技術資料
「LIBにおける副反応解析について」BCS-900~Part1:CV測定とdQ/dV解析~
I はじめに ~LIBにおける副反応解析~
リチウムイオン電池(LIB)の開発においては、より高性能な電池を目指し、充放電容量、エネルギー密度、電圧特性、および長期の充放電サイクルにおける劣化挙動など、さまざまな観点から評価が行われています。なかでも、容量劣化の原因特定や高電圧化・高エネルギー密度化の検討は、電池の性能低下や安全性の課題を解明する上で重要であり、その理解にはLIBにおける副反応の解析が不可欠です。
副反応とは、LIBの正極・負極・電解液などで発生する「本来の充放電反応に伴って起こる、主反応以外の反応」を指します。本来、LIBではリチウムイオンの脱挿入による可逆的な充放電反応のみが理想とされますが、実際の電池ではさまざまな副反応が生じ、これらが電池性能に悪影響を及ぼします。
したがって、LIBの使用中に発生する副反応を正確に特定し、その影響を抑制することは、電池の長寿命化、高効率化、および安全性の向上において不可欠です。本資料では、これらの副反応を解析するために有効な測定手法についてご紹介します。
II 副反応解析におけるCV、dQ/dV解析
副反応解析には、サイクリックボルタンメトリー(CV)が広く用いられています。CVは、得られるピーク位置や電位差から、材料の可逆性や反応メカニズムを評価する手法であり、電池材料の酸化還元挙動を詳細に解析することが可能です。さらに、CV測定では、サイクルごとのピークを比較することで長期安定性の評価ができるほか、電位掃引速度を変えて測定を行うことで、拡散係数や反応速度を算出することも可能です。一方で、CV測定にはいくつかの課題もあります。たとえば、実際の電池動作環境とは異なる条件下での測定となる点や、リチウムイオンの拡散速度が遅いため掃引速度を低く設定する必要があり、測定に時間がかかる点などが挙げられます。
こうした課題を補う手法として注目されているのが、dQ/dV解析です。これは、通常の充放電試験から得られたデータに対して電荷量(Q)と電圧(V)の関係を微分して解析する方法であり、電位変化に対する電荷移動の挙動を可視化できる点が特長です。これにより、副反応によって生じる電極構造の変化を捉えることが可能となり、材料の劣化挙動や反応の違いを明確に評価できます。CV測定とdQ/dV解析の両方を用いることで、副反応の発生メカニズムを多角的に捉え、より信頼性の高い解析が可能となります。
III BioLogic社製充放電測定システムBCS-900シリーズでの解析
BioLogic社 充放電測定システムBCS-900シリーズには、充放電機能に加えてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定機能が搭載されています。これにより、電池を充放電装置から取り外すことなくCV測定を行うことができ、実験工数を大幅に削減できます。さらに、CV測定と充放電測定の間でデータの互換性が担保されるため、一貫した測定と解析が可能となります。本装置は18bitの高分解能測定に対応しており、図1に示すように平均化処理を適用することで、より高精度なデータ取得が可能です。
また、dQ/dV解析においても、高速サンプリングにより微細な電位変化を高精度で捉えることができ、リアルタイムでのデータ取得を実現しています。従来の充放電装置では検出が困難であった微細なピークの観測も、図1に示すように可能です。
図1. BCS-900シリーズのデータ取得機構(左)と従来の充放電装置とBCS-900シリーズでのdQ/dVデータ比較(右)
解析ソフトウェア(BT-Analysis)による解析も円滑に行うことができ、図2に示すように複数のデータを同時に解析したり、データ処理を自動化したりすることが可能です。dQ/dV解析やエネルギー密度の表示など、同一の操作を繰り返す必要のある作業については、BCS-900シリーズに搭載されたレシピ機能により、一度処理パターンを登録しておくことで、その後の測定データに対して同様の処理を自動的に適用し、グラフ作成まで一貫して実施できます。dQ/dV解析では充放電データの量が多くなる傾向にありますが、本機能を活用することにより、解析に要する工数を大幅に削減することが可能です。
図2. 解析ソフトウェア(BT-Analysis)でのdQ/dVデータ解析イメージ図
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