技術資料

インピーダンス測定における測定法と特長

I. はじめに

近年、イオン伝導体を用いた固体電解質や、半導体・誘電体などの物性評価に加え、二次電池、燃料電池、水電解といった電気化学デバイスの解析において、インピーダンス測定が広く活用されています。特に電気化学分野では、電気化学インピーダンス法(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)が、電極と電解質の界面状態を評価するための重要な手がかりとして多用されています。

II. インピーダンス測定のメリット

インピーダンス測定の大きな特徴の一つは、測定対象に対して非破壊で測定を行える点にあります。微小な交流信号を印加し、その応答からインピーダンスを算出するため、対象物に与えるダメージは極めて少なく、高い再現性を確保できます。この特性により、インピーダンス測定は各種電気化学デバイスの評価および解析に最適な手法として広く採用されています。

III. FRA(周波数応答アナライザ)と他の手法との比較

インピーダンス測定にはいくつかの方法がありますが、本稿では電気化学分野で広く用いられている周波数応答アナライザ(FRA:Frequency Response Analyzer)について説明します。
FRAは当初、サーボアナライザとして電気回路や機械制御回路の伝達特性を解析する計測器として開発されました。電気化学分野での利用は1980年頃から始まりました。それ以前は、アナライザの出力結果を手書きで記録するか、ペンレコーダに出力する方法が主流でしたが、パソコンの高性能化に伴い測定が格段に簡便化されました。
FRAの測定原理は、単一正弦波相関法(SSC:Single Sine Correlation)と呼ばれるデジタル相関法に基づいています。Bio-Logic社のポテンショ/ガルバノスタットもこの方式を採用しており、基本確度は位相で0.3°、振幅は0.3%と高精度に結果を得られます。このため、周波数分析において比較的高い確度の測定結果が得られ、特に1mHz以下の低周波数領域の測定やノイズが多い測定系に対して有効な手法とされています。さらに、FRAはポテンショスタット/ガルバノスタットと組み合わせることで、起電力を持つ二次電池や燃料電池などの電気化学デバイスに対しても正確な測定が可能です。

なお、インピーダンス測定には他にLCRメータ、FFT(高速フーリエ変換)アナライザ、ロックインアンプなどの方法も存在します。 以下に、各測定機器の測定周波数範囲と基本確度を簡潔に比較した表を示します。

表1. 各種測定器による性能比較表

IV. 単一正弦波相関法とは

FRAは、入力信号に対してフーリエ変換を行うことでインピーダンススペクトルを測定しており、単一周波数を印加できる点が大きな特徴です。構成としては、正弦波(Sine波)発信機と、応答信号の大きさおよび位相を測定するアナライザ(分析器)から成り立ちます。正弦波発信機から測定対象に単一周波数のSine波を出力し、測定対象からの応答信号をFRAに戻して、アナライザで基準信号と同期させた上でサンプリングおよびデジタル処理を行います。
発信機から sin(ωt)の信号が出力された場合、測定対象から [B0 +B1 sin(ωt+Θ1) + B2 sin(2ωt+Θ2) +・・・+ Noise] といった応答信号が得られます。分析処理においては、応答信号中の係数B1の項以外をすべて除去する必要があります。B2以降の項は、高調波歪み成分に相当します。
まず、分析器では参照信号となる発信機からの出力信号と同位相のSine波 sin(ωt)、および90°位相をずらしたSine波 cos(ωt)を応答信号に掛け合わせる処理を行います。この処理により、応答信号(インピーダンス)を実数成分と虚数成分に分けることが可能になります。これによって、応答信号中から発信機の出力信号と同一周波数の成分のみが抽出され、インピーダンスの実部および虚部の大きさと位相が得られます。
さらに、高調波歪み成分を除去するために積分処理が行われます。積分回数を増やすことで、測定周波数のバンド幅フィルタが狭くなり、高調波歪み成分がより効果的に除去されます。ただし、積分回数を増やすことは測定時間の長期化とトレードオフの関係にあるため、注意が必要です。

FRAの模式図を図1に示します。

図1. FRAの模式図

V. まとめ

現在、電気化学デバイスの研究開発においては、FRAを用いた電気化学インピーダンス測定が広く活用されています。 当社では、取得したインピーダンスデータの解析手法として複数のソフトウェアを開発・提供しており、 具体例としては、緩和時間分布(Distribution of Relaxation Times:DRT)を用いた時定数解析や、ランダムウォーク法に基づく等価回路解析があります。 これらの解析を適用することで、得られたデータのより定量的かつ詳細な評価が可能です。

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