技術資料
薄膜電池の充放電試験における注意点
I. はじめに~薄膜電池は容量が小さい~
二次電池の内部反応を詳細解析する手法として薄膜モデル電池を作成し分析する方法があります。薄膜モデル電池は界面構造を単純化・分析の容易化するため、電池を薄膜化した評価方法であり、リチウムイオン電池だけでなく内部の反応機構に不明点の多い革新型電池にも用いられる手法です。薄膜モデル電池はエネルギー密度の変更はないものの、バルク電池に比べて電極表面積が小さくなり電池自体の理論容量が極端に小さくなります。充放電試験で取り扱う電流は極端な微小電流となります。
微小電流での充放電試験において、使用する装置の電流レンジに注意する必要があり、加えてすべての装置には「内部抵抗」「漏れ電流(バイアス電流)」という仕様があり、装置に接続するだけでサンプルに自動的に印加してしまう電流が発生するため、更なる注意が必要です。
本稿では上記の仕様の説明と、薄膜モデル電池の充放電試験に使用する装置選定での注意点を記載します。
II. 微小電流での測定時に考慮する事項
微小電流での充放電試験において、考慮すべき事項を3点ご紹介します。
・電流レンジ
ポテンショ/ガルバノスタット(電気化学測定システム)や充放電システムは印加できる最大電流だけでなく、電流を印加・測定する際に使用する電流レンジも考慮する必要があります。印加・測定する電流の誤差(精度)はレンジに基づいて決定されることが多く、一般的に「F.S.R.の±0.1%」という仕様が多いです。F.S.R.とはFull Scale Rangeの略称であり、1mAレンジを使用した際、F.S.R.は+1mA~-1mAの2mAとなり、F.S.R.の0.1%は±2μAと算出できます。つまりこの仕様の装置にて1mAレンジを使用した際は±2μAの誤差が発生します。
・内部抵抗
いかなる装置にも内部抵抗という特性が存在します。内部抵抗とは、サンプルから見た装置の抵抗値に相当するものであり、使用されるオペアンプなどの構成部品の影響により装置ごとに個体差があります。一般的に、内部抵抗の値は100MΩ(108Ω)から1TΩ(1012Ω)程度の範囲にあります。例えば、内部抵抗が10MΩの装置に4Vの電池を接続した場合、約0.04μAの電流が放電され続ける計算となります。
・漏れ電流
漏れ電流とは、装置に接続した際に、意図せず装置からサンプルへ流れる微小な電流を指します。装置によっては「バックグラウンド電流」や「バイアス電流」とも呼ばれます。いかなる装置においても漏れ電流は存在し、電流が完全に流れない状態を実現することはできません。
III. どの程度、IIの影響を受けるか
たとえば、理論容量が2 mAhのセルに対して0.1Cレートで充放電試験を行う場合、200 μAの電流で10時間の充電・放電を行うことが想定されます。このとき、1 mAレンジ(測定誤差 ±0.2 μA)、入力インピーダンス100 MΩ(4 Vのサンプルに対して0.04 μA相当)、および漏れ電流1 nA(0.001 μA)という条件下で測定を実施すると、実際に印加される電流は200 μA ±0.241 μAとなります。これにより、10時間の試験で ±2.41 μAhの容量誤差が生じ、理論容量の約0.1%に相当します。
一方、理論容量が20 μAhのセルに対して同様に0.1Cレートで試験を行う場合、2 μAの電流で10時間の充放電を行うことになります。この条件下で10 μAレンジ(測定誤差 ±0.02 μA)を使用し、入力インピーダンス100 MΩ(0.04 μA相当)、および漏れ電流1 nA(0.001 μA)とすると、実際の電流は2 μA ±0.061 μAとなります。これにより、10時間で ±0.61 μAhの容量誤差が生じ、理論容量の約3%に相当します。なお、入力インピーダンスや漏れ電流に起因する微小電流は、開回路状態であっても電池に流れ続けるため、測定を行っていない間にも影響を及ぼします。
充放電試験は通常、単一の充放電で完結するものではなく、複数サイクルにわたる長時間の試験となるため、装置に接続されている間は常にこれらの影響を受けることになります。容量の大きなセルであれば、これらの影響は無視できるほど小さいものの、特に薄膜セルのような微小容量電池においては、入力インピーダンスおよび漏れ電流の影響を十分に考慮する必要があります。
IV. 装置選定の際のポイント
本稿で説明の通り、どの装置でも入力インピーダンス・漏れ電流は発生します。一方で入力インピーダンスが高い装置、バイアス電流が小さい装置を使用することで、装置による誤差を軽減できます。BioLogic社電気化学測定システム アドバンスドモデルでは微小電流オプションが存在します。微小電流オプションを使用した場合、入力インピーダンスは100TΩ(1012Ω)、バイアス電流は0.3pA(定常時)という仕様を有しており、装置による電流誤差の影響を最小限に抑えることが可能です。特に革新型電池のモデル電池においては理論容量が小さく、充放電容量の誤差によるサンプルへの影響が大きいため、BioLogic社電気化学測定システム アドバンスドモデル 微小電流オプションの使用がおすすめです。微小電流オプションの仕様詳細はこちらのオプションを参照してください。
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