技術資料
疑似容量(CPE)の計算
本内容はBioLogic社が発行するApplication note #20を2025年4月時点で翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。
1.はじめに
一部の測定系では、ナイキスト線図のプロットは、中心が実軸より下に位置する半円を示します。この特性は、電極表面が完全に滑らかでない場合に発生します。この“沈んだ”半円は、R/C回路の代わりにR/Q回路を使用することで、完全な半円をシミュレートできます。これにより、C素子の代わりにQ素子を用いた場合、擬似容量と呼ばれる等価容量を計算するのに役立ちます(図1)。 この計算は回路(R/Q)に対してのみ可能です。これは、回路(R/Q)でフィッティングすることで得られるナイキスト円上の最大虚数部に対応する角周波数ωc = 2πfcにおける容量値Cの決定に相当します。そして、この値は次式の解となります。
α及びQはCPEパラメータ[1, 2]
図1. 等価電気回路R/QとR/Cと対応するインピーダンスプロット(ナイキスト線図)
2.実験部
本アプリケーションノートでは、正極にLiFePO4を使用したリチウムイオン電池のシステムを研究対象としました。インピーダンス図は、図2に示す設定、すなわち10kHz~10mHzの範囲で、Va = 10mV、pw = 1、Na = 1、ドリフト補正ボタンをオンにして記録しました。得られたインピーダンス図を図3に示します。 ZFitツールを使用して、等価回路L1+R1+Q2/R2+Q3(図4)でデータをフィッティングしました。この回路はZFitツールの電気回路リストに存在しないため、ユーザーはEditメニューを使用してこの回路を追加する必要があります。
図2. PEISのパラメータ設定
図3. LiFePO4バッテリーのナイキスト線図(青)およびL1+R1+Q2/R2+Q3等価回路でのフィッティング結果(赤)
図4. L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路
Equivalent Circuit Editionでは図5に記載されているようにL1+R1+Q2/R2+Q3の等価回路を定義し追加ボタンを押すことにより、追加できます。(新しい回路は青色で表示されます。)
図5. ZFitで新しい等価回路を追加する方法
ZFit等価回路解析の結果を図6に示します。図3に示した通り、測定結果と解析結果はよく一致しています。
実験データのフィッティングに使用した等価回路にはR/Q回路が含まれています。これにより、擬似容量を計算することができます。ZFitウィンドウで「PseudoC」ボタンを選択すると、図7に示すウィンドウが表示されます。これは、EC-Lab®およびEC-Lab® ExpressのZFit解析ツールでは、擬似容量の計算が自動的に実行されることを意味します。
しかしながら、図8に示す等価回路L1+R1+Q2/(R2+Q3)もこの図にフィットすると考えられます。図9に示すように、得られたフィッティング(赤)は実験データ(青)とよく一致しています。パラメータは図10に示すZFitウィンドウに表示されます。
ただし、この等価回路Q/(R+Q)で擬似容量値を計算することは不可能です。計算可能なのはR/Q回路です。
図6. L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路で得られたインピーダンス解析結果
図7. L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路で得られた疑似容量計算結果
図8. 1+R1+Q2/(R2+Q3)の等価回路
図9. LiFePO4バッテリーのナイキスト線図(青)および L1+R1+Q2/(R2+Q3)等価回路でのフィッティング結果(赤)
図10. L1+R1+Q2/(R2+Q3)等価回路で得られたインピーダンス解析結果
図6と図10のχ²値が非常に近いため、2つのフィッティングを区別することはできません。同様に、2つの回路(図6と図10)のフィッティングパラメータの値も非常に近いです。
今回の2つの電気回路L1+R1+Q2/R2+Q3とL1+R1+Q2/(R2+Q3)のように、解析結果が等価になる場合が稀にあることに注意してください。
3.まとめ
このアプリケーションノートでは、EC-Labソフトウェアの機能であるZFit等価回路解析を使用して、R/Q回路の疑似容量を計算する方法を示しました。この計算は、LiFePO4バッテリーで得られたデータを用いて行いました。また、ZFitを用いて等価回路を編集・作成する方法も示しました。
この方法により、私たちは材料の不均一性を観察することができます。また、インピーダンス解析結果より、均一な表面を有した電気化学系に似せた計算(疑似容量の計算)も可能です。
参考文献
1) Handbook of EIS “Electrical circuits containing CPEs”
2) E. Barsoukov, J. Ross Mac Donald, Impedance spectroscopy, 2nd Edition, (2005).
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