技術資料

測定ケーブルの寄生インダクタンスについて

1. はじめに

サンプルの電気的特性を正確に測定するためには、適切な電線・ケーブルの選定が重要です。特に電気化学測定で頻繁に用いられるインピーダンス測定では、ケーブル自体が持つインダクタンス成分が測定結果に影響を及ぼす場合があります。

2. ケーブルの寄生インダクタンスとその影響

インダクタンスとは、一般的にコイルに電流が流れた際に発生する誘導起電力の大きさを表す物理量です。ストレートな電線も微小ながらインダクタンスを持っており、これを寄生インダクタンスと呼びます。一般的な電線では、断面積にもよりますが、1mあたり約1μH程度の寄生インダクタンスが存在するとされています。

電気化学測定では、この寄生インダクタンスの影響を無視できない場合があります。例として、二次電池評価でよく用いられるインピーダンス測定において、ケーブルの寄生インダクタンスが測定結果へ与える影響を見てみましょう。測定系の等価回路を図1に示します。

図1

図1. 二次電池の評価における測定系の等価回路

この電池の固有値である溶液抵抗は、Cole-Coleプロット(ナイキスト線図)における実軸との交点として表されます。詳細は以下をご参照ください。

■参考記事:リチウムイオン電池のインピーダンス測定 EC-Lab®ソフトウェアの測定条件最適化

通常はインピーダンス測定を実施し、Cole-Coleプロットの実軸との交点から溶液抵抗値を求めます。しかし、ケーブルのインダクタンスが大きい場合、測定結果に影響が現れることがあります。

図2に、ケーブルのインダクタンスをL = 0 H、1 mH、2 mH、5 mHと変化させた場合のシミュレーション結果を示します。インダクタンスが増加するにつれて、実軸との交点が右側へ移動することが分かります。

図2

図2. ケーブルのインダクタンス増加に伴うCole-Coleプロットの変化シミュレーション

このように、本来は5Ωである溶液抵抗が、ケーブルのインダクタンスの影響によって、あたかも増加したように見える場合があります。要求される測定精度にもよりますが、電池容量(F)と同程度のオーダーのインダクタンスを持つ場合には、その影響を無視できなくなります。

そのため、特に低容量電池を評価する際には、適切なケーブルを選定することが重要です。

3. ケーブルの分類

一般的にケーブルとは、複数の電線やシールド線をシース(保護用外装材)などでまとめたものを指します。電線やケーブルには、素材や用途、加工方法などによるさまざまな分類があります。

本稿では、ケーブル内部における電線の配線方法をご紹介します。

3-1. 平行配線ケーブル

平行配線ケーブルの構造例を図3に示します。

図3

図3. 平行配線ケーブルの構造例

電線が交差することなく平行に配置されたケーブルです。最も一般的な構造であり、特別な名称が付いていない多くのケーブルはこの方式を採用しています。

作製が容易である一方、シールドがない場合は外来ノイズの影響を受けやすいという特徴があります。

3-2. ツイストペアケーブル

ツイストペアケーブルの構造例を図4に示します。

図4

図4. ツイストペアケーブルの構造例

2本の電線を撚り合わせたケーブルです。通信ケーブルで広く用いられており、信号線と帰線を対にして使用する構成が一般的です。名称はツイストペアですが、3本以上の電線を撚り合わせた構造も存在します。

ツイストペアケーブルでは、飛来するノイズに対して、ねじれごとに逆向きの起電力が発生します。その結果、ノイズ成分が相互に打ち消されるため、外乱ノイズに強いという利点があります。

3-3. 同軸ケーブル

同軸ケーブルの構造例を図5に示します。

図5

図5. 同軸ケーブルの構造例

芯線を絶縁体で覆い、その外側を外部導体で囲んだ構造のケーブルです。外部導体をグランドへ接続することでシールドとして機能し、高いノイズ遮断性能を得られます。

さらに外側に導体を追加した三重構造のトライアキシャルケーブルも存在します。一般的には外部導体をシールド用途で使用しますが、信号の帰線として利用することもできます。

4. どのケーブルを選択すればよいか

ケーブルのインダクタンスは基本的にケーブル長に比例します。そのため、どの種類のケーブルを使用する場合でも、必要以上に長いケーブルを使用しないことが最も重要です。

さらにインダクタンスを低減したい場合は、次のような方法が有効です。

4-1. ツイストペアケーブルを使用する

ツイストペアケーブルは、寄生インダクタンスの低減に有効です。

平行配線ケーブルと比較すると、電線に電流が流れた際、右ねじの法則に従って磁場が発生します。この磁場の変化によって誘導電流が生じ、測定結果にインダクタンス成分として現れます。

平行配線では、行き線と帰り線の間に発生する磁場が加算されます。一方、ツイストペアでは隣接する部分で発生する磁場の向きが交互に変化するため、全体として磁場が打ち消し合います。図6にその概念図を示します。

図6

図6. 測定系における平行配線とツイストペアで発生する誘導磁場の違い

このため、寄生インダクタンスの低減を目的とする場合、ツイストペアケーブルは有効な選択肢となります。

4-2. 同軸ケーブル(二重構造ケーブル)を使用する

芯線と外部導体(シールド線)からなる二重構造のケーブルも、インダクタンスの低減に有効です。

この目的で使用する場合は、芯線を往路、外部導体を復路となるように端末処理を行います。電流の往路と復路が同一軸上を流れるため、それぞれが発生させる磁場は逆向きとなり、互いに打ち消し合います。図7にその模式図を示します。

図7

図7. 同軸ケーブルにおける誘導磁場

そのため、二重構造ケーブルは寄生インダクタンスの低減に効果があります。

ただし、高周波測定など反射特性が重要となる測定系では、ケーブルの特性インピーダンスが重要な要素となるため、規格に適合した同軸ケーブルを使用する必要があります。

5. まとめ

ケーブルの寄生インダクタンスは、測定結果に予期しない影響を与える場合があります。特に高い測定精度が求められる低容量電池の評価では、適切なケーブル選定が重要です。

当社では、高周波対応電池ホルダをはじめ、計測器だけでなく、ケーブルや治具を含めた測定系全体をご提案しています。

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