ナノインデンターによる圧壊試験

ナノインデンターによる圧壊の概要

ナノインデンターは一般的には薄膜や微小部位の硬度やヤング率を測定する為に利用されます。しかし、ナノインデンターには圧壊試験機としての側面もあります。当然、一般的な圧壊試験機に比べれば、桁違いに小さな荷重の印加になります。しかし、微小荷重と微小変位の制御と検出が可能な能力を利用することで、通常の圧壊試験機では不可能な微粒子やマイクロピラーの圧縮試験機として利用が可能です。
 本事例ではナノインデンターの微小荷重圧壊試験機として側面を紹介させて頂きます。

微粒子の圧壊試験

(1) 無機粒子の圧壊試験

この試験ではセラミック粒子を押し潰す試験を実施しました。セラミック粒子はスライドガラス上に散布し、スライドガラスの端には粘着面を上にしたテープを貼りました。このテープは試験により圧子先端に付着した粒子を取り除くために使用します。そして、先端が平坦なフラットパンチ圧子を使用しました。


試験のモデル


試料の設定方法

試験は以下のルーチンで実施します。


試験のルーチン

試験により得られた荷重変位曲線を以下に示します。


荷重変位曲線

試験荷重が殆ど変化していないにもかかわらず、押込み深さが増大している場所が複数確認できます。変位が急激に増大した位置で試料に破壊が発生しています。荷重印加部のデータは、この粒子は段階的又は部分的に破壊が進行した事を示しています。そして、荷重除荷による回復は殆ど無く、圧縮により約2μm試料が押し潰された事が判ります。試験後に行った試料の光学観察では試験前に確認された粒子が無くなっています。これは、押し潰す動作により、粒子が圧子に付着した事を示しています。圧子に付着した粒子の破片はクリーニングテープ上に確認する事ができました。

(2) アクリル球の圧壊試験

この試験では、アクリル球を押し潰す試験を実施しました。セラミック粒子の試験と同様にアクリル球試料はスライドガラス上に散布し、フラットパンチ圧子を使用しました。試験前後のCCD画像の結果を以下に示します。


     試験前のCCD画像         試験後のCCD画像

赤破線内が試験に使用したアクリル球です。試験前と比べ明らかに潰れている事が判ります。先ずは、無機粒子の評価同様に荷重変位曲線をプロットしてみました。

5μmから10μm程度までの押し込み深さの領域で荷重の傾きが変わっている事が判ります。しかし、無機粒子の圧縮で得られたような明確は破壊現象はこのグラフでは判りませんでした。そこで、圧子直下での破壊現象を敏感に検出できる接触剛性を用いて、この値を試験荷重に対してプロットしました。接触剛性の試験荷重に対する推移は以下の様になりました。


荷重の上昇に伴い接触剛性も上昇しますが、ある荷重を境に剛性は低下し、再度上昇する結果でした。接触剛性の初めのピークがこのアクリル球が外力に耐えられる臨界点になります。臨界点以降は剛性は低下しており、臨界点以降でアクリル球が破壊した(潰れたと)考えます。破壊現象を伴わない場合は、印加荷重の上昇に従い、接触剛性も上昇します。上図で接触剛性が再上昇する領域は、圧子が基材であるスライドガラスに接触した事を示しています。

ナノインデンターを利用する事で、微粒子の破壊現象をサブミクロンレベルで解析できる事が判りました。また、有機・無機にかかわらず微粒子の破壊現象が解析可能だと判りました。なお、In-SEMインデンターを利用すれば、試料の変形(破壊)状態を直接観察する事が可能であり、荷重と変位のデータをSEM画像(動画)とリンクさせる事も可能になります。

In-SEMインデンターによるマイクロピラーの圧縮試験

FIB技術を利用して作成したマイクロピラーの圧壊試験を行いました。この試験はSEM中で使用できるIn-SEMインデンターを使用し、荷重が印加された状態でのマイクロピラーの状態をSEM画像として記録しました。

  
試験前後のピラーのSEM画像

     


ピラーの圧縮で得られた荷重変位曲線


SEM画像でマイクロピラーが「すべり」を起こすように壊れる時に、荷重変位曲線では荷重の増加に比べて変位が急激に増大することが判りました。なお、ピラーの形状(長さ・径)が判れば、押込み試験から応力ひずみ曲線を描くことも可能になります。

まとめ

 

ナノインデンターによる微粒や微小構造物の圧壊試験には以下のような利点があります。

  • サブミクロンオーダーの破壊現象を捉えることができる。
  • In-SEMインデンターを利用すると試験対象に破壊現象が直接観察できるだけでなく試料の形態と荷重変位曲線をリンクさせる事が可能になる