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クーロン効率ブログシリーズ:第4部/全5回 - 充電終点容量のスリッページについて - NOVONIX

本書はNOVONIX社が発行する” Coulombic Efficiency Blog Series: Part 1 of 5 – Introducing Coulombic Efficiency”を2025年12月時点で翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。

1. はじめに

クーロン効率(CE)を評価する際には、測定されたCEの値がセル内部のどのような反応や劣化を反映しているのかを理解すること、そして、その値を用いてセル性能を数値的に比較・評価する方法を把握することが重要です。
さらに、異なるレートや電圧範囲でサイクルされたセルを公平に比較するためには、サイクル時間を基準に単位時間あたりの値へ換算する必要があります。その際に有効なのが、1時間あたりのクーロン非効率(CIE/hr)を用いた評価や、容量劣化の分析です。
CEおよびCIE/hrは、従来の長期サイクル試験と比較して、セルの劣化を短時間で定量化できる手法として有効です。また、あるセルのCEが他のセルよりも低い理由を明らかにするには、充電終点容量のスリッページ(Charge Endpoint Capacity Slippage)の測定も併せて行う必要があります。

2. 充電終点容量のスリッページとは

充電終点容量のスリッページとは、実際には容量劣化が起きていないにもかかわらず、充電時に放電時よりも多くの容量が測定される現象を指します。これは、セル内で発生する副反応などにより、一部の容量が実質的に「無駄に消費されている」ことを示しています。

多くの場合、同一サイクル内では放電容量が充電容量よりも小さくなり、クーロン効率(CE)は1.000000未満となります。しかし、次の充電容量が前回の放電容量よりも大きくなる理由は、直感的には理解しづらいかもしれません。この現象の背景にあるのが、充電終点容量のスリッページです。 スリッページは、容量劣化と密接に関連する現象であり、セルのCEを構成する重要な要素のひとつです。容量劣化が、正極からのリチウムイオン(いわゆる「リチウム在庫」)が不可逆反応によって失われる現象であるのに対し、スリッページは、必ずしもリチウム在庫を消費しない他の反応によって生じます。

たとえば、放電時に電子が正しく検出されず容量が過小に評価される一方で、充電時には余分な電子が検出され容量が過大に評価されることがあります。リチウムイオン電池は、複雑に相互作用する多くの構成要素を持つため、スリッページを引き起こすメカニズムも多岐にわたります。
このように、充電終点容量のスリッページを正しく理解し、CEや容量劣化との関係性を把握することは、セル性能を正確に評価するうえで非常に重要です。

3. スリッページの仕組み

バケツのたとえで見るスリッページ

ここではスリッページをイメージするために、充電を「バケツに水を注ぐ作業」、放電を「バケツから水を注ぎ出す作業」として考えてみましょう。バケツには小さな穴が空いており、水を注いでいる間にも、注ぎ出している間にも水が漏れてしまいます。
このとき、充電容量を「注いだ水の量」として測定すると、放電前に漏れた分の水も含まれてしまいます。一方で、放電容量を「注ぎ出された水の量」として測定すると、放電中に漏れた水は含まれません。
このように、バケツを満たしてから空にするまでに漏れた水の量は、充電容量と放電容量の差として現れます。これが、充電終点容量のスリッページに相当します。スリッページは、放電容量が充電容量よりも小さくなる主な原因のひとつです。 なお、漏れた水の量は直接測定できなくても、水位の変化から推定することが可能です。これは、スリッページがリチウム在庫を消費しない副反応やメカニズムによって生じる容量の差であることと同じです。

4. スリッページの電気化学的背景

充電終点容量のスリッページがどのように発生するのかを理解するために、ここではその電気化学的な背景について解説します。
セルの容量は、各サイクルにおいてセル回路を流れる電子の数、すなわち電流を測定することで決まります。リチウムイオン電池では、回路を流れる1つの電子が、1つのリチウムイオンの挿入または脱離に対応すると仮定されています。これが、エネルギーの出入りを担う基本的な「電気化学反応」です。

4-1. 電子とリチウムイオンの対応関係を乱す反応

セル内では、この対応関係を乱す反応も存在します。たとえば、電解液の酸化反応がその一例です。これは、電解液の還元反応とは異なり、リチウム在庫を消費せず、電解液中のリチウムイオンを介して進行します。
この反応は通常、正極表面で発生し、充電時と放電時で異なる挙動を示します。

●充電時:電解液中の成分が正極に電子を渡して酸化され、正に帯電します。このとき、電子が回路を流れ、電解液中のリチウムイオンが負極に挿入されます。正極からリチウムが脱離していないにもかかわらず電子が流れるため、見かけ上の充電容量が増加します。

●放電時:電解液中の成分が、電解液中のリチウムイオンとともに正極に挿入されますが、このとき対応する電子が回路を流れないため、見かけ上の放電容量が減少します。

これらの反応では、電解液中のリチウムイオンがリチウム在庫に加わることになります。

4-2. スリッページを引き起こすその他の要因

充電終点容量のスリッページは、上記のような電解液酸化反応以外にも、以下のような要因によって生じることがあります:

●電極間の可逆的なレドックスシャトル反応
●セパレーターを貫通するデンドライト成長などによる機械的な自己放電
●セル内部の欠陥

これらのメカニズムは、見かけ上の充電容量の増加や放電容量の減少を引き起こし、スリッページとして現れます。

4-3. スリッページが電圧-容量曲線に与える影響

このような充放電の非対称性は、電圧と累積容量の関係を示す曲線にも明確に現れます。各サイクルにおいて、充電終点の容量が徐々に右方向へずれていく様子が、図1(左図)に示されています。これが、充電終点容量のスリッページです。
図1の左側のパネルには、スリッページの程度が異なる2組のセルにおける電圧–容量曲線が示されています。容量劣化と同様に、スリッページも以下の2つの方法で可視化できます:

•累積スリッページ(図1(a)):各サイクルの充電終点容量を初回サイクルと比較し、総スリッページ量を示します。
•相対スリッページ(図1(b)):サイクルごとの変化量(n回目とn-1回目の充電終点容量の差)を示します。

これら2つの視点からスリッページを評価することで、酸化反応の進行速度や、これまでに発生した反応の総量に関する洞察を得ることができます。

図1. 2組のペアセルの電圧ー容量曲線、(a)各サイクルの充電開始時の容量を最初のサイクルと比較して算出、(b)サイクルnとサイクルn-1の充電容量の差から算出

図1. 2組のペアセルの電圧ー容量曲線、(a)各サイクルの充電開始時の容量を最初のサイクルと比較して算出、(b)サイクルnとサイクルn-1の充電容量の差から算出

5. クーロン効率を構成する要素

容量劣化と充電終点容量のスリッページは、いずれもセルのクーロン効率(CE)を構成する要素です。ただし、それぞれ異なる反応メカニズムによって生じるため、CEの内訳を分けて評価することが重要です。
セルを比較・評価する際には、容量劣化とスリッページの両方をサイクル時間あたりに換算し、CIE/hrとして評価することで、異なるレートや電圧範囲でサイクルされたセル間でも公平な比較が可能となります。

本稿で紹介したNOVONIX UHPCシステムの詳細については、こちらの製品ページをご参照ください。

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