AD変換の基礎 / 第1回 アンチエイリアシングフィルター

エイリアシングとは、アナログ信号をサンプリングする際に起こる現象のことです。まず認識すべき重要な事実として、この現象は発生そのものを防ぐことはできません。エイリアシングに関して私たちができることは、その影響を最小限に抑えることだけです。

よくある誤解は、“十分に高い”サンプリングレートを使用し、測定したい周波数領域がナイキスト周波数より小さい事を確認していれば、エイリアシングが防げるというものです。例えば、音響系に関して、NVHに関連する周波数成分を測定するためには、50~100kHzほどのサンプルレートがあれば十分だと言われることがあります。しかしながら、測定時には、センサーやケーブルからMHz~GHz領域のEMIノイズが混入する可能性があります。それらの高周波数ノイズは、サンプリング周波数を中心に折り返して、低周波数の信号としてサンプリングされ、FFT分析の誤差要因となる場合があります。

それでは、エイリアシングの影響を最小にするためにフロントエンドでするべき事は何でしょうか?その答えは、デジタル信号処理ではなく、アナログ信号処理の中にあります。具体的には、アナログ信号の段階で、適切なローパスフィルターを利用する必要があります。一度デジタル信号に変換されてしまうと、その際に発生したエイリアシングの影響を分離する事は不可能になります。そのため、私たちはアナログ信号処理の段階で、十分なエイリアシング対策を講じる必要があるのです。

ローパスフィルター(この文章中では、アンチエイリアシングフィルターとして使用する物を想定します)は、抵抗とコンデンサーによる比較的シンプルな電気回路で作成できます。アンチエイリアシングフィルターとして使用される回路は、測定できる最大の周波数(ナイキスト周波数:サンプリング周波数の半分)よりも高い周波数の成分を大幅に低減(例えば、10の6乗オーダーの低減率)する役割を担います。サンプリングの際にエイリアシングが発生する事に変わりはありませんが、ローパスフィルター回路によって高周波数成分が低減されているため、FFTスペクトラムへの影響は最小限に抑えられます。

よくあるアンチエイリアシングフィルター(いわゆるローパスフィルター)は上の図のような特性です。ナイキスト周波数以下の周波数領域では、ゲイン1のフラットな応答特性を示します。ナイキスト周波数より高い周波数領域に対してフィルターは作用し、その領域の周波数成分をできるだけ低減するように働きます。

図中のナイキスト周波数近辺に、高周波数成分を完全には低減できない“グレーゾーン”が存在することに注目してください。ナイキスト周波数で急降下し、それ以上の高周波数成分を完全に除去するローパスフィルターを作製する事は、現実的には不可能です。ナイキスト周波数近辺に存在する除去しきれ無かった高周波数成分の影響を無視するために、一般的に、FFTアナライザーでは測定したい最大周波数よりも大きな周波数をナイキスト周波数にしています。PAKの場合には、測定したい最大周波数の2.56倍をサンプリング周波数としており、PAKのモジュールの特性はサンプリング周波数までの帯域幅に対応できるように設計されています。

過去には、ナイキスト周波数からゲインが急降下する(アナログの)高い次数のアンチエイリアシングフィルターを、エンジニアが多くの電気電子素子を駆使して作製していました。そのようなアナログフィルターが使用されていたため、以前の測定機器は温度に敏感で、サイズが大きく、また非常に高価でした。

こちらもあわせてお読みください。

関連リンク