加速度計の質量および構造物の支持条件がモーダル解析に与える影響とは?
モーダル解析を行う際には、試験装置やセンサ(計測機器)の取り付け方法が測定結果に影響を与える可能性があることを理解しておく必要があります。これは特に、電子機器の筐体やプリント基板など、軽量で小型な構造物を対象とする場合に顕著にあらわれます。
この点はモーダル解析を初めて行うエンジニアには見落とされがちです。実際に、ある軽量構造物に対してモーダル試験を行った報告書の中では、複数回の試験と解析を繰り返した結果、加速度計の質量が測定された固有振動数に影響を与えていたことが後から「判明」した事例もあります。
① なぜ加速度計の質量が問題になるのか?
モーダル解析では、加速度計などのセンサを試験対象物に取り付けて振動応答を測定します。しかしこのとき、加速度計そのものが構造物に“質量”として加わるという事実を見落としてはいけません。
現実的な観点から考えると、センサを取り付けるという行為は、構造物に対して直接的に質量を追加していることになります。それにもかかわらず、モーダル解析初心者の多くが、なぜかセンサは「非干渉」な存在だと誤解されがちです。
② 理論的な背景:固有振動数と質量の関係
理論的には、固有振動数(自然周波数)は、剛性と質量の比の平方根に比例します。つまり、加速度計の質量が構造物に追加されると、全体の質量が増えるため、固有振動数は低下することになります。
特に、加速度計の質量が大きい場合、その影響は顕著になります。そしてもう一つ重要なのは、構造物のサイズや質量によっても影響の大きさが変わるという点です。
たとえば、橋やビルのような大規模な構造物であれば、加速度計が与える質量の影響は無視できる程度です。しかし、構造物が小さく軽量になるほど、加速度計の質量がもたらす影響は相対的に大きくなり、測定結果に大きな誤差を生む可能性が高まります。
【ポイント】
- 剛性 k が大きい → 振動数が高くなる
- 質量 m が大きい → 振動数が低くなる
③ 有効質量とは何か?
モーダル解析では、構造物全体が一様に振動するわけではありません。実際に振動に寄与している“モーダルに活性な部分”のみが、解析上の質量(=有効質量)として重要になります。
たとえば、大型のコンピュータラックに複数のディスクドライブや電子基板が取り付けられている場合を考えてみましょう。
このような大型構造物に加速度計を取り付けても、頑丈なフレーム部分では、その質量は全体に対して相対的に小さく、ほとんど影響を与えません。しかし、ラックの側板や、ディスクドライブのアーム、コンピュータボードのような小さく軽い部品に加速度計を取り付けると、その質量は有効質量に対して無視できない大きさとなり、測定結果に大きく影響する可能性があります。
「加速度計の質量は全体質量に比べて小さいから大丈夫」と思っていませんか?
ここで注意すべきなのは、加速度計の質量は「構造物全体の質量」と比較して評価するのではないということです。
大切なのは、「その部位がどの程度モーダルに活性であるか」、つまり「有効質量に対する加速度計の相対的な重さ」です。
この考え方を見落とすと、測定結果に大きな誤差を生むことになります。
④ 実験:加速度計の質量が周波数をどう変えるか
この理論をより分かりやすく理解するためには、実際の実験を例に解説します。
この例では、試験対象物として古いディスクドライブを固定するための軽量なブラケット(約5インチ×3インチ×2インチ)を使用しました。
このような軽い構造物に加速度計を取り付けると、その質量が構造全体に与える影響が明確に現れます。測定データの完成度は高くないかもしれませんが、加速度計による「質量負荷効果(mass loading)」を示すには十分な結果が得られました。
対象となる構造物は、古いディスクドライブ用の軽量ブラケットです。このブラケットの側面にある開口部に、以下の2種類の加速度計を取り付けて実験を行いました。
- 非常に軽量な加速度計
- 重量liのある加速度計
特に、加速度計の質量が大きい場合、その影響は顕著になります。そしてもう一つ重要なのは、構造物のサイズや質量によっても影響の大きさが変わるという点です。
たとえば、橋やビルのような大規模な構造物であれば、加速度計が与える質量の影響は無視できる程度です。しかし、構造物が小さく軽量になるほど、加速度計の質量がもたらす影響は相対的に大きくなり、測定結果に大きな誤差を生む可能性が高まります。
測定結果の一部を図1に示します(※図は仮定)。図中の矢印は、代表的な固有振動数を示しており、以下のような周波数差が観測されました。
- 赤色の矢印:260 Hz(重い加速度計使用時)
- 青色の矢印:271 Hz(軽い加速度計使用時)
一方で、測定された低振幅の2つの周波数モードに関しては、加速度計の質量による影響がほとんど見られませんでした。
その理由は、以下の通りです。
- これらのモードはy方向またはz方向に主な変位が発生するモードであり、x方向の測定では影響を受けにくい。
- また、加速度計が節点(node)に位置していた可能性が高く、質量の追加による影響が実質的に無視できる状態だったと考えられます。
教訓①:加速度計の質量は固有振動数に影響を与える
これは、物理的に当然の結果です。なぜなら、固有振動数は「剛性」と「質量」の比率の平方根で決まるため、加速度計を構造物に取り付けるという行為は、「質量を追加する」ことであり、測定結果を変化させてしまう可能性があるためです。
教訓②:加速度計の取り付け位置も影響を与える
もうひとつ大切なポイントは、加速度計をどの位置に設置するかです。
- 節点(node):振動が起きない点に加速度計を取り付けた場合、そのモードにはほとんど影響を与えません。
- 腹点(antinode):振動が最も大きい点に加速度計を取り付けた場合、質量の影響が最大になります。
⑤ 構造物の支持条件が結果に与える影響
モーダル解析を行う際、多くのエンジニアが加速度計の質量が測定結果に与える影響(=質量負荷効果)に注目します。しかし、それと同じくらい重要で、見落とされがちなのが構造物の支持条件の影響です。 次は、質量負荷の影響を見抜く簡単な方法と、支持方法によってどれほど測定結果が変化するかについて解説します。
加速度計の質量負荷の影響を見抜く簡単な方法質量負荷の有無を判断する最も簡単な方法は、加速度計を2つ使った比較測定です。
手順:
- 同じ位置に2個の加速度計を取り付ける
- 2個とも設置した状態で、周波数応答関数(FRF)を測定
- 次に、片方だけを取り外して再度測定
- 2つの測定結果を比較し、差があるかどうかを確認
※修正方法の詳細はこの記事の範囲外としますが、別の機会に詳しくご紹介します。
見落とされがちな「支持条件」の影響とは?
加速度計の質量ほど注目されることは少ないですが、構造物の支持条件(どのように支えるか)も、測定結果に大きな影響を与えます。
多くのモーダル解析では、「free-free」条件を再現しようとします。理想的には、構造物に全く拘束がない状態を目指すのですが、実際には地球上で完全なfree-free条件を実現することはできません。 そこで、さまざまな方法で「ほぼ自由な状態」をシミュレーションすることになります。
実験結果:支持条件によって周波数はここまで変わる!
以下の3つの支持方法で、同じ構造物(軽量ブラケット)のモーダル試験を行いました。
- 厚手のウレタンフォームで支える(緑)
- エアバッグ梱包材で支える(赤)
- 輪ゴムで吊るす(青)
驚くべきことに、この差は加速度計の質量負荷によって生じた周波数差とほぼ同じレベルだったのです。
- 加速度計の質量を考慮する:軽量なセンサを使用し、必要に応じて質量負荷の確認を行う
- 加速度計の取り付け位置に注意:節点(ノード)と腹(アンチノード)を意識する
- 支持方法を検討する:「free-free」に近づける工夫が重要
- 試験条件は繰り返し検証する:測定誤差を減らし、信頼性を高める