技術資料

誘電正接(Tanδ)について

1. 概要

誘電体の物性評価を行うにあたり、評価結果となるパラメータのひとつとして誘電正接(Tanδ)がたびたび登場します。本稿では、この誘電正接についての説明を行います。誘電正接は「Tanδ(タンジェントデルタ)」とも呼ばれ、これを略して「タンデル」と広く呼ばれています。また、DF(Dielectric Dissipation Factor)と表記されることもあります。

2. 誘電正接の基礎的事項

誘電体として最も有名で、身近なものとしてキャパシタ(コンデンサ)があります。ここではキャパシタを例にして、説明を進めていきます。キャパシタに対して電圧を印加、つまり、外部から電荷を与えたときに、キャパシタはその電荷を蓄える働きをします。

図1. キャパシタの充電過程

もし、与えた電荷を全て損失無く蓄えられることが出来れば、それは理想的なキャパシタとなりますが、実際のキャパシタには、抵抗のような損失を生じさせる成分が存在し、与えた電荷、つまりエネルギーを全て溜め込むことが出来ません。特に高周波の信号を用いるような場合に、このエネルギーの損失は大きくなることが知られています。誘電正接は、この入力したエネルギーに対して、損失となってしまったエネルギーの割合を表すパラメータになります。

3. 誘電正接の理論的事項

理想的なキャパシタに対して電圧を印加し、流れる電流を観測するとき、印加電圧Eの位相に対して、キャパシタに流れる電流Icの位相は90°進みます(図2)。この時、キャパシタに流れる電流Icは、回路全体に流れる電流Iと一致することになります。キャパシタに印加電圧および印加電流が全て流れ込み、蓄えられることになるので、この時の誘電損失はゼロとなります。

図2. 理想的なキャパシタへの印加電圧Eと流れる電流Icの関係

一方、実際のキャパシタを模擬するものとして、キャパシタ自体に抵抗成分が並列に存在した場合について考えてみます。この時には、回路全体に流れる電流Iが、抵抗成分に流れる電流Irと、キャパシタに流れる電流Icに分かれることになり、キャパシタに蓄えられるエネルギーが減少します。このエネルギーの減少分の指標として誘電正接が用いられ、理想的な状態での電流Icと、回路全体に流れる電流Iとが成す角をδとして表し損失角と呼びます。この時、損失に関わる電流のIrは、Ir = I - Icで表されるため、図示すると以下のようになります。

図3. 実際の状態を模擬したキャパシタへの印加電圧Eと流れる電流Iの関係

このような関係としてあらわされるため、誘電正接であるTanδは次のように定義されます。

誘電正接Tanδの式

4. Q値との関係

キャパシタの特性値として、Q値(Quality factor)が存在します。このQ値は誘電正接の逆数であるため、次のような関係があります。

コンデンサの特性値Qの式

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