技術資料

クーロン効率測定における精度と確度

本書はBiologic社が発行するApplication note #53を2025年6月において翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。

1.はじめに

ここ数年、いくつかの研究プロジェクトが、電池寿命を研究するためのツールとしてクーロン効率(CE)に焦点を当ててきました[1-8]。従来の試験条件(単純な充放電条件)において、電極や電解質の変化が電池寿命に及ぼす影響を定量化するには、非常に長いリードタイムが必要です。単純なセルサイクル測定(セルが寿命に達するまでサイクルを繰り返す)とは異なり、CE測定は短期間(3~4週間)で改善が可能であり、異なるセルの安定性を評価・比較するためのツールとしても利用できます。

CEは、放電時に供給される電荷量Qdisと充電時に蓄積される電荷量Qch1の比として定義されます。

式(1)

1-1.CE測定の精度と確度

数週間で電極材料や電解液の電池寿命への影響を評価するには、高精度2と高確度3で計測することが求められます。CE測定の精度は容量:Qの測定精度に影響されます。充放電中で放出/蓄積される電荷はQdis/ch=IxΔtで定義4されます。Iは充放電中に流れる電流で、Δtは充放電にかかる時間です。サイクル中の電圧変動は充放電の温度など様々な現象に影響されます。そのため容量:Qの測定は電流・電圧の測定精度、充放電時間の正確性、温度変化などの異なる要因に影響されます。


  1. CEはIUPAC[9]の命名法ではϕQと表記されます。
  2. ここでいう精度は[10]の文献で規定された条件下で同じまたは類似サンプルでの繰り返し測定を行って得られた指示値または測定値の一致度と定義します。
  3. ここでいう確度は[10]の文献での真値と測定値との一致度と定義します。
  4. ここでいう電気量は、充電または放電中に流れる電流の積算値です:Q=∫I(t)dt。Qの測定における誤差はAppendixに記載します。

文献[2,4]ではCEデータ(vsサイクル数)を2次多項式関数(最小二乗回帰)でフィッティングすることによりCE測定の品質を定量化しました。フィッティング後、二乗平均平方根誤差(RMSE)は、次のように計算することができます。

式(2)

Xexpは測定データ点で、Xfitはフィッティングデータ点です。この二次関数は、CEとサイクル数のデータを正確にフィッティングするためにのみ提案されており、予測モデルを提供することを意図したものではありません。電池材料変化の影響を分別するためには、RMSE値は少なくとも±0.01%であることが推奨されます。

2.CE測定

2-1.実験条件

本アプリケーションノートの実験で使用された商用電池は下記の通りです

LiNixMNyCozO2(NMC) 18650型 公称容量2.6 Ah
LiCoO2(LCO) 18650型 公称容量2.4 Ah
LiFePO4(LFP) 26650型 公称容量2.5 Ah

NMC、LCOは4.2V – 2.75Vで充放電を、LFPは3.6V-2.0Vで充放電を1/10Cで行いました。文献で推奨されているように、温度は正確に30.0±0.1℃で制御しました。(Memmert社製IPP500型恒温槽を使用)

BioLogic充放電装置の再現性を試験するため、NMC x 40個、LCO x 20個、LFP x 16個をVMP3(16チャンネル)とBCS-815(8チャンネル)で試験をしました。得られた結果を検証するためオーバークロス測定も行いました。

2-2.ソフトウェアツール

これらの測定は、VMP3用のEC-Lab®ソフトウェア(図1)およびBCS-815用のBT-Lab®ソフトウェアで利用可能なCED(Coulombic Efficiency Determination)テクニックを用いて実施されました。CEDテクニックは“Batteries Testing“の項目内にあります。

図1

図1. CEDテクニック選択画面

EM1とEM2に入力された電圧の間を、電流制御で充放電を繰り返します。充電と放電は電流値またはCレートで入力できます。フローティング期間は設定できません(図2)。
図3では、Eweの時間変化のグラフと、サイクル数とクーロン効率のグラフを示しています。

図2

図2. CEDテクニックのパラメータ設定ウィンドウ


図3

図3. 混合リチウムイオン電池(LCO-LMOタイプ)のサイクル中の電位と時間の関係、およびCEとサイクル数の関係

CEDテクニックでは“CED Fit”を利用して、CEのRMSE値を算出できます(図4参照)。
多項式関数とそれに従うRMSE値は測定の最後に自動で計算されます。
この解析機能は“Analysis”→“Battery” (または「Supercapacitor」メニュー)でも利用可能です。また、「on the fly」モードでも使用できます。

サイクルの最初のポイントは、“First hidden point“オプションを用いて削除できます。

図4

図4. CED Fitウィンドウ

3.考察

図5は、NMC、LCO、およびLFPバッテリーの充放電中のセル電位と時間の関係を示しています。
図6は、典型的なCEとサイクル数の関係を示す曲線です。対応するフィッティング結果と得られたRMSE値も示されています。解析後に得られた最良のRMSE結果も図6に示されています。

表1は、BioLogic機器とそれぞれのバッテリーについて、解析後に得られたRMSE値を示しています。ご覧のとおり、得られたRMSE値はバッテリー技術に依存しています。測定に使用したVMP3/BCS-815両機種において、LCOバッテリーのRMSE値が一番よい結果でした。

図7は、BioLogic機器を用いて、それぞれのバッテリーで得られたRMSE値の比較を示しています。

LCOの結果は、文献[4]で報告されているRMSE値に近いことがわかります。

図5

図5. C/10 での充電および放電中の電位と時間の関係
上:NMC バッテリー、中:LCO バッテリー、下:LFP バッテリー

表1

表1.BioLogic装置で測定した各電池における解析後のRMSEの典型値と最良値

図6

図6. CEとサイクル数の関係とフィッティング結果
挿入図:RMSE値
上:18650-NMCバッテリーで得られた典型値
下:LCOバッテリーで得られた最良値

図7

図7. 電池技術の違いにより生じたそれぞれのRMSE値の比較
青:VMP3緑:BCS-815

高精度なCE測定は、リチウムイオン電池の寿命全体にわたる電解液添加剤、不純物、電極材料、温度の影響を評価するために使用できます。VMP3およびBCS-815は、CE測定を高精度に実行でき、文献で報告されている値と比較して、典型的なRMSE値は約11ppmです。

4. 参考文献

01) International Vocabulary of metrology. Basic and general concepts an associated terms. JCGM(2008).
02) A. J. Smith, J. C. Burns, S. Trussler, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 157, no. 2 (2010) A196.v
03) J. C. Burns, G. Jain, A. J. Smith, K. W. Eberman, E. Scott, J. P. Gardner, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 158, no. 3 (2011) A255.
04) T. M. Bond, J. C. Burns, D. A. Stevens, H. M. Dahn, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 160, no. 3 (2013) A521.
05) J. C. Burns, A. Kassam, N. N. Sinha, L. E. Downie, L. Solnickova, B. M. Way, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 160, no. 9 (2013) A1451.
06) S. R. Li, C. H. Chen, J. Camardese, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 160, no. 9 (2013) A1517.
07) J. E. Harlow, D. A. Stevens, J. C. Burns, J. N. Reimers, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 160, no. 11 (2013) A2306.
08) R. Petibon, E. C. Henry, J. C. Burns, N. N. Sinha, and J. R. Dahn J. Electrochem. Soc., vol. 161, no. 1 (2014) A66.
09) “Nomenclature, symbols and definitions in electrochemical engineering”, Pure Appl. Chem., vol. 85 (1993).
10) International vocabulary of metrology – Basic and general concepts and associated terms. Joint Committee for Guides in metrology (2012).

5.付録:誤差の計算

5-1. dQ誤差の計算

一定電流下で、電気量は下記のように定義されます。

式(3)

Iは印加電流、teは充放電時間です。もしdIとdtが不確かまたはIとtの測定で誤差がある場合、Qの計算における誤差は下記のように表されます。

式(4)

dIは電流測定精度に一致します。測定時間の精度であるdtは電池電圧と温度の関数(te=f(V,T))で、電圧リミットの検出精度に依存します。そのためdtは下記のように表わせます。

式(5)

(4)と(5)を組み合わせると下記の式が得られます。

式(6)

∂t/∂Vは時間に対する電圧の関数の傾きの逆数で、dVは電圧測定に関するエラーで、dTは温度測定のエラー∂t/∂Tは温度による充放電時間の変化です。下記の式よりこの値を算出できます。

式(7)

∂V/∂Tは電圧の温度ドリフトです。これは電池の性能によります。そのため下記の式が導けます。

式(8)

5-2. dΦQ誤差の計算

上記で述べたように、クーロン効率(ΦQまたはCE)は下記の式で表せます。

式(9)

そのため、ΦQに関連する誤差は下記のように表されます。

式(10)

【EC-Labユーザー向け】本アプリケーションノートのデータは下記フォルダに保存しています。

C:\Users\xxx\Documents\EC-Lab\Data\Samples\Battery\ AN53_LCO_LIS-18650_CED_CA1

2025年06月改訂

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