ測定(ECN)

※上記の測定は、すべてSP-50e ポテンショ / ガルバノスタットで可能です

SP-50e

直流分極測定を網羅した低価格ポテンショ/ガルバノスタット SP-50e

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【測定のコツが知りたい電気化学分析】個別相談室

本相談室では、初めて電気化学分析を行われる皆様を対象に、

「測定には何をどれだけ揃えれば良いのか?」
「作用電極のメンテナンスはどうしたら良いのか?」
「有機溶媒のCV測定は難しい?」

数え始めるときりのないこれらの疑問点やお悩み事をうかがったうえで、その測定に必要な測定機器と電極などをご紹介し測定に至るまでのご相談を承ります。

相談会申込ページ

2-2. 電気化学インピーダンス測定(交流インピーダンス法)
(EIS測定:Electrochemical Impedance Spectroscopy)

電気化学インピーダンス測定(以後、EIS測定)は、セルに非常に微小な交流信号を印可し、電圧/電流の応答信号からセルのインピーダンスを測定する電気化学測定手法です。
直流分極測定と比較し下記のような優位点があり、腐食・電池・センサーなど様々なアプリケーションで広く利用されています。

  • セルに与えるダメージが少ない(非破壊測定)
  • 測定時間が短い
  • 得られる情報量が多い

EIS測定データは通常下図のようなインピーダンスの実数成分、虚数成分をプロットしたコールコールプロット(ナイキスト線図)と呼ばれるグラフで表示され、CNLS法などのカーブフィッティングにより必要なパラメータを算出します。アプリケーションにより、インピーダンスデータからアレニウスプロット、Mott-Schottkyプロット、誘電率プロットなどに変換し様々な解析を行うことができます。
EIS測定を行うには後述のFRA(周波数応答アナライザ)を内蔵したポテンショ/ガルバノスタットなどが必要となります。

Cole‐Coleプロットのイメージ

3.電気化学測定に必要な計測器

3-1. ポテンショ/ガルバノスタット(P/Gスタット)

電気化学測定の基本である直流分極測定を行うには、ポテンショスタット/ガルバノスタット(以後、P/Gスタット)が必要となります。P/Gスタットは装置内部にフィードバック回路を搭載することで、電気化学セルの二電極間の電位・電流を一定に保持することや三角波や矩形波など様々な波形を生成(ファンクションジェネレータ機能)して印加することが可能です。現在のP/Gスタットは高性能化しており、USBやLANケーブルを介してPCと通信し、試験の自動化や他の分析装置との連動もできます。

P/Gスタットを選定する際に重要となる仕様は主に以下のとおりです。

  • 最大制御電圧範囲
  • 電圧測定レンジ
  • 最大電流値と最小分解能
  • 電圧・電流確度
  • 三電極電位モニターの可否
  • EIS測定の可否とその周波数範囲

Bio-Logic社のP/Gは大きく分けてスタンダードモデルとアドバンスドモデルの2つがあり、電流・電圧及びEIS測定の周波数範囲の性能が異なります。また、制御・解析用ソフトウェアEC-Lab®は、全モデル共通で、エネルギーデバイス、酸化還元反応、腐食、有機電解合成などのアプリケーションに応じて80種類以上の測定テクニックが標準でご使用頂けます。

EIS測定における周波数範囲が広いほどEIS測定から得られる情報量が増加します。
また一般的なP/Gスタットでは、三電極式測定における参照極と評価したい電極の評価しか行えませんが、装置によっては参照極と残り2極(作用極・対極)の電位評価を行えるモデルも存在します。Bio-Logic社の電気化学測定システムはすべてこの機能を搭載しています。

3-2. 周波数応答アナライザ(FRA:Frequency Response Analyzer)

周波数応答アナライザ(以下、FRA)は、EIS測定時に使用される装置です。
最近ではP/Gスタットにオプションとして組み込まれている装置も多く存在します。
FRAは、EIS測定においてP/Gスタットが印加した微小な電圧信号とセルから得られた電流信号などからインピーダンスを算出します。
算出方法は2種類あり、Single Sine Correlation法(単一正弦波相関法)とMulti Sine Correlation法です。

  • Single Sine Correlation法:
    一つの周波数の交流信号を印加し、その応答からインピーダンスを測定する手法。
    印加する信号を基本波として応答信号をピックアップしている為、対ノイズ性に優れた高精度な測定手法です。
  • Multi Sine Correlation法:
    複数の周波数を合わせた信号を印加し、その応答信号をフーリエ変換することで各周波数情報に分離することで各周波数のインピーダンスを算出する手法。

Single Sine Correlation法とMulti Sine Correlation法の比較をまとめます。
Single Sine Correlation法は測定精度が高い手法である為、一般的によく用いられます。他方、Multi Sine Correlation法は測定時間が短いという利点があります。

【測定手法の比較】

良い点 悪い点
Single Sine Correlation法 測定精度が高い 測定時間が長い
Multi Sine Correlation法 測定時間が短い 測定精度が落ちる

Bio-Logic社製のP/Gスタットは、すべてのモデルにおいてSingle Sine Correlation法、Multi Sine Correlation法のどちらも使用可能です。
またP/Gスタットを使用しなくてもインピーダンス測定のできる電流変換器内蔵のFRA(Bio-Logic社製 MTZ-35型インピーダンスアナライザ)があり、分極制御を必要としないサンプル(固体電解質、絶縁膜、液体、半導体など)の測定はFRA単体で行うことができます。MTZ-35型インピーダンスアナライザでは、高周波数側35MHzまでのインピーダンス測定が可能です。

3-3. 電流アンプ

セルの反応性が小さく、微小な応答電流を測定する際は電流アンプを使用します。 電流アンプは微小な電流信号を電圧信号に変換・増幅しています。
電流アンプを選定するときの注意点は、電流アンプの周波数応答によってインピーダンス計測をするときの高周波域が制限されてしまうことです。周波数特性が明確な装置を選ばれることをお勧めします。

Bio-Logic社SP-300高性能電気化学測定システム(2ch・アドバンスドモデル)の場合、微小電流オプションの追加で最小1pA電流レンジ(76aA分解能)となります。

4.電気化学測定システム構成例

電気化学測定システムとは、ポテンショ/ガルバノスタットと周波数応答アナライザー(FRA)を組み合わせて、サイクリックボルタンメトリー(CV)などの直流分極測定や交流インピーダンス測定(EIS測定)等を容易に実行できるシステムです。 システムは、Windows PC上から専用のソフトウェア(EC-Lab、ZView)で制御、データ解析されます。これらのソフトウェアは複数の電気化学測定を組み合わせたシーケンス測定や、等価回路モデルを用いたフィッティングなどの詳細なデータ解析なども行うことができます。 更に恒温槽や加熱炉などと組み合わせて、温度変調と電気化学測定を自動化させることも可能です。

電気化学測定システム構成例のイメージ

東陽テクニカでは電気化学測定システムをさらに拡張する自社製ソフトウェアを多数開発しています。

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