技術資料

誘電率測定 概説

1.誘電率測定

誘電率とは物質の分極のしやすさ(電気を蓄えられる大きさ)の指標で、コンデンサ用材料や絶縁体の性能評価において一つの指標となります。
例えば、誘電率が高ければ高いほど蓄えられる電気量が大きくなるので、コンデンサ材料としては優秀なものになります。
逆に絶縁体は電荷が溜まることを防ぐために誘電率は低ければ低いほど良い材料といえます。また、コンデンサ材料や絶縁体材料は総じて漏れ電流(誘電損失)が小さい材料が要求され、その度合いも誘電率測定を行うことにより評価することが可能です。
誘電率を測定することは、誘電体・絶縁体の特性を評価する上で大変重要な情報となるため、誘電率を計測する装置は汎用的に使用されます。

2.誘電率測定が可能な計測器の一例と測定に必要なサンプルホルダ

物質の誘電率は温度や周波数に依存するため、用途に合わせて様々な温度や周波数で測定します。
特に周波数範囲はmHz~GHzという広範囲で測定されることが多く、1種類の計測器ではカバーしきれないことがあります。
本項では、当社で取り扱いのある低周波帯域(約100MHz以下)で使用される「容量法」を使用した計測器と必要なサンプルホルダに関して紹介します。
容量法を使用した計測器は、測定試料を2枚の電極に挟んでコンデンサを形成させ、電圧または電流の交流を試料に印加し、応答する電流または電圧の交流の振幅や位相差を測定し、インピーダンスを求めます。
この測定にはよくインピーダンスアナライザと呼ばれる装置を使用します。
測定したインピーダンス値から、誘電率や誘電損失を計算することが可能です。
低周波帯域で誘電率を計算する場合、この手法を用いることがほとんどですが、高周波帯域では「共振器法」や「同軸・導波管法」、「フリースペース法」といったように様々な手法が提案されています。容量法は他の測定手法と比較すると以下の特徴があります。

  • 周波数範囲:数μHz~数100MHz
  • (他の誘電率測定手法と比べると)比較的安価
  • (他の誘電率測定手法と比べると)比較的サンプルの加工の自由度があり、測定が容易
  • 低損失サンプル(絶縁体)の測定が機器によっては困難

当社取り扱い
インピーダンスアナライザ一覧

数μHz~数100MHzという周波数範囲は上述の通り、試料を2枚の電極で挟むだけで測定が可能になるため、どのような状態(固体、液体)でもどのような環境温度(マイナス100℃以下から1000℃以上)でも、状態に合わせてサンプルホルダを購入または製作すれば良いため、比較的測定が容易です
そのため、誘電率測定は、コンデンサ用の誘電材料・回路基板に使用される絶縁材料の評価、液晶材料の不純物イオン混入調査、有機半導体の移動度測定、固体電解質の電導度評価など、様々な用途で使用されています。

※容量法を使用した誘電率測定の場合、ほとんどの周波数帯域では測定が容易ですが、1MHzを超える周波数帯域での測定は交流電気信号を正常に伝送させるサンプルホ ルダを設計しなければならず、サンプルホルダの形状に制限が出てきます。
その影響で、サンプルの加工にも制限がでてくることがあるため、測定の難易度は高くなるので注意が必要です。

弊社取り扱い
サンプルホルダ比較表

以下に各状態のサンプルのセットアップ例を示します。

例1

例1:フィルム状の試料を測定する場合⇒電極付きサンプルホルダを使用

例2

例2:試料にすでに電極が蒸着されている場合⇒導線を配線しそのまま測定

例3

例3:液体試料を測定する場合⇒器型の電極付きサンプルホルダを使用

3.誘電率の計算方法

3ー1 誘電率の計算

容量法では以下の図のように試料を2枚の電極で挟みこんでコンデンサを形成し、測定した容量値から誘電率を算出します。理想的なコンデンサの場合、計測器で測定されたC(キャパシタンス)から、以下の式を用いて誘電率を算出することができます。

式(1)

S:電極の面積 d:電極間隔 εr:試料の比誘電率 ε0:真空の誘電率

上記式より、使用する電極の面積及び電極間隔がわかれば比誘電率の算出が可能です。
また、電極の面積及び電極間隔の情報がない場合でも試料がない状態での電気容量C0(幾何容量や空セル容量とも呼ぶ)の情報があれば以下の式のように比誘電率の算出が可能です。

式(2)(3)

3-2 理想的なキャパシタと実際

インピーダンスアナライザを用いて理想的なコンデンサを測定する場合、以下の式から算出することが可能です。

式(4)

|Z|:インピーダンスアナライザで測定されたインピーダンスの絶対値
ω:角周波数(=2πf) ※fは測定した周波数

理想的なコンデンサの場合、外部から与えられた電荷は損失なく充電されます。
しかし、コンデンサの場合、電極の接触抵抗、電極に電子を受け渡して電流が漏れるなどの現象(エネルギーの損失)が存在するため、実際にはそれも含めた評価をする必要があります。
その表現方法として複素平面を用いて表現します。
損失も含めた誘電率ε*の式はは以下の通りです。

式(5)

ε’:電荷を充電するファクター(誘電率)
ε”:損失に関係するファクター(導電率)

3-3 測定されたインピーダンスから複素誘電率を計算する方法

インピーダンスアナライザは交流の電圧または電流を印加し、その応答振幅の大きさからインピーダンスの大きさを測定します。(交流信号であっても直流と同じく、オームの法則V=IRから「交流の抵抗(=インピーダンス)」を測定します。)また、直流の抵抗とは違いインダクタンスLやキャパシタンスCが測定できるようになります。これらに交流信号を印加すると、応答する交流信号が遅れたり、進んだりします。このずれの指標を位相と呼び、直流の抵抗測定にはなかった位相のずれからインダクタンスやキャパシタンスを算出できるようになります。インピーダンスも上述した誘電率のようにこの位相ずれを表現するために、複素平面を用いて表現します。

式(6)

インピーダンスアナライザは上記のZ‘とZ“を測定します。複素誘電率のε’とε”を求める方法は以下の通りです。
キャパシタンスのインピーダンスは以下の式が成り立ちます。

式(7)

式(5)(6)を式(7)に代入し、ε’とε”を求めます。

式(8)(9)(10)

また、損失に関係する指標として誘電正接(誘電損失)があります。
それらは以下の式で示すことができます。

式(11)

また、式(11)に式(9)(10)を代入すると誘電正接は以下の式でも算出できます。

式(12)

式(12)から誘電損失は誘電率の実部に対する虚部(=損失)の割合のため、誘電損失が大きいということは、接触抵抗や漏れ電流によるエネルギー損失の割合が大きいことを表します。
つまり、誘電損失を算出することによって試料の絶縁性の評価に応用することが可能であるといえます。

※本項ではインピーダンスアナライザを用いた誘電率の計算方法について述べましたが、近年販売されているインピーダンスアナライザに付属されるソフトウェアや解析ソフトウェアには誘電率を自動で計算する機能が備わっております。

4.容量法を使った誘電率測定における注意点

4-1 ガード電極の必要性

測定試料の絶縁性が高い場合、以下図に示す通り、浮遊の容量も一緒に測定してしまい、測定した容量値は実際よりも大きく見えることがあります。
これを回避するためには、「ガード電極」を用います。
ガード電極を電極の外側(以下図ではリング状の電極)に位置し、その電極を接地することにより、外側に発生した電界を吸収する効果があります。
これにより測定される容量値は誘電体に流れる電流のみを測定することができます。

例

例:ガード電極の効果

4-2 電極とサンプルの接触

並行板を用いた電極を用いて試料を挟みこむサンプルホルダはフィルム状の試料を挟むだけで測定が可能になるため、とても簡便に測定ができますが、注意点もあります。
サンプルが平行で表面が平らでなければ、電極とサンプルの間に空気の層が発生し、測定誤差につながります。
電極と試料の間の隙間を埋めるために間に金箔などを挟むか、サンプルホルダを使用せず直接サンプルに電極を蒸着させて測定することをお勧めします。

例

例:凹凸がある試料をサンプルホルダにセットする際の注意点

4-3 延長ケーブルによる影響

試料を恒温槽の中に入れ、環境温度を整えて測定する場合、どうしても測定ケーブルが長くなる傾向にあります。このような場合、以下の点について注意が必要です。

100kHz以上の測定
以下図に示す通り延長配線により寄生インダクタンス、寄生キャパシタンス、接触抵抗の影響が大きくなり、測定値に誤差を生じやすくなります。
これは主に100kHz以上の測定をする際に顕著に現れます。
これを回避するため、インピーダンスアナライザに付属の機能であるオープン/ショート補正を使用し、これらの影響を補正する必要があります。(どのような試料でもケーブルを延長するケースがほとんどのため、上記の補正機能は必ず用いることをお勧めしています。)

例

例:ケーブルによる影響

150℃以上の測定環境下の場合、同軸ケーブルが使用できない
1MHz以上のインピーダンスを測定する場合、試料と計測器をつなぐ同軸ケーブルは非常に重要な役割を果たします。
同軸ケーブルは交流電気信号を伝送できるように設計されており、試料近傍以外は同軸ケーブルで構成することが重要です。
しかしながら、市販されている耐熱性のある同軸ケーブルの耐熱温度は150℃までです。それ以上の温度で測定をする場合、裸線を用いることが多く、このような状況下では交流信号をうまく伝送することができず、実質1MHz以上のインピーダンス測定は測定困難となります(電気信号が伝送されないため、上述したオープン/ショート補正も効果がありません)。

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