技術資料

圧縮密度が異なる負極シートに対する電解液の浸透性評価

1. はじめに

リチウムイオン電池において、電解液はイオン伝導を担う媒体であると同時に、 高電圧化や高エネルギー密度化を支える基盤材料として重要な役割を果たします。 電解液の濃度、粘度、表面張力といった物性や、電極およびセパレーターに対する 浸透性(濡れ性)は、電池性能に直接影響を与える重要な指標となります。

電極内部での電解液の浸透性は、圧縮密度、細孔径、空隙率などの電極構造と密接に関係しており、 電極プロセスの最適化を評価する上で欠かせない要素です。 これらの構造因子は、高性能電池の研究開発における新たな方向性を示すものでもあります。 また、セパレーターも電池性能を左右する主要材料であり、その濡れ性は電解液の保持性や イオン輸送特性に大きく影響します。そのため、新規セパレーターの開発や濡れ性評価は、 電池性能向上に向けた重要な課題となっています。

以上の背景から、正極・負極およびセパレーターに対する電解液の濡れ性を、 より効果的かつ定量的に評価できる手法の確立が求められています。

図1. キャピラリー濡れ性評価法と従来法の模式図

従来の電解液濡れ性評価法には、接触角測定法、濡れ時間法、濡れ高さ法などがあります。 接触角測定法では、電極やセパレーターの表面に電解液を滴下し、電解液と材料表面との 接触角を測定することで濡れ性を評価します。電解液が表面に広がる速度が速いほど濡れ性が高いとされますが、 高速カメラなどの専用機器が必要となり、試験の難易度やコストが高く、 濡れ時間や濡れ速度を正確に評価するのが難しいという課題があります。

濡れ時間法では、一定量の電解液を電極表面に滴下し、完全に濡れるまでの時間を測定することで 濡れ性の違いを評価します。濡れ高さ法では、一定サイズの電極を電解液に完全に浸漬するか、 片端を浸漬し、一定時間内に電極へ浸透した電解液の質量をもとに濡れ性を評価します。


従来法の課題を踏まえ、IEST社からキャピラリー拡散原理に基づく 濡れ性評価システム(EWS1100)が開発されました。 本装置は高精度な機械制御システムと視覚認識システムを搭載しており、 異なる正極・負極シートやセパレーター間の濡れ性の違いを定量的に比較することができます。 キャピラリー濡れ性評価法と従来の濡れ性試験法の原理を模式的に示します(図1)。 電解液をキャピラリー管に注入し、ガラス管の先端を電極表面に垂直に接触させることで、 電解液がコーティング層に浸透するにつれてキャピラリー管内の液面が低下します。 視覚認識システムが液面の高さをリアルタイムで記録し、その変化から濡れ過程を定量的に把握することができます。 液面の高さの変化量が、電解液の濡れ量を示します。

本稿では、この濡れ性評価システム EWS1100を用い、 圧縮密度の異なる負極電極シートを対象に系統的な試験を行い、 電解液の濡れ性の違いを評価しました。

2. 実験装置及び試験方法

■2.1 実験装置

試験装置は、EWS1100(IEST)を用いて測定しました(図2)。

図2. 電極濡れ性評価システム EWSシリーズ

図2. 電極濡れ性評価システム EWSシリーズ

■2.2 サンプル準備と測定

2.2.1 サンプルの準備

同一のスラリー配合条件で均一に塗布した後、ロールプレスにおいて小・中・大の異なる圧力を加えて圧縮し、計4種類の負極電極シートを作製しました。ロールプレス時の圧力は Electrode1 < Electrode2 < Electrode3 < Electrode4 の順で設定しています。

各電極シートの圧縮密度は、切り出し・厚み測定・重量測定によって算出し、以下の値を得ました。

・Electrode1:1.35 g/cm³
・Electrode2:1.50 g/cm³
・Electrode3:1.60 g/cm³
・Electrode4:1.65 g/cm³

ロール圧力の増加に伴い、圧縮密度が増加する傾向を確認しました。


2.2.2 試験プロセス

サンプルの前処理を行い規格化した上で固定し、装置を接続してソフトウェア上で各種パラメータを設定します。準備が整った後、キャピラリーによる自動吸液および押し下げ試験を実施し、電解液が電極に浸透する様子を視覚認識システムによりリアルタイムでモニタリングします。液面の高さ変化を記録することで、濡れ性評価に必要なデータを取得・処理します。


2.2.3 圧縮密度の異なる電極における電解液濡れ性試験

EWS1100装置を用いて、圧縮密度の異なる Electrode1~4 の電極シートに対してキャピラリー濡れ性試験を実施し、各電極間の濡れ性の違いを比較・評価しました。

3. 圧縮密度の異なる電極シートにおける濡れ性の分析

電極の電解液濡れ性は、電極の空隙率と密接に関係しています。材料の粒径や分布、粒子形状、圧縮密度を調整することで空隙率や空隙構造を制御でき、それが濡れ性に直接影響を与えます。

一般に、圧縮密度が高くなると電極内部の空隙量が減少し、空隙サイズも小さくなることが知られています。圧縮密度は電池容量にも関係しており、現在の材料設計では以下の2つの方法で容量向上が期待されています。

・活物質の単位質量あたりの容量を高める
・材料の単位体積あたりの圧縮密度を高める


圧縮密度が高いほど活物質の充填量が増え、体積エネルギー密度も向上しますが、過剰な圧縮はイオン伝導性やサイクル性能、多倍率放電性能に悪影響を及ぼす可能性があります。特にイオン伝導性は電極の電解液濡れ性と密接に関係しています。

本研究では、キャピラリー濡れ性評価法を用いて、圧縮密度の異なる電極における電解液濡れ性の違いを評価しました。

図3. 圧縮密度の異なる電極における電解液濡れ性の評価曲線

図3より、圧縮密度が高くなるほど濡れ性曲線の傾きが緩やかになり、濡れ性が低下する傾向が確認できます。これは既存の研究結果とも一致しています。

図4. 異なる時点における電極の圧縮密度と濡れ性の変化曲線

図4では、異なる時点における濡れ量と圧縮密度の関係を示しています。時間の経過とともに圧縮密度による濡れ性の差がより明確となり、両者の間に良好な線形関係が見られます。また、濡れ時間が長くなるほど変化率(傾き)が大きくなることが分かります。

正極・負極は多孔質構造であり、異なる空隙を持つキャピラリー構造として捉えることができます。電解液の濡れ過程はキャピラリー吸収効果として理解され、Lucas–Washburnモデルによって吸液速度が記述されます。

Washburnの式(式1)では、吸収高さ h、吸収時間 t、キャピラリー形状係数 c、キャピラリー半径 r、表面張力 σ、粘度 ηなどが関係します。図3および図4の結果から、電極内での濡れは垂直方向の浸透と水平方向の拡散の両方を含んでおり、濡れ時間が長くなるほど圧縮密度の影響が顕著になることが分かります。

また、電極の長さ L や幅 W が厚み B より十分大きいため、濡れ過程は放射状吸収として扱うことができ、厚み方向の影響は無視できます。濡れ境界は電極全体に均一に広がり、圧縮密度の違いによって吸収される電解液量も変化します。

表1は、圧縮密度の異なる電極に対して異なる時間で実施した濡れ性試験の再現性結果を示しています。各試料について4群で試験を行い、平均値・標準偏差・変動係数(COV)を算出しました。標準偏差はすべて0.15未満、COVも10%以内であり、本試験方法の精度と有効性が確認されました。

表1. 異なる電極・異なる時間における電解液濡れ性試験結果のまとめ

4. まとめ

本研究では、濡れ性評価システム(EWS1100)を用いて、圧縮密度の異なる電極における電解液濡れ性を評価しました。その結果、各電極間の濡れ性の違いを明確に識別でき、既存研究とも整合する傾向が確認されました。本手法は、電極の階層的な濡れ性評価に有効な手段として活用できる可能性を示しています。

さらに、従来の濡れ性評価法が抱える課題を克服し、多孔質電極内における電解液の移動挙動をより深く理解することが可能となりました。これにより、電解液組成設計や電極微細構造設計の最適化に貢献し、迅速かつ完全な濡れの実現、製造コスト削減、製品品質の向上につながることが期待されます。

5. 参考文献

[1] Yang Shaobin, Liang Zheng. Lithium-ion Battery Manufacturing Process Principles and Applications.
[2] PFLEGING W, PROLL J. A new method for rapid wetting of electrolyte for lithium-ion battery tape-cast electrodes[J]. Journal of Materials Chemistry A, 2014, 2: 14918-14926.
[3] SCHILLING A, GUMBEL P, MOLLER M, et al. X-ray Based Visualization of the Electrolyte Filling Process of Lithium Ion Batteries[J]. Journal of the Electrochemical Society,2019,166:A5163-A5167
[4] Edward W. Washburn. The Dynamics of Capillary Flow[J]. Physical Review, 1921, 17: 273-283.
[5] LI K W, ZHANG D F, BIAN H Y, et al. Criteria for applying the Lucas-Washburn law[J]. Scientific Reports, 2015, 5: 14085.


本内容はInitial energy science technology Ltd.の許諾を得て下記資料を一部改変し翻訳したものです。

引用元: Evaluation Of Electrolyte Wetting Performance At The Electrode Level

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