技術資料
単粒子物性評価システムを用いた圧縮特性評価
1. はじめに
■1.1 単一粒子の圧縮強度と材料・電極・セル性能との相関性
微視的なスケールにおいて、電極はナノメートルからマイクロメートルサイズの粒子で構成されており、電極材料の粒子が持つ固有の特性は電池の電気化学的性能において極めて重要です。粒子材料の電気化学的特性は、組成の調整、微細構造の最適化、表面改質などによって向上させることが可能です。
機械的特性の観点では、電池材料の個々の粒子に対する圧縮強度を測定することで、材料の圧縮耐性を評価し、圧延工程における設計指針とすることができます。高い機械的強度を有する材料は、後の充放電サイクルにおいて、より高い構造安定性を示す傾向があります(図1参照)。

図1. リチウム材料粒子の圧縮特性と異なる材料層への応用との相関関係
一方で、粒子の圧縮強度が高いということは、粒子がより大きな外力に耐え、破砕されにくいことを意味します。
これは電極板の圧延工程に対応しており、材料や電極板の圧密度を高めることで、単位体積あたりにより多くの正極または負極材料を充填でき、電池の容量密度向上に寄与します。
さらに、粒子全体の圧縮強度と最終的なセル性能の間にも一定の相関が認められます。圧縮強度の高い材料は、電池の電気化学的性能を向上させる傾向があります。
セルのサイクル中には、リチウムイオンの脱挿入に伴って粒子内部に応力が蓄積され、亀裂や破損が発生することで機械的強度が徐々に低下し、結果としてセルの寿命が短くなる可能性があります[1–3]。
例えば、Parkb[1]らの研究では、Mg(マグネシウム)ドーピングによってNCM622粒子の硬度が向上し、NCM622正極のサイクル性能が改善されることが示されています。著者らは、粒子の硬度が正極の長期的なサイクル安定性に直接影響する重要な要因であると結論づけています。
電池の正極および負極材料の機械的強度(圧力耐性)は、それぞれの電気化学的性能に影響するため、この相関関係は材料研究に新たな視点を提供します。
さらに、電極の製造工程パラメータをシミュレーションで最適化したり、充放電中の微細構造の変化を予測することも重要です。
精密な電極構造のシミュレーションには、粒子材料の詳細な性能パラメータ、特に弾性モデルや破壊強度などの機械的特性が不可欠です。
単一粒子の機械的特性を測定することで、これらのパラメータを迅速かつ正確に取得でき、より高精度なモデル構築に繋がります。
したがって、リチウム電池材料の単一粒子の機械的特性の測定は、重要な材料性能パラメータを提供するだけでなく、材料特性と電池性能の関係を深く理解する手助けとなります。
これにより、電池の設計・製造プロセスにおける指針となり、性能および寿命の向上に寄与します。
■1.2 既存の特性評価手法の限界
材料表面の微視的な機械的特性を評価する既存の手法には、原子間力顕微鏡(AFM)による力曲線試験や、ナノインデンテーション装置による硬度試験などがあります。
これらの手法は主に、薄膜やコーティング基板の機械的特性を評価するために用いられていますが、マイクロメートルサイズの電池粒子には適用が困難です。
特に、粒子自体の圧縮耐性を直接的に反映することは難しく、電池材料の実使用環境に即した評価には限界があります。
その他の特性評価手法についても、表1に示すようにそれぞれ制約があり、粒子の圧縮特性を視覚的かつ定量的に評価することはできません。
表1. リチウム電池粒子の強度評価方法とその制限

2. リチウムイオン電池単一粒子力学特性試験システム(SPFT)

図2. リチウムイオン電池単一粒子力学特性試験システム(SPFT)
■2.1 リチウムイオン電池単一粒子力学特性試験システム(SPFT)について
リチウム電池材料における単一粒子の機械的特性の重要性と、リチウム電池業界の多くの研究開発者が求める単一粒子評価の必要性を踏まえ、IESTは単一粒子力学特性試験システム(SPFT)を開発しました(図2)。

図3. リチウムイオン電池単一粒子力学特性試験システム(SPFT)の機能モジュール
SPFTは、光学顕微鏡、圧力測定システム、変位測定システム、そして力-変位制御システムで構成されています。高精度な変位および圧力制御により、圧子が個々の粒子に荷重を加えた際の応力-ひずみ曲線を取得し、その曲線における急激な変化点から、粒子の圧縮および崩壊力を解析できます。
試験中には光学顕微鏡を用いて、圧入前後の粒子の形態や試験対象粒子のサイズ情報を観察することができ、視覚的な確認と定量的な評価を両立させる設計となっています。
■2.2 機能的特徴
SPFTは、リチウム電池材料専用に開発された単一粒子の機械的特性試験装置であり、リチウム粒子の特性に応じたカスタマイズ試験モードの設計できます。
光学系を装置構成の底部に配置することで、試験中に圧子と粒子の相対位置をリアルタイムで観察できます。これにより、操作性が直感的かつ簡便になり、圧力の偏りや粒子の押し出し、複数粒子への誤圧といったリスクを低減することが可能です。
さらに、粒子の崩壊前後の状態を底部から観察することで、粒子の崩壊特性をより詳細に把握することができます。SPFTの具体的な特徴については、図4に示します。

図4. リチウムイオン電池単一粒子力学特性試験システム(SPFT)の主な機能一覧
■2.3 試験方法
(1)GB/T 43091-2023「粉体圧縮強度試験方法」に準拠して実施します[4]。
(2)試験手順は、試料作成・位置合わせ・モード選択・試験開始の順で進行し、数分で完了します。
(3)試験中の様子および粒子の破壊前後の状態は、図5に示します。

図5. 単粒子試験プロセスの形態例
3. 測定事例紹介
SPFTは複数の試験モードを備えており、試料の種類や試験目的に応じて適切なモードを選択することができます。以下は、制御変位応力試験モード(図6)を使用した事例です。

図6. 変位制御用の試験パターン
このモードでは、粒子に一定の変位速度で荷重を加え、圧縮中の応力変化を測定します。
変位速度の単位はμm/sで、通常は0.1~0.5μm/sの範囲で設定され、変位の安定性は±0.01μm以内に制御されます。圧子が変位ストロークの上限または設定圧力の上限に達すると、ソフトウェアが自動的に試験を停止し、データを保存します。
■3.1 三元系粒子 A1 および A2
三元系材料 A1 と A2 は、同一の前駆体から焼結されたものですが、焼結プロセスが異なります。粒子径 D50 はいずれも 18 μm です。SPFT2000 を用いて両材料の異なる粒子を試験した結果を図7に示します。
A1 の平均破壊力は 31.2 mN、A2 の平均破壊力は 35.8 mN でした。また、破壊点に対応する変位量(横軸座標)は A2 の方がやや大きく、平均で A1 より 0.8 μm 深く押し込まれてから破壊されていることが示されています。
これらの結果は、A2 の方が圧縮耐性に優れていることを示しており、焼結プロセスの変更によって材料の硬度をある程度向上させることが可能であることを示唆しています。単一粒子の機械的特性を評価するこの手法は、材料の焼結プロセスの設計や改善に有効です。

図7. A1およびA2の応力-ひずみ曲線と破壊荷重の比較
■3.2 三元系粒子 B1 および B2
三元系材料 B1 と B2 は、それぞれ異なる前駆体から焼結されたもので、粒子径 D50 は 9.5 μm です。SPFT2000 を用いて両材料の単一粒子の機械的特性を試験した結果を図8に示します。
B1 の平均圧縮破壊力は 4.4 mN、B2 は 9.0 mN であり、B2 の方が高い圧縮破壊力を示しました。応力-ひずみ曲線を見ると、B1 は圧縮破壊後に応力がゼロまで低下するのに対し、B2 は破壊後も 2 mN 程度の力が残り、さらに圧子が押し込まれる過程で複数のプラトー(平坦部)が見られます。この挙動は、B1 の粒子が構造的に急速に崩壊し、B2 よりも弾性が小さい可能性を示唆しています。また、一次破壊後に圧子がさらに押し込まれることで、部分的に残った粒子が二次破壊されている可能性も考えられます。
これらの材料を同一プロセスで半電池に組み立て、45℃で30サイクルの充放電試験を行った結果、B1 に対応するセルの容量保持率は 84%、B2 は 94% でした。B2 の方がサイクル安定性に優れており、これは材料層における単一粒子の硬度が高いこととも関連していると考えられます。

図8. B1およびB2の応力-ひずみ曲線と破壊荷重の比較
4. 補足情報
■4.1 試験対象
上記の事例で紹介したリチウム電池用の三元系正極材料に加え、SPFTでは他の正極・負極材料の試験も可能です。たとえば、三元系単結晶、リチウムリッチ系材料、負極用の黒鉛、シリコン系材料、固体電解質などが対象です。
ただし、粒子形成時の外部環境が複雑であるため、同じ形状・サイズに見える粒子であっても、内部構造に大きな違いがある場合があります。そのため、圧縮強度には顕著なばらつきが生じることがあります。
■4.2 試験対象粒子のサイズ
試験可能な単一粒子のサイズは 5~50μm で、球状または円柱状の粒子は特に良好な試験結果が得られます。
■4.3 適用例
材料メーカーの研究開発部門や品質管理部門、電池セルメーカー、大学の材料開発研究グループなどで、材料設計や最適化の検証に活用できます。
リチウム電池材料の単一粒子に対する圧縮強度(破壊強度)試験は、材料の圧縮耐性を評価する有効な手法です。
この試験は、材料の最適化、プロセス設計、電池セル開発において役立てられます。
5. 参考文献
[1] Janghyuk Moona, Jae Yup Jungb, Trung Dinh Hoanga, Dong Young Rheeb, Hyo Bin Leeb, Min-Sik Parkb,*, Ji-Sang Yuc,** The correlation between particle hardness and cycle performance of layered cathode materials for lithium-ion batteries,Journal of Power Sources 486(2021)229359.
[2] Sergiy Antonyuka, Jürgen Tomasa, Stefan Heinrichb, Lothar Mörlb, Breakage behaviour of spherical granulates by compression, Chemical Engineering Science 60 (2005) 4031 – 4044.
[3] Zhang Yusheng, You Xiaoming, He Qing. Study on Crushing Strength of 8YSZ Agglomerated Powders and its Effect on PS-PVD Deposition Behavior[J]. Thermal Spray Technology, 2022, 14(3): 46-57.
[4]GB/T 43091-2023 “Powder Compressive Strength Test Method”
本内容はInitial energy science technology Ltd.の許諾を得て下記資料を一部改変し翻訳したものです。
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