技術資料

微小電流測定におけるノイズ対策とその効果

I. はじめに

酸化被膜によって高い耐食性を示す金属材料の分極測定や、センサー等で用いられる微小電極を使用する場合、nAオーダー以下の微小な電流を正確に測定・制御する必要があります。しかし、このような低電流測定では、外部からのノイズの影響を受けやすく、正確なデータの取得が困難になる場合があります。
これは、測定対象の信号が非常に小さいため、環境中のノイズに埋もれてしまい、本来得られるべき信号を正確に捉えられないことが原因です。特に、電源ノイズや周囲の電子機器から発生する電磁波の影響を受けることが多く、これらを適切に対策する必要があります。 本項では、実際に外部ノイズの影響を受けた測定データおよび、その対策方法について示します。

II. 実際の測定例

以下の測定では、100MΩの抵抗に対して10nAの電流を20秒間印加し、その際の電圧変化を測定しました(図1)。この条件下の場合、理論上の電圧は1Vですが、実際の測定結果を見ると、1Vを中心に電圧が上下に振れていることが確認されました。

図1. 100MΩの抵抗に対して10nAの電流を20秒間印加した際の電圧変化

測定データを拡大すると、周期的な波形であることがわかります(図2)。この波形がどのような周波数成分を含んでいるのかを解析するために、EC-Labソフトウェア
「Fourier Transform」という機能を使用しました。解析の結果、図3より測定データには、50Hzの周波数成分が顕著に含まれていることが判明しました。これは、一般的な電源の周波数(50Hzまたは60Hz)に一致するため、本測定系が電源ノイズの影響を受けていることが推測されます(図3)。

図2. 拡大図(100MΩの抵抗に対して10nAの電流を20秒間印加した際の電圧変化)


図3. EC-Labソフトウェアの「Fourier Transform」機能を使用したグラフ

III. 外部からのノイズ対策

外部ノイズの影響を抑えるためには、適切なシールド処置を施すことが有効です。特に、測定対象の電極部や、それに接続するコネクタ部(ワニ口クリップなど)は、外部ノイズを受けやすいため、対策が必要です。有効な対策として、測定対象をシールドボックス内に設置する方法が挙げられます(図4)。シールドボックスを使用することで、外部ノイズを遮断でき、より安定した測定が可能になります。シールドボックスを使用する際には、必ずアース(接地)に接続します。
Bio-Logic社製電気化学測定装置では、装置背面にアース接続用の端子が備わっています。

図4. 外部ノイズの対策例

実際にシールドボックスを使用して測定を行った結果、ノイズの影響が遮断され、より安定したデータを取得できることが確認されました(図5)。

図5. シールドボックスを使用(赤線)、シールドボックス不使用(青線)の電圧変化観察(100MΩの抵抗に対して10nAの電流を20秒間印加)

IV. おわりに

酸化被膜形成により優れた耐食性を持つ金属材料の分極測定や、センサー等で用いられる微小電極を使用する場合、nAオーダー以下の微小な電流を正確に測定・制御する必要があり、なおかつ外部ノイズの影響を受けやすいため、適切な対策が必須です。シールドボックスを適切に使用することで、外部からのノイズを遮断し測定精度を向上させることが可能です。

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