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地球や生命の起源に迫る、小惑星「リュウグウ」試料分析 「はやぶさ2」初期分析プロジェクトに協力

地球や生命の起源に迫る、小惑星「リュウグウ」試料分析

「はやぶさ2」初期分析プロジェクトに協力

(掲載日:)

2020年12月、国⽴研究開発法⼈宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機『はやぶさ2』が小惑星『リュウグウ』で試料回収したカプセルが地球に降り立ちました。
それから半年後の2021年6月、『はやぶさ2』の初期分析チームが試料の粒子分析を開始。1年にわたる初期分析プロジェクトに、東陽テクニカが協力しました。
このたび、初期分析チームの一つ「石の物質分析チーム」のリーダー、東北大学・中村智樹教授に、小惑星『リュウグウ』の特徴や初期分析チームでの取り組みについて、また東陽テクニカが協力した分析手法について、お話しいただきました。(インタビュー日:2021年10月吉日)

―小惑星『リュウグウ』での試料回収が成功し、今まさに分析の真只中とお察しいたします。小惑星『リュウグウ』について、また、今回の分析の意義についてお聞かせいただけますか。

まず、小惑星は大きく二つに分類されます。
それは“水”があるかないかです。
宇宙空間では、圧力が低いため、水は液体では存在せず、固体(氷)もしくは気体(ガス)の状態どちらかになります。水が固体(氷)になるか気体(ガス)になるかの境界線を雪線(スノーライン)と言い、太陽から遠く離れた先に雪線は存在しています。
雪線の外側でできた天体だと氷(固体)、有機物がある空間になります。
小惑星『リュウグウ』は雪線の外側で形成された天体―すなわち、砂と氷が集まってできた天体で最初から水が存在しているとされ、採取されたサンプルから水や有機物の存在やその詳細を調べることで、地球の水や生命の起源に迫ることができるのではと考えられています。

『はやぶさ2』が映した小惑星『リュウグウ』(C)JAXA、東大など『はやぶさ2』が映した小惑星『リュウグウ』(C)JAXA、東大など

地球にももちろん水が存在しますが、地球は大部分が岩石でできている惑星です。
初号機『はやぶさ』が試料を採取した『イトカワ』は雪線の内側でできた小惑星で、その時の分析では、小惑星が太陽系の始まりの姿を保存していることがわかりました。

⼩惑星『リュウグウ』は、雪線の外側でできたC型⼩惑星(Cは炭素質を意味するCarbonaceousに由来)で、約46億年前の太陽系形成初期の情報を多く保持しているとされています。

―初期分析チームの一つである、「石の物質分析チーム」について教えてください。

実は初めはもっと長いチーム名だったのですが、覚えやすい名前にしようと、”Team Stone”「石の物質分析チーム」としました。

チームは総勢150名ほどになります。
日本、アメリカ、ドイツ、フランス、それぞれに放射光施設(電子などの荷電粒子を加速器で加速して発生させた放射光を利用する施設: 物質の内部の構造や組成を非破壊で調べることができる)があり、7月には試料を世界で一斉に分析していました。
前回(初号機『はやぶさ』での試料採取)とは違い、試料となる粒子を世界各国に配分できるほど多く採取できたこともこのプロジェクトにとって意義がありました。また、前回採取できた粒子はいわば“塵”で非常に小さかったのに対し、今回は、岩石ができた歴史を色濃く残している三次元的な構造などのたくさんの情報を獲得することが可能な“石”の形で採取されたので、その点においても非常に有用です。

採取した『リュウグウ』試料(C)JAXA採取した『リュウグウ』試料(C)JAXA

分配された試料を受け取る中村先生(左)(C)JAXA分配された試料を受け取る中村先生(左)(C)JAXA

“石”と言っても大きい方で2ミリ程度がほとんど、一番大きくても1センチ程度です。 そういった石をX線回析(試料にX線を当てるとその鉱物組成がわかるというもの)やX線CT(X線を用いて物体の内部をみる)、メスバウアー分光(物質中の元素の状態を調べることができる)やX線吸収微細構造解析(物質にX線を当て原子間距離や配位数、価数の評価することができる)などの非破壊の分析で、内部構造や構成元素の存在状態とその分布を把握しています。
小惑星の歴史を解明するためにキーとなる物質(ある結晶や構造物)があります。それを、放射光X線を用いて特定・分離し、精密に解析するのが近道です。ここで特定された物質をXeプラズマFIB-SEM(電子顕微鏡下でキセノンイオンビームによるミリングが可能)で精密に取り出したあと、ダイヤモンドナイフでスライスするなどして、キーとなる物質を表面に出して分析しています。
小惑星『リュウグウ』が45億年の間にどういう歴史を刻んできたのか、そういった情報をいかにまとめられるかがこのプロジェクトの醍醐味です。

―試料の切削に東陽テクニカ取り扱いのXeプラズマFIB-SEMを用いることになりましたが、今回の分析にこのシステムを用いることの必然性、重要性を教えていただけますか。

『リュウグウ』の石はミクロンサイズの小さな塵の集合体です。その一つ一つの小さな粒子にさまざまな情報が記録されています。粒子の中の90%くらいが『リュウグウ』を構成している塵ですが、残りの10%は全く違う記録を残しており、『リュウグウ』がどのような歴史をたどってきたのかを知る貴重な情報源です。『リュウグウ』の全貌を解明するにはこの貴重な10%、時には0.1%となる物質全てを分析する必要があります。
むやみに粒子を切っても10%の情報を的確に探り当てることは難しく非効率です。そして、今回『はやぶさ2』が持ち帰ったサンプルの中にはミリオーダーの粒子が多く含まれています。従来の切削方法では、重要な科学情報を秘める微粒子を取り出すのに多くの時間を費やす困難がありましたが、それを解決したのがXeプラズマFIB-SEMです。
まず、放射光CT分析で、ナノスケールで粒子の内部を壊さずに観ることで貴重な微粒子を探し当てます。そして、XeプラズマFIB-SEMで、探し当てた微粒子がある断面をナノスケールで狙い、最小の切りしろで高速に切断します。一つの粒子を3箇所から切断することもあります。今回のような貴重なサンプルの精密切断を可能にするシステムは他にありません。
期間が限られている初期分析プロジェクトを効率的に進めることができ、大変意義のある分析が行えています。

東陽テクニカナノイメージングセンターでXeプラズマFIB-SEMを使用し分析している様子(左が中村先生)東陽テクニカナノイメージングセンターでXeプラズマFIB-SEMを使用し分析している様子(左が中村先生)

リュウグウ粒子の切削に使用した「XeプラズマFIB-SEM」リュウグウ粒子の切削に使用した「XeプラズマFIB-SEM」

―今回の初期分析プロジェクトでの発表を楽しみにしております。最後に、未来を担う子供たちに向けてメッセージをお願いします。

私自身、天体に興味を持ったのは幼少期でした。
恒星や惑星など、私たちが見ている姿は実は過去の姿-太陽であれば分単位ですが、遠い星では何万年、見つかっている銀河では遠いところで100億年先の遠いところにあり、地球から見える天体圏は過去の姿であるということを幼少期に知って、天体を見ることは過去を見ることなのだと興味を持ち始めたのがきっかけです。天体望遠鏡を買ってもらい、よく海岸まで出て空を観ていました。
星を観る以外に宇宙の研究はできないと思っていましたが、学生時代に固体物質の研究から宇宙のことが解明できるということを授業で知り研究の道を目指しました。
「宇宙には始まりの物質がある-始まりの記録が全部残っている」
大学の研究室で恩師から話を聞いて共に始めた研究が、今まさにこの初期分析に繋がっています。

ぜひ、子供たちにはこんな面白い世界があるんだということを知ってもらいたいですね。 私は好きなことをやって好きなように生きている、まるで「男はつらいよ」の寅さんのように思われているかもしれませんが(笑)、こうやって好きなことをとことん頑張ってみることに価値はあると思います。

インタビューを受けてくださった中村先生

今回の成果を楽しみに待ちたいとともに、東陽テクニカはこれからも、宇宙探査や分析技術の発展・普及に貢献してまいります。

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