技術資料

インピーダンス確度マップの見方

1.はじめに

インピーダンスアナライザのインピーダンス測定確度は、インピーダンスの大きさと測定周波数に依存します。ポテンショ/ガルバノスタットとインピーダンスアナライザの仕様は、確度マップ[1]と呼ばれるグラフにより与えられます。このアプリケーションノートは、ユーザーがインピーダンス測定の確度マップについて理解し、活用できるようにすることを目的としています。

[1] 付録Aで定義していますが、本来は確度ではなく不確かさで表現されるべきです。

2.等高線プロット(確度マップ)

図1

図1. 2変数関数の3Dグラフ(黒線)の等高線(青線)と、その等高線のx, y平面への投影(赤線)

等高線プロットは2つの変数を持つ関数曲線です。例として、2つの変数の関数f(x,y) =x2+y2(黒線)と、この関数でf(x,y)=10となる点を青線で図1に示します。f(x,y)=x2+y2の3Dグラフ(黒線)においてf(x,y)=10となる青線の値をx,y平面上に投影したものが等高線プロット(確度マップ)です。
この平面上にある赤線の内側の任意の点(x,y)についてはf(x,y)<10となり、この赤線の外側の点についてはf(x,y)≧10となります。

3.インピーダンス測定の確度マップ

3-1.SP-300のインピーダンス測定確度マップ

インピーダンス確度マップの概要を図2に示します。

図2. インピーダンス測定確度マップの概要図

インピーダンスの測定上限値(5のライン)および下限値(1のライン)は、電流を正確に測定/制御する装置の能力に依存しています。 高抵抗側の測定上限を広げるためには、装置の微小電流測定確度が必要となります。多くの場合、エレクトロメータの入力インピーダンスに依存しています。低抵抗側の測定下限を広げるためには、装置が大電流で測定できる必要があります。

低抵抗領域での測定確度を向上するためには、電流ブースターを追加することが有効です。測定周波数の上限範囲(3のライン)は、装置の制御スピードに依存します。これは装置がある許容誤差で測定できる最大周波数です。多くの場合、装置のバンド幅に関係します。斜めに走った2と4のラインは、それぞれ浮遊インダクタと浮遊コンデンサによるものです。特にインダクタンスは電流値と配線に非常に敏感に影響を受けます。


SP-300ポテンショスタットのインピーダンス確度マップを図3に示します。それぞれ色付けされた範囲内においては、それぞれの周波数においてインピーダンス・位相を記載された確度範囲内で測定することができます。記載された確度の誤差について境界線上の数値となり、色付けされた範囲内においてはこの範囲に入るという事を意味しています。

図3

図3. SP-300のインピーダンス確度マップ
交点1:f=1MHz,|Z|=10kΩ、交点2:f=10kHz, |Z|=100Ω,

3-2.事例

図3上の交点1で考えてみましょう。この点は周波数f=1MHzで測定されたインピーダンス|Z|=10kΩの測定値に相当します。この点は 0.3 %、0.3◦ と 1 %、1°の等高線プロットの間にあるため、インピーダンス (相対誤差) の測定精度は 0.3 % < |Z|/|Z| < 1 %、位相 (絶対誤差) の場合は 0.3°< φZ < 1° です。 位相は絶対誤差で示されています。 φ = 0 の場合、相対誤差が不確定になる可能性があるためです。 図3の交点2の場合、周波数が1kHz でインピーダンスは 100 Ωであるため、インピーダンスは 0.3 % 未満、位相は 0.3°未満の相対不確かさで測定されます。

4.インピーダンス確度マップの使用方法

4-1.R1+(R2//C2) 回路のインピーダンス

R1+(R2//C2) のインピーダンスは、周波数の関数として与えられ、R1=0.1Ω、R2=3Ω、C2=1µFの場合は図4に示します。

式(1)

図4

図4. R1+R2//C2回路のインピーダンスのボード線図。
R1=0.1Ω、R2=3Ω、C2=1µFで計算

4-2.事例 #1

図5は電気回路R1+(R2//C2)のボード線図とSP-300のインピーダンス確度マップを重ねて表示したものです。この図によりインピーダンス測定の確度を周波数の関数として予測することができます。ボード線図が異なる測定確度領域に移動する周波数値を決定しなければなりません。例えば、周波数がf1 ≈ 100 kHzからf2 ≈ 600 kHzに移行すると、ボード線図の高精度領域(|Z|/|Z| < 0.3 %かつφZ < 0.3°)から中精度領域(0.3 < |Z|/|Z| <1 %かつ0.3 < φZ < 1°)に移行します(図5)。

図5

図5. 電気回路 R1+(R2//C2)のボード線図とSP-300のインピーダンス確度マップの重ね合わせ

周波数f1、f2、f3で測定されたポイントとともにR1+(R2//C2)回路のナイキスト線図を図6に示します。

図6

図6. R1-(R2//C2回路のナイキスト線図
F1 ≈ 100 kHz, f2 ≈ 600 kHz, f3 ≈ 1 MHz

表Iは、R1+(R2//C2)電気回路について、RsやC値のインピーダンスと位相の測定確度が周波数とともにどのように変化するかを示しています。

表I

(表I)周波数範囲でのインピーダンス測定確度
R1=0.1Ω, R2=3Ω, C2=1µFの場合

4-3.事例 #2

R1=10kΩ、R2=2MΩ、C2=5nFのような、高抵抗・低容量のサンプルの場合、異なる状況が確認できます。(図7、図8)。

図7

図7. 電気回路R1+(R2//C2)(高抵抗・低容量)のボード線図とSP-300のインピーダンス確度マップの重ね合わせ

図8

図8. R1+(R2//C2)回路のナイキスト線図
R1=10kΩ、R2=2MΩ、C2=0.5nFの場合

低周波数になるほど測定確度は最も測定確度の高い領域から外れていきます。表Ⅱに高抵抗・低容量となるR+(R//C)電気回路において、インピーダンスと位相の確度が周波数と共にどのように変化するかを示しました。

表Ⅱ

表Ⅱ. 周波数によるインピーダンス測定精度の変化
R1=10kΩ、R2=2MΩ、C2=0.5nF

図9

図9. ボード線図と確度マップの相関図

5.まとめ

このアプリケーションノートでは、BioLogic社の各装置に付属するインピーダンス確度マップの読み方と理解方法について説明しました。確度マップは、インピーダンス測定における誤差を解釈し、サンプルのインピーダンス範囲に最適な周波数を適用するために使用する必要があります。

付録

A. 定義[1]

測定対象量:測定を意図した量。

測定確度

測定値と真値の間の近さ。“測定確度”の概念は測定の質でも測定回数でもありません。測定誤差は小さいほど、その測定はより正確であると言えます。

測定の不確実性、不確実性

測定値に起因する数量値の分散を表す負値を持たないパラメータ

測定精度、精度

特定の同一条件下、または類似の条件下において繰り返し測定を行った際の測定値のばらつき。

参考文献

1) International Vocabulary of metrology. Basic and general concepts an associated terms. JCGM(2008).

2025年05月改訂

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