技術資料

サンプル温度が測定結果に及ぼす影響について

1. はじめに

高精度な測定や評価を行う際には、サンプルおよび測定系の温度が結果に与える影響を正しく把握し、適切に管理することが重要です。特に研究開発や品質管理の現場では、温度変化による誤差を最小限に抑えることで、測定結果の信頼性を高めることができます。

2. 温度が測定に与える影響

多くの材料において、抵抗や容量といった物性は温度に依存しており、温度変化が測定結果に大きく影響する可能性があります。特に、半導体や電解質溶液では温度によって電気特性が大きく変化するため、サンプル温度の安定化は不可欠です。温度変化による主な影響は以下の通りです。


  • ・導電率の変化
    温度が上昇すると導電率が増加する材料が多く、測定結果が変動する可能性があります。
  • ・誘電特性の変動
    誘電体材料は温度によって分極特性が変化し、測定データに影響を及ぼします。
  • ・熱膨張による影響
    粉体や液体、膜測定のようなケースでは、温度変化による膨張がジグとの微細な電極間距離や接触面の変化を引き起こし、測定誤差の要因となることがあります。

3. 温度管理の方法

2で述べた影響の確認と対策のため、評価を始める前には以下のような温度管理手法を取り入れることが推奨されます。


  • ・恒温槽や加熱炉、クライオスタットによる温度管理
    恒温槽等を使用することで外部環境の影響を最小限に抑え、温度別の特性を取得することができます。
  • ・温度センサとの組み合わせ
    測定中のサンプル付近に温度センサを取り付け、温度をリアルタイムでモニタリングすることで、温度の変化、安定状態を記録し正確なデータを取得できます。
  • ・測定環境の制御
    室温の変動を抑えるために、空調設備を整えることも有効です。また、測定治具や測定器自体の温度安定化にも配慮することが重要です。
  • ・測定前の安定時間の確保
    サンプルや測定器を一定の温度環境に置き、十分に安定するまで待機することで、温度による誤差を低減できます。また、温度センサを用いた観測と組み合わせることで、安定状態をより明確に確認できます。

4. 測定例:コイン電池のインピーダンス測定と温度の影響

恒温槽を用いてコイン電池のインピーダンス測定を行った実例を示します。 インピーダンス測定開始後に恒温槽の設定温度を25℃に設定し、連続で測定を実施しました。結果のナイキストプロットは図1の通りです。恒温槽に入れてからセルの温度が安定するまで、特性が低抵抗側にシフトしているのが確認できます。

図1. コイン電池のインピーダンス測定結果

同時にセル付近にK熱電対を取り付け、温度データも記録しました。代表例として、ナイキストプロット上で円弧の切り替わり点となる1 Hzでのインピーダンス値と温度データを時系列に並べた結果を図2に示します。データを並べて確認することで、温度は約1000秒で目標値に到達する一方で、サンプルの特性は約4000秒かけて安定していくことがわかりました。このことから、本測定系では温度の安定後もさらに2時間程度待機した方が、より安定した測定が可能であると推測できます。

図2. 1Hzでのインピーダンス測定結果と時間の関係

5. まとめ

高精度な測定では、温度の影響を考慮した管理により、測定精度を向上させることが可能です。温度変化の影響を見落とさないためには、恒温槽の使用や測定環境の制御、リアルタイムでの温度モニタリングが有効です。これらの手法を適切に活用することで、再現性の高い測定結果を得ることができます。

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