技術資料
電気化学インピーダンス測定におけるポテンショ/ガルバノスタットの役割
1. はじめに
近年、電気化学デバイスの物性評価や解析において、インピーダンス測定が広く利用されています。特に電気化学分野では、電気化学インピーダンス法(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)が用いられています。本稿では、EIS測定におけるポテンショ/ガルバノスタットの特長と役割について解説します。
2. 電気化学インピーダンス測定について
電気化学インピーダンス測定では、FRA(周波数応答アナライザ)とポテンショ/ガルバノスタットを組み合わせて測定を行います。一般的なシステム構成を図1に示します。FRAから出力された正弦波をポテンショ/ガルバノスタットへ入力し、ポテンショ/ガルバノスタットは必要に応じて直流電圧を重畳して測定対象へ印加します。測定対象から得られた応答信号(電圧および電流)はポテンショ/ガルバノスタットを介してFRAへ送られ、FRAがインピーダンス値を算出します。本稿では、電気化学インピーダンス測定におけるポテンショ/ガルバノスタットの役割について説明します。

図1. 電気化学インピーダンスシステムの構成例
3. ポテンショ/ガルバノスタットの役割
3-1. 直流電圧または直流電流制御
電気化学デバイスの多くは起電力(直流電圧)を有しています。ポテンショ/ガルバノスタットは、オペアンプ(OPアンプ)を利用したフィードバック制御によって、測定対象の起電力に対応した電圧となるよう自動的に制御します。これをフィードバック・ループ機能といいます。電圧制御と電流制御のいずれにも対応可能です。
インピーダンス測定では、設定した直流電圧または直流電流に対して、FRAからの微小な正弦波(Sin波)を重畳し、測定サンプルへ印加します。
3-2. バイアス除去機能
起電力を有する測定対象(電池や三電極セルなど)の電気化学インピーダンス測定では、直流信号と交流信号を重ねて印加し、その応答信号を測定します。そのため、ポテンショ/ガルバノスタットで取得した電圧信号および電流信号には、大きな直流バイアス成分が含まれます。
一方、FRAでは交流成分のみについて振幅および位相差を解析しているため、大きな直流成分を含む信号から微小な交流信号を抽出する必要があります。この状態では測定レンジが広くなり、測定確度の低下を招く可能性があります。
直流成分を除去する方法としてローパスフィルタの利用が考えられますが、この方法では低周波数領域の交流成分も減衰してしまうため適切ではありません。そこで、この直流成分を除去するために、インピーダンス測定用のポテンショ/ガルバノスタットにはバイアス除去機能が搭載されています。
ポテンショ/ガルバノスタットは直流バイアス成分を既知の値として把握しているため、その成分をアンプによって差し引き、交流成分のみをFRAへ送ることができます。これにより、高い測定確度を維持したインピーダンス測定が可能になります。
3-3. 周波数応答性
電気化学インピーダンス測定において重要な装置仕様の一つが、ポテンショ/ガルバノスタットの周波数応答性です。たとえFRAの周波数範囲や測定確度が優れていても、ポテンショ/ガルバノスタットの周波数応答性能が同等でなければ、システム全体として十分な性能を発揮できません。そのため、装置選定時には周波数応答性を十分に確認する必要があります。
一般に、交流電源、発信器、増幅器などの交流信号出力機器では、周波数帯域が以下のように表現されます。
・-3dB=交流信号の電力が設定信号の1/2になる周波数
・=電圧波形が約30%歪む(P=V²/R)周波数
実際に、出力信号が設定信号よりも30%歪んだ波形でインピーダンス測定を行った場合、正確な測定結果は得られません。また、周波数応答性は、測定対象物と測定ケーブルの抵抗値の比、容量性リアクタンス値、誘導性リアクタンス値によっても変化するため注意が必要です。

図2. アドバンスドモデルのインピーダンス確度マップ
3-4. 電圧/電流測定レンジ
電子計測機器全般に共通することですが、大きな測定レンジで小さな信号を測定すると誤差の影響が大きくなります。そのため、測定値に近いレンジを選択できることが重要です。
測定レンジをAuto設定にしている場合、レンジ切り替えの境界付近では測定値が変化する場合があります。この影響を抑えるため、装置メーカーはレンジ数を増やしたり、各レンジの使用範囲を最適化したりしています。
レンジ切り替えによる測定値の変動が問題となる場合は、測定レンジを固定する方法が推奨されます。ただし、周波数掃引に伴って測定値が大きく変化する場合は注意が必要です。
また、Bio-Logic社製ポテンショ/ガルバノスタットでは、電流レンジ設定として「Fixed」と「Auto」に加え、「Auto Limited」が選択可能です。図3に示すように、Auto Limitedでは電流レンジの上限値と下限値を指定できるほか、測定開始時の電流レンジ(I Range Init)も設定できます。これにより、広範囲に変動する電流値に対して柔軟なレンジ制御が可能です。

図3. Auto Limitedの設定画面
- Bio-Logic社電気化学測定システム
- ・ハードウェア
- ・EC-Lab
- ・トラブルシューティング
- ソフトウェア
- ・Zviewおよび東陽テクニカ製ソフトウェア
- 電気化学測定
- ・基礎電気化学
- ・インピーダンス
- ・バッテリー
- ・腐食
- ・その他
- 燃料電池
- ・燃料電池評価





