技術資料
液体電極を使った誘電率測定
I. はじめに~液体サンプルにおける誘電率測定について~
近年、電子機器の小型化・高速化が進む中、使用される材料の特性を評価する上で誘電率は重要な評価指標の一つです。誘電率は物質の分極のしやすさ(電気を蓄えられる大きさ)を示すパラメータであり、材料の基礎物性評価に広く用いられます。
測定対象には粉体、薄膜、液体などがあり、対応した専用の治具を用いることで精度の高い測定が可能です。しかし、液体の誘電率測定に適した治具は一般に少なく、再現性の高い測定を行うことが困難です。当社では液体の誘電率を安定かつ高精度に測定可能な専用サンプルホルダをラインアップしており、温度・周波数依存性を含めた誘電特性の評価に対応しています。
II. サンプルホルダについて
■II.1 4端子サンプルホルダSH2-Z
4端子サンプルホルダ SH2-Z(図1)は、4端子接続に対応しており、最小100mΩと低抵抗なサンプルの測定に適しています。また、ガード電極構造を有しているため、低い誘電率の材料や高抵抗材料においても高い精度で評価可能です(図2)。測定温度範囲は30℃~165℃であり、恒温槽内を使用したサンプルの温度特性がとれます。さらに、揮発性の高いサンプルに対応した密封型電極(オプション)では、大気暴露できないサンプルの評価に有効です。
図1. SH2-Z本体(左)、SH2-Zの液体用サンプルホルダ
図2. 電極の側面構造
■II.2 液体電極SR-C2型
液体電極SR-C2型は液体測定用のサンプルホルダ(図3)であり、100mΩ~1TΩの広範囲において、液体試料のインピーダンスおよび誘電率を測定・評価することが可能です。SR-C2型が持つ静電容量は約2pF、重さはわずか200gと軽量であり、微量でも測定可能なため、高価なサンプルの評価に最適です。
図3. 液体電極SR-C2
III. 測定と解析について
<測定について>
液体電極を用いた測定例を示します。測定装置にはマテリアルインピーダンスアナライザ(東陽テクニカ製MIA-5M)を使用します。
測定手順:
① 液体サンプルの測定前に液体電極の空セル容量(C0)を測定します。この空セル容量(C0)は測定したいサンプルの比誘電率を測定するために必要です。
② 液体サンプルを注液します。液体電極SR-C2を使用する場合は、液体電極液体試料挿入口から液体サンプルを1~2mL注入します。
③ 測定を開始します。SH2-ZまたはSR-C2を使用した測定では、液体サンプルを下電極と上電極で挟みます。誘電率測定の場合、サンプル間の廻り込みによる浮遊容量を除去するためガード電極を設けます。廻り込んだ電流はガード電極を通ってグランドに落ち下部電極の中心部主電極を通った電流のみを測定します。誘電率、導電率を評価する場合、この主電極径とサンプル、厚みの値より算出します。
<解析について>
ZView等価回路解析ソフトウェアで解析する場合の手順を以下に示します。
ボード線図で右クリック→「Set up」を選択し、表示される[set up bode axis]ウィンドウにて[mode]の[Parallel LCR]を選択してOKを押すとキャパシタンスとしてのグラフが確認できます。
基本的には2pF程度の空セル容量(C0)で除算することで比誘電率に換算することが可能です。
ただし、理論値にて換算した場合、換算値にばらつきが出る可能性があるため、サンプルごとに空セル容量(C0)を測定することを推奨します。
図4. ZViewの設定画面
図5. ZViewの解析結果画面
IV. まとめ
液体電極を使用することで様々なサンプルの誘電率を測定でき、さらに温度や周波数に依存するサンプルでも精度よく測定可能です。また、高抵抗なサンプルに対してはインピーダンスアナライザMIA-5Mを使用することが有効です。
SH2-Zサンプルホルダは粉体、薄膜のみならず液体で揮発性の高いサンプルや、温調により温度依存性を評価したいサンプルの評価に最適です。4端子接続による低インピーダンス測定や、ガード電極による再現性の高いインピーダンス測定が可能であり、さらに恒温槽を使用すると最大165℃までの温度依存性評価もできます。
SR-C2は簡易的に液体サンプルの評価でき、微量で評価可能であるため、高価なサンプル評価に最適です。弊社で取り扱いの各インピーダンスアナライザは以下の製品一覧の通りです。
インピーダンスアナライザ一覧
V. 参考文献
1) 弊社作成 SH2-Z 取扱説明書
1)
2)参考URL:SH2-Z型 4端子サンプルホルダ | 東陽テクニカ | “はかる”技術で未来を創る | 脱炭素/エネルギー
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