電気化学インピーダンス測定の原理

スマートフォンや携帯電話をご使用の際、バッテリー寿命に不満を感じている方はいらっしゃいませんか? 現在、スマートフォン、太陽光発電システム、電気自動車、ハイブリッド自動車に搭載されるバッテリーのさらなる高性能化が急速に求められています。これらに搭載されるバッテリーを精度良く評価解析するために、電気化学インピーダンス測定法は欠くことのできない技術です。ここでは、電気化学インピーダンス測定の原理を紹介します。

1.バッテリーの「中身」を見る

バッテリーには、高速充電対応・大容量化・長寿命化・小型軽量化等が望まれています。このような特性を評価するための手段の1つとして、バッテリーのインピーダンスを測定する方法があります。これを行うことにより、バッテリーを分解すること無く、バッテリーの中身の状態を知ることができます。そもそも、インピーダンスとは、交流信号を回路に印加したときの電圧と電流の比を取った値のことを示し、直流回路における電気抵抗の概念を複素数表示に拡張して適用したもので、単位はΩです。

2. 電気化学インピーダンス測定法

バッテリーのインピーダンスを測定する際には、バッテリーに交流信号(電圧もしくは電流)を印加し、電圧と電流を同時に測定することによって得られた信号の比(電流/電圧)からインピーダンスが求められます。原理的には発振器1 台とデジタルマルチメーター2 台、及び位相計1 台が有れば測定することは可能ですが、より手軽に短時間で精度良く測定することができる周波数応答アナライザ(FRA:Frequency Response Analyzer)が研究開発の現場にて幅広く用いられています。
以下に電気化学インピーダンス測定で広く使用されている周波数応答アナライザの特徴や原理について説明します。

3.周波数応答アナライザの特徴

周波数応答アナライザ(以下FRA)は単一正弦波相関法(SSC:Single Sine Correlation)と呼ばれるデジタル相関法を採用しています。この手法は基本振幅精度:0.1%、基本位相精度:0.1°を実現でき、周波数分析器の中でも比較的精度の高い測定結果が得られると同時に、60dBを超えるような高いS/N比が要求される外乱ノイズの多い測定系においてその真価を発揮します。また、FRAは高い周波数分解能と広いダイナミックレンジ(10μ~1MHz)を有しており、指定した周波数範囲をスイープさせながら自動的に測定を行うことが可能です。

4.周波数応答アナライザの原理 ~単一正弦波相関法~

FRAは、大まかには正弦波(Sine 波)発振器と応答信号の大きさと位相を測定するアナライザ(分析器)から構成され、発振器からバッテリーに単一周波数のSine波を印加し、バッテリーからの応答信号を再びFRAに戻して、分析器でデジタルデータに変換しています。このデータにフーリエ変換を行うことにより、測定周波数成分のみの振幅と位相を検出しています。

図1はFRAの模式図です。発振器より[ sinωt ]の信号が出力された場合、測定対象からは、
[ B0 + B1sin(ωt+θ1) + B2sin(2ωt+θ2) +・・・ + Noise] の応答信号が得られます。分析処理の際には、応答信号中の係数B1の項以外をすべて除去する必要があるため、分析器にて、発振器からの出力信号と同位相のSine波[sin(ωt)] 及び90°位相をずらしたSine波[cos(ωt)]を応答信号に掛け合わせ、応答信号(インピーダンス)を実数成分と虚数成分に分けています。これを行うことにより応答信号における発信器の出力信号と同一の周波数成分のみを抽出することができ、その実数成分(インピーダンスの実部)と虚数成分(インピーダンスの虚部)の大きさと位相が求められます。

図1:FRAの模式図
図1:FRAの模式図

 係数B0:DCオフセット B1:測定対象(基本波)
 B2 以降:*高調波歪み成分(Harmonic distortion components) Noise:ノイズ成分

これらの分析処理により、応答信号に高調波やノイズが重畳されていても、高精度にインピーダンスを測定することが可能です。

*Bio-Logic社製ポテンショ/ガルバノスタットのアドバンスドモデル(SP-300)他には高調波成分やノイズがどの程度測定データに含まれているかの指標を示す機能が搭載されています、

図2に一般的なシステム構成を示します。FRAから正弦波をポテンショ/ガルバノスタットに入力し、ポテンショ/ガルバノスタットは必要に応じた直流電圧を重畳させ測定対象に印加します。その時の測定対象からの応答信号をFRAに戻すことにより、FRAでインピーダンス値を求めることができます。

5.インピーダンスデータの解析

前述の電気化学インピーダンス測定法により得られたインピーダンスデータは、視覚的・数値的に解析することができます。下図3にバッテリーのインピーダンスを測定した際のデータ例と、模式的な等価回路の例を示します。等価回路とは測定対象を電気回路に置き換えて表現したもので、回路の各要素値が測定対象の内部状態(バッテリーの場合、各電極や電解質の状態)に対応したものです。

視覚的解析:データは図3のように複素平面状に描画されます。図3の呼称はCole-Coleプロット図、またはナイキスト線図と呼ばれ、インピーダンスの実数成分を横軸、虚数成分を縦軸にプロットしたものです。例えばバッテリーの充放電サイクル試験を行った後、図3のように、半円の直径が大きくなっていれば電荷移動抵抗が増加(電極の性能が劣化)したことを、半円が右方向にシフトしていれば溶液抵抗が増加(電解質の性能が劣化)したことを予測することができます。これを行うことにより、バッテリー内の改善すべき箇所の切り分けを行うことができます。


充放電試験とインピーダンス解析の組み合わせ(シーケンス)測定が可能な
シングルチャンネルのポテンショ/ガルバノスタット
Bio-Logic社製 SP-150


数値的解析:得られたデータに対して等価回路フィッティングを行うことにより、図3の等価回路のRやCの値を求めることができます。この値の変化量をモニタリングすることにより、バッテリーの経時変化を定量的に評価することができます。

図3:バッテリーのインピーダンス測定データと等価回路の例
図3:バッテリーのインピーダンス測定データと等価回路の例

インピーダンス測定も可能な充放電装置やインピーダンスの経時変化を追いかけることが可能なソフトウェアはこちらから。

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