技術資料

電気化学測定におけるコンプライアンス電圧とは

本書はBioLogic社が発行するTopic “What is compliance”を2025年3月時点で翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。

1. はじめに

3電極測定は作用極(WE)、対極(CE)、及び参照極(RE)の3つの電極を用いて行われます。参照極を利用することで、各電極における反応を調べることができます。
この時、電気化学的な反応は作用極と対極の間で発生します。これら2つの電極間には、セル電圧ECELLによって電流が流れます。一般的には作用極における反応が重要であり、作用極の電位EWEは参照極を用いて測定されます(図1)。
作用極界面の電位変化によって電流が流れているということを保証するためには、参照極の電位が標準電位に一致し、安定していることが求められます。参照極に電流が流れてしまうとその状態が変化してしまい、「参照」極としての役割を果たせなくなるため、電流が流れないようにすることが重要です。
実験を行う際、ユーザーは「制御電圧」と呼ばれる目標の電圧値を設定します。3電極測定では、この制御電圧が作用極の電位EWEに相当します。
ポテンショスタットは、電流を流すためのセル電圧ECELLを自動的に調節し、設定された制御電圧EWEを正確に維持できるように制御します。

図1.セル電圧ECELLと制御電圧EWEの関係

2. コンプライアンス電圧とは

ポテンショスタットが設定した制御電圧をセル内で維持するために、作用極(WE)と対極(CE)の間で制御できる最大電圧を「コンプライアンス電圧」と呼びます。 3電極測定では制御電圧がEWEを維持するためにECELLを制御しますが、ECELLの値はコンプライアンス電圧を超えることはできません。

3. コンプライアンス電圧への対処方法

次のような状況では、ECELLがコンプライアンス電圧の上限に達してしまい、ポテンショスタットが信号波形を適切に制御・測定できなくなる場合があります。

  • ■ポテンショスタットの定格を超える電流が流れる場合
  • ■セルの形状や溶液の抵抗による電圧降下が大きい場合
  • ■接地電位(グランド)のオフセットが大きい場合

以下のリンクで具体的な例を見ることが可能です。青い丸を動かして設定電圧EWEを変えると、作用極と対極の間の電圧が変化します。この例では、オーミックドロップ(抵抗による電圧降下)が大きいため、設定電圧がわずか6Vの時点で最大コンプライアンス電圧(20V)に達してしまいます(図2)。
https://www.biologic.net/wp-content/uploads/2024/11/What-is-compliance.html

図2. 電圧降下が大きい場合の例(上記URL参照)

4. 結論

一般的に、3電極測定では作用極(WE)の電圧が注目されますが、対極(CE)の変化を見落としがちです。しかし、コンプライアンス電圧による制限がかかると、所望の測定結果が得られなかったり、場合によっては実験が停止してしまったりすることもあります。トラブルシューティングやコンプライアンスによる問題を解決するために、セル電圧の変化を把握することは重要です。

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