工業用圧電型加速度計入門

はじめに

この10年間で、機械の状態監視に、振動計測で得られた値を使用することが一般的になってきました。予知保全においては工業用加速度計が市場を席巻しています。これらセンサは非常に堅牢で、広いダイナミックレンジを持ち、多種多様な構成が可能なため個々の取付要件に柔軟に対応することができます。

各アプリケーションに最適な加速度計を選定するのは難しいものです。汎用加速度計は優れたものであれば80パーセントのアプリケーションに対応可能です。しかし残りの20%には、特殊な振動センサが必要になります。これらの特殊なアプリケーションの例として、非常に高い周波数の振動監視、超低周波数の測定、極めて小さな振幅、高温での取付けなどがあげられます。

この資料では、主に加速度計の基本的な設計と特性を説明しますが低周波加速度計など特殊な加速度計の特性についても記述しています。その他、加速度計の設置、取付、配線方法などに関しても後半で記述しています。

物理設計

素材

圧電型加速度計は圧電効果を利用して加速度を計測します。そのため振動による力を電気信号として出力する圧電素子というものが主要部品として使われています。圧電素子に使用される素材にはさまざまなものがありますが、その一つに水晶があります。水晶は天然の圧電特性を持ち他のどの素材よりも安定しているため長期に渡って使用することができます。

その他、多結晶セラミック素材も圧電素子として一般的に使用されています。こちらはポーリングと呼ばれる分極化を行い、人工的に圧電特性を持つように製造する必要があります。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を高直流電圧、高温度にさらしてドメインを分極軸にそろえます。PZTの出力は天然素材の水晶と比べ経年劣化しやすいため、頻繁な再校正が必要になります。ユニットを人工的にエージングすることで、この劣化を抑えることができます。大きなレベルの衝撃を加えること高温下の使用でも、PZTを使用したセンサの出力が劣化させる傾向に働きます。

 

これら水晶とPZTの素材はどちらも利点と欠点があります。前述のように、水晶には優れた温度安定性があり、経年劣化もしにくいため、長期に渡り非常に安定して使用することができます。しかし水晶を使用したセンサは電圧感度が高いため、信号を整えるために電圧アンプが必要になります。大きな抵抗値を持つ電圧アンプは一般的にノイズが多く、あまり小さな信号は測定できませんが、非常に大きなレベルの振動監視を可能にします。PZTを使用したセンサは、大きな電荷出力と電気容量が特色です。そして、超小型電子アンプが使用されているため、小さな振動が測定できます。

加速度計を選ぶ際の検討事項として、圧電素子の素材の他に、ハウジング素材、コネクタータイプ、シーリング方法などがあります。工業用加速度計は通常、非常に過酷な環境において使用されます。加速度計に腐食や損傷を起こさせるような強力な化学薬品が使用されることもしばしばあります。そういった環境に対しても十分な耐久性があるのが耐腐性316Lステンレス製のハウジングです。また、316Lのステンレスは非磁性でもあるので、モーター周辺などでも使用できます。従来のアルマイト処理(陽極酸化)されたアルミニウムのケースでは、極度の厳しい環境に耐えられません。

しかし、最近ではでアルミニウムを含む合成素材をハウジングに使用した新しい加速度計も登場していて、それらの中にはステンレス製と同様の腐食耐性を有するものもあります。ハウジング同様コネクタにも過酷な環境に耐えうる堅牢性が求められるのでステンレス製でハーチメックタイプのものが必要です。BNCコネクタなどの非ハーメチックタイプは便利ですが、工場などでの使用環境に耐えることができません。繰返しの使用や激しい振動によってすぐに劣化してしまいますし、エポキシシールから異物がセンサ内に侵入することもあり、そうなるとセンサは致命的な損傷を受けます。ハーメチック技術または電子ビームにより溶接されたコネクタは外部からの異物の侵入を完全に防ぐことができます。

機械構造

工業用加速度計には3種類の基本構造があります。ビーム型、圧縮型、シェア型です。3種類すべてにおいて圧電素子、慣性マス、ベース、ハウジングが基本構成部品となります。

ビーム型構造では、圧電素子はダブルカンチレバービーム構造でその端部に慣性マスが固定されています。図1は、圧電素子と慣性マスが支点またはベースで動く構造を示しています。ビーム型構造は共振周波数が低いため、一般的に工業機械の状態監視アプリケーションには適していません。非常に大きな出力(最大10V/(m/s2))が得られるため、ビーム型は低レベル、低周波数の振動アプリケーションに適しています。その他、ビーム型は内部部品の接着にエポキシ樹脂が使用されていることが多いので、衝撃の激しい環境での使用にあまり適していません。

ビーム型

圧縮型構造は、一般的に最もシンプルで、理解しやすいです。圧電素子は、伸縮性のあるプリロードボルトで、慣性マスとベースにはさまれてています。ベースに加わった動き(振動)によって水晶に圧力がかかり、出力を発生します。圧縮型は高い共振と耐久性のある設計なので、ビーム型に比べて工業機械の状態監視により適しています。また、圧縮型の設計は、一般的にベースが厚く、環境による影響(ベース歪/熱遷移)に対しての耐性が低いので壁の厚い物体の測定向けです。

圧縮型

シェア型では、せん断ストレスを感知する仕組みになっています。圧電素子と慣性マスは、図3に示すようにプリロードリングを経由して、直立しているセンタポスト/ベースに取り付けられています。このプリロードが、優れた周波数応答および精密で堅牢な構造を可能にしています。受感軸と取付表面は向きが異なるため、ベースの歪み/熱遷移が起こっても他の構造に見られるように出力信号に影響がありません。

シェア型

選定基準

加速度計の選定では振幅レンジ、周波数レンジ、環境条件の3つが主な検討事項になります。

振幅レンジ
予知保全のアプリケーションで使用される加速度計は、アンプ内蔵のICP®加速度計です。この加速度計は、定電流電源を使用します。電源電圧は18~28Vで安定化され、電流は定電流ダイオードで2~20mAに制限されます。ICP®加速度計の出力は、DCバイアスのかかったAC信号です。振動信号(一般的に10mV/(m/s2) AC)は、DCバイアスに重畳されます。通常、DCバイアスはデカップリングコンデンサでブロックされるため、読取装置はACカップルでも問題ありません。18VのDC電源で通常のバイアスレベルが12VDC、加速度計の信号が10mV/(m/s2)の場合、最大測定信号は50gまたは5VDCになります。電源電圧を上げるか、加速度計の感度を下げるかで、この最大レベルを上げることができます。同じ5VDCの最大出力で1mV/(m/s2)の加速度計を使用すると、振動リミットは500gに上がります。

振幅レンジで考慮すべきもう一つの基準に、測定可能な最小振動レベルがあります。これは、ノイズフロアまたはセンサの分解能としてカタログで記載されています。加速度計の分解能は、内蔵アンプの電気ノイズと、マス/圧電システムの機械的ゲインという2つの要素で決まります。慣性マスが大きくなるほど、増幅前のセンサ出力は大きくなります。この機械的な高ゲインが、アンプのゲインを使うことなく十分な電気信号を生成し、ことにより、低レベル測定限界を改善します。一般に、セラミックの受感素子はS/N比が優れているため、解析に影響を及ぼす電気ノイズを考慮することなく小さなレベルの信号を測定できます。

周波数特性
アンプ内蔵型のICP®加速度計の周波数特性は、加速度の応答がほぼ直線になります。周波数応答の上限は機械剛性と慣性マスの大きさで決まり、下限はアンプのロールオフと放電時定数によって決まります。図4に、代表的な周波数応答を示します。(感度偏差対周波数)

感度偏差対周波数

高周波特性
高周波数特性は、w=Ök/mの式で求められます(wは共振周波数(2pf)、kはセンシング構造の剛性、mは慣性マスの大きさ)。同じ剛性で慣性マスが大きくなれば共振周波数は小さくなります。大きな慣性マスでは機械ゲインも大きくなるため、結果として小さなノイズ、優れた感度の加速度計になります。小さな慣性マスでは信号も小さくなりますが、センサでの共振周波数は高くなります。慣性マスが小さいと出力信号は小さくなりますが、周波数レンジが広くなるために高い周波数での測定を可能にします。

w=Ök/mの式の二番目の変数である剛性は、センシング構造に依存します。ビーム型構造だと機械的ゲインは優れていますが、剛性は非常に低くなります。ビーム型は、一般的に高出力、低共振、低衝撃耐性です。圧縮型は、プリロード圧縮ネジのおかげもあり、ビーム型に比べて剛性が高く、そのため高い共振と広い周波数レンジを持ちます。先の説明にあるように、ベース歪や熱遷移などをもたらす環境条件によって使用用途が制限されます。シェア型加速度計は、ネジ等で固定されると高い剛性と、高い共振を発揮します。歪みや温度変化などの外部環境の影響を最も受けない構造です。

低周波数特性
低周波側は、放電時定数(t=R×C)を求める抵抗コンデンサ回路によって電気的に決まります。放電時定数が大きくなると信号の減衰が遅れるので、低周波数応答は良くなります(表1を参照)。放電時定数は漏斗にたとえることができます。漏斗の底の穴が小さいと(または時定数が大きくなると)、水(信号)は少ししか流れません。時定数が大きな加速度計は、低周波数応答がよいと言えます。低周波アプリケーションは、適切な放電時定数を持つセンサでないと管理できなくなることが多々あります。周波数応答の他、放電時定数はセトリング時間も決定します。放電時定数が大きくなると、セトリング時間は長くなります。(注:経験則では、放電時定数の10倍のセトリング時間では、信号は出力バイアスの1%以内に減衰します。)研究室環境で2、3点のデータ取得が必要な状況においては、数秒のセトリング時間は大したことないかもしれませんが、現場で矢継ぎ早にデータをとる必要がある場合には重要になってきます。テスト環境に合った低周波数応答とセトリング時間のバランスをうまくとっていく必要があります。

環境

材質
工業用加速度計は、非常に劣悪な環境における長期使用を前提としています。先にも述べたように、材質の選定は、過酷な環境に対する加速度計の耐性に直接影響します。加速度計は316Lのステンレス鋼製、コネクタはハーメチックの軍用スタイルのものにするべきです。二重構造ハウジングの外側のケースもハーメチックシールドであるべきです。アルミニウムケースの加速度計は、過酷な工業環境での使用には向いていません。BNCと10―32同軸コネクタでは、工業用アプリケーションでは耐えられません。内部の圧電構造は取付けねじ等で固定されるべきで接着剤などは使用してはなりません。

ケーブル関連も、丈夫なものでなければなりません。異物進入が想定される場合は、接続されたコネクタ同士はシールドすべきです。ケーブル外皮の材質も、使用環境の化学物質や温度範囲に耐えうるものを使用すべきです。コネクタ、ケーブルに関して十分な注意が払われなかった結果、問題が生じることが多々あります(加速度計本体を十分堅牢なものにしても、ケーブルやコネクタで問題が発生してまうのです)。

取り付け
環境条件で考慮すべきもう一つが、加速度計の取付方法です。取付けには、主に4つの方法があります。スタッド、接着、磁石、ハンドプローブまたはスティンガーの使用です。取付け方法によって、加速度計の高周波特性が異なってきます。スタッドによる取付けが最も広い周波数特性を可能にする、確実で信頼性の高い取付け方法です。図5に、スタッドで取付けるための理想的な取付け表面の状態を示しています。

スタッド取り付け

その他のすべての取付方法では、加速度計の高周波応答はスタッド取付けよりも低くなってしまいます。これらの方法ではマウントパッド、ハンドプローブなどの取付け部品を使用するため、加速計がそれだけ、測定対象物(接触面上の測定ポイント)から離れてしまい、その結果、加速度計の共振周波数が下がります(感度が下がります)。そのため、高周波応答も低下します。加速度計が取付けによって測定ポイントから離れるほど、共振周波数はより小さく、使用できる周波数レンジはより低くなります。図6に、取付け方法による共振の違いを示します。

スタッド取り付け

  1. スタッドグリス塗布
  2. 接着
  3. マウントパッド
  4. マグネット
  5. 曲面マグネット
  6. ハンドプローブ

取付けについて最後に重要なことは、取り付けする表面に対しての事前準備が必要であるというる点です。表面はできる限り平坦であるだけでなく、清潔でゴミがなく、取付け穴は垂直になっており、取付表面は潤滑油で薄くコーティングされているべきです。このコーティングにより、高周波振動の伝達性がよくなり、加速度計の高周波応答が向上します。一般的に、シリコン真空グリス、重機械油または蜜蝋が使われます。

ケーブル
すでに言及されているように、使用するコネクタとケーブルは設置された加速度計の堅牢さと信頼性に直接影響を及ぼします。ケーブルで考慮すべきことの一つに、ケーブルの導線の処理方法があります。ICP®加速度計は、アンプ内蔵の2線加速度計です。センサへの接続には2本のリード線が必要で、一本は電源と信号用であり、もう一本はコモンそして信号リターン用です。同軸ケーブルは 2線であり安価なため、よく使用されます。しかし同軸ケーブルを使用した場合、グランドループ、電磁干渉、無線干渉(EMIまたはRFI)などによってセンサシステムにエラー信号が発生することがあります。グランドループを防ぐためには、1システムにつきグランドは1つのみにする必要があります。

恒久的な設置では、ノイズのない振動信号の伝送のために2本のシールド導線が必要です。2本のシールドされた導線を使用することにより、加速度計から読取装置間の信号と信号リターン(共通)は、完全に絶縁されます。EMIやRFIからできるだけ絶縁し、グランドループ信号が発生しないようにするためには、シールドケーブルは一端だけで終端するべきです。一般に、2線シールドケーブルのシールドは開放か加速度計に接続せず、機器側で接地します。

まとめ

工業用加速度計は、機器の予知保全、振動監視になくてはならない装置です。使用される加速度計は、そのアプリケーションの要件を満たしていることが重要です。振動アナリストは、本章で説明された検討事項を念頭にアプリケーションをレビューし、アプリケーションエンジニアが正しい加速度計を選択できるようにアドバイスする必要があります。考慮すべき最も重要な3つの基準が、内部構造、外部構造、設置です。内部構造では、ダイナミックレンジを考える上で受感素子の材質、構造が重要になります。外部構造は、信頼性、長期耐久性において重要になります。そして最後に、設置においては、取付け方法やケーブルによる影響が抑えられるよう考慮すべきです。

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