信号ケーブルの問題

システムケーブルの基礎

測定システムの信頼性は、入力ケーブルの信頼性よりも高くなることはありません。入力ケーブルは主に加速度計からデータ収録装置に電気信号を送信する役割を担います。

理想的には、ケーブルの電気的特性と長さが信号品質に影響を与えないことが望ましいです。ケーブルとコネクタは、加速度計が動作しているのと同じ振動環境や衝撃環境でも確実に動作するように、耐久性を高くする必要があります。またケーブルは、極端な温度、湿度、ほこり、油、放射線、EMIとRFI、塩水噴霧、真空などのあらゆる環境条件の組合せに耐える必要があります。しかし、1種類の加速度計では全ての環境条件に対応できないのと同様に、1種類のケーブルまたはコネクタでは全ての環境条件には対応できません。

実験室、現場、水中、船上、およびESS複合振動/熱サイクル製品試験用途などの過酷な環境で振動測定器を使用しようとするエンジニアにとって、ケーブルとコネクタの信頼性の低さは大きな懸念材料です。使用する計測器の種類によっては、エンジニアが選択するケーブルは、「電荷出力型」加速度計の測定システムで必要とされる特別な「ローノイズ」ケーブルに限定されることがあります。低インピーダンスの「電圧型」システムでは、特定の用途に最適な標準ケーブルから選択することができます。

電荷出力型加速度計の測定システムのケーブル

一般的な電荷出力型加速度計の測定システムには、pC/g(重力加速度当たりのピコクーロン)で表される高インピーダンス静電荷出力を発生する圧電型(PE)加速度計が含まれます。圧電型(PE)加速度計は、特別なローノイズケーブルを使ってチャージアンプに接続されます(下記説明を参照)。チャージアンプの主な機能は、加速度計の高インピーダンス電荷出力信号(通常109~1014 Ω)を、標準のデータ収録装置で使用可能な低インピーダンス電圧信号(<100 Ω)に変換することです。

電荷出力型加速度計の測定システムでは、加速度計とチャージアンプの間に特別なローノイズケーブルを使用する必要があります。これは、通常のケーブルが曲がってしまったりすると、加速度計が生成する信号よりも大きい振幅の静電荷出力を生成しかねないためです。チャージアンプは電荷信号が加速度計からかケーブルから来ているかを区別できないので、特別なローノイズケーブルを使用しなければなりません。通常「摩擦電気ノイズ」と呼ばれるケーブルノイズは、誘電体とシールドの間の動きによるケーブル内の摩擦効果によって発生します。

ローノイズケーブルとはどのようなものですか?

ローノイズケーブルは、誘電体とシールドの間に導電性潤滑剤(通常はグラファイト)を塗布した特別なケーブルです。潤滑剤は摩擦を最小限に抑え、ケーブルが曲がったりしたときに発生する電荷ノイズを低減します。ローノイズケーブルは通常、固体の単線(導体)、高い絶縁抵抗のためのPTFE誘電体、およびしっかりと巻かれた外側ジャケットを備えています。ローノイズケーブルは、導電性グラファイト潤滑剤とタイトな構造によって、ケーブル内の材料の層間の動きを最小限に抑え、電荷ノイズを低減します。

ローノイズケーブルの性能を維持するためには、通常のケーブルよりも慎重に取扱う必要があります。捻じ曲げたり、きつく巻いたり、引っ張ったり、圧着したり、踏みつけたりなどして、製造されたケーブル構造を緩めてしまう事のないように注意する必要があります。

電荷出力型加速度計の測定システムの高インピーダンス側でローノイズケーブルは使われるため、ローノイズケーブルは清潔さを保つ必要があります。ケーブルとコネクタの汚れは抵抗を低くくし、加速度計からの電荷信号がアースに流れてしまい、低周波応答の損失や過度のドリフトを引き起こします。これにより電荷出力型加速度計の測定システムでは、接続部を密閉してシステム全体をを清潔に保つ維持管理ができない場合、通常は厳しい工場、野外、水中、またはその他の汚染された環境での運用には適しません。

その他の懸念事項として長いケーブルを使用する際のローノイズケーブルに関するものがございます。従来のシグナルコンディショナに対するチャージアンプの主な利点の1つは、システムの感度が入力ケーブルの長さに依存しないことです。

感度はケーブルの長さとは無関係ですが、システムノイズと分解能はケーブルの長さに影響されます。これは、ケーブルが長くなるとチャージアンプの容量性負荷が増加するためです。長い入力ケーブルによるノイズを減らすために、チャージアンプは一般に加速度計の近くに設置され、長い出力ケーブルが使われます。チャージアンプ制御の遠隔操作(例えば、遠隔アーススイッチ)が複雑なため、より特殊な小型ライン駆動型(チャージコンバータ)が設計、開発されました。

ローノイズケーブルはかなり高価なので、コスト面においても懸念されます。多くの場合、100フィート(約30メートル)のローノイズケーブルは、通常の低コストの同軸ケーブルまたはリボンワイヤケーブルを使用する低インピーダンスの電圧型加速度計よりも高価になります。ローノイズケーブルは高価であることから、多くのユーザは独自のケーブルを作成したり、専用ケーブルを必要としない他の種類の加速度計を使用したりするようになりました。

電荷出力型加速度計の測定システムのケーブルの問題を解決するには、どうすれば良いですか?

ケーブルの設置および保守に関するメーカのガイドラインに従ってください。ケーブルを結束して、コネクタへの応力を軽減します。また耐久性のあるケーブルを使用して下さい。汚れた場所や湿度の高い環境で使用する場合は、ケーブル接続部をRTVと熱収縮チューブで密封して下さい。必要に応じて、適切な溶液などでケーブルを清掃して下さい。絶縁表面に低抵抗の経路が生じないようにするため、薄膜を残す可能性のある洗浄液を使用しないでください。(コネチカット州DanburyのMiller Stephenson Companyは、高インピーダンス回路の洗浄に適した各種のエアロゾル洗浄液を製造しています。)長い入力ケーブルが必要になりそうな場合は、小型チャージアンプを加速度計の近くに設置して、ハイブリッド電圧型システムを構築し、長くて安価な普通の同軸ケーブルを使用します。

ほとんどの加速度計メーカは、そのようなハイブリッド電圧型システムを提供しています。長い入力ケーブルの端にチャージアンプを設置するよりも、より良い信号/ノイズ比を得られることは、ハイブリッド電圧型システムの回路のもう一つの技術的利点です。
 

電圧型システムにおけるケーブル

電圧型システムでは、電荷電圧インピーダンス変換は、超小型電子集積回路アンプによって加速度計内で行われます。すべての高インピーダンス回路は加速度計の内部に安全に密封されています。 集積回路を動作させるための電力は、計測機器に内蔵された定電流源から、またはシグナルコンディショナ等の電源によって供給されます。集積回路圧電(ICP®)加速度計からの出力は低インピーダンスの電圧信号であり、通常の同軸ケーブル、リボン線、またはツイストペアケーブルを介して2線式回路として動作します。

ほとんどのICP®加速度計からの出力は低インピーダンスの電圧信号であるため、各種の標準ケーブルおよび標準コネクタが使用できます。測定者は、高温、極低温、堅牢な工業用、MIL仕様、水中タイプなど、様々な用途に最も適したケーブルとコネクタを選択できます。これらすべての環境条件で動作するように、物理的、電気的、またはコスト的な観点からケーブルを選択できます。

互換性のあるコネクタ付きの標準の同軸ケーブル、リボンワイヤ、およびツイストペアケーブルは、ユーザが容易に作成することができ、メーカから購入することもできます。優れた組立技術が必要であることを除けば、特別な注意は不要であり、特別な導電性で低ノイズの潤滑剤を除去する必要もなく、コストがかさむノイズチェックや面倒な高インピーダンス接続の維持も必要ありません。言い換えれば、ICP®低インピーダンス電圧型システムは、測定者にケーブル/コネクタ選択の自由を与えてくれます。

多種多様なケーブルを容易に使用できるように、低インピーダンス型の加速度計は、はんだでのピン接続を備えていることが多いです。コネクタアダプタは、標準の10-32マイクロコネクタを、2ピンはんだ接続に変換します。

2ピンアダプタは、加速度計の接続を堅牢にするのに非常に有用です。簡略式はんだ端子接続により、やや「過酷な」環境での構造支持用「杭」に対する衝撃速度測定に関連する加速度計ケーブル接続は高耐久化されました。はんだコネクタアダプタの一体化設計は、100,000gまでの高衝撃用途でも十分に機能しています。

予想不可能な条件下の遠隔地で測定を行うことになる測定コンサルタントは、現場で長いケーブルを構成するための、はんだピンアダプタを重視します。断線したケーブルは、はんだごてで素早く簡単に修理できます。大学のユーザは、自身で低コストの加速度計用リボンケーブルを製造しそして修理できることによる、経済的利点を高く評価しています。

内蔵の微小電気シグナルコンディショナの組込み、加速度計内部の高インピーダンス回路の密封、標準ケーブルとコネクタの提供は、汚れた工場環境での機械の連続振動監視用途のために圧電型加速度計をクリーンな研究室から移動する上での重要な要素です。機械監視用途には、何百もの恒久的に設置された加速度計の無人操作が必要となることがあるため、信頼性の高い接続の確立、および工場の悪環境下での集中的データ収録機器への長距離低コストケーブルの配線が重要です。そして、これらすべては低コストで実現しなければなりません。

本稿の冒頭で説明したケーブルのトラブルを回避するために、低インピーダンスの電圧型加速度計を使用した多チャンネル測定システムにも、適切なケーブル管理方法があります。これらのケーブル管理方法の1つとして、自動車、航空機、宇宙船、衛星、その他様々な構造物での数百チャンネルの構造運動測定用に設計されたPCBの「Structcel」モーダルアレイシステムがあります。

Structcelケーブル管理システムは、必要な長さに合わせて切断された一体型の低質量リボンケーブルを備えたトランジスタ型のプラグイン式加速度計接着剤取付パッドを使用しています。標準の絶縁変位コネクタ(IDE)がケーブルに取付けられており、これは「パッチパネル」に接続するのに便利です。パッチパネルからシグナルコンディショナに戻る長いケーブル接続は、多芯リボンケーブルによります。ケーブルは構造物にきちんとテープで貼付けることができ、設置時に必要な長さに合わせて切断されるため、長すぎたり短すぎたりすることはありません。300チャンネルのモーダル解析試験は、加速度計の設置からエンドツーエンドの校正やデータ収録まで、わずか3日間で完了しました。

優れたケーブル管理システムには、試験構造からデータ収録までの標準的なケーブルとコネクタが含まれます。このシステムでは、BNCコネクタ付きの長くて低コストの標準RG-58UまたはRG-62U同軸ケーブルが、データ収録装置からテストセルにあるBNCパッチパネルまで配線されます。10-32からBNCへのジャックコネクタを備えた、短く耐久性のある同軸アダプタケーブルで、加速度計をパッチパネルに接続します。耐久性のあるケーブルは、通常の同軸ケーブルに熱収縮チューブで覆われたステンレス鋼編組を追加して作られています。ケーブルに問題が発生した場合は、ケーブルの短い部分だけを交換すれば済みます。

低インピーダンスの電圧型システムでケーブル接続の連続性を監視することは非常に簡単で、安価に実現できます。加速度計の内部には、トランジスタ回路に関連するDCバイアス電圧があります。このDCバイアス電圧は、通常3~5または10~12ボルトの範囲で、電源/信号コンディショナへの入力ケーブルに存在し、そこで出力から分離されます。ほとんどのICP®定電流電源装置で標準的な、シンプルに色分けされたメーターは、DCバイアス電圧を継続的に監視することによってケーブルの正常性をチェックします。緑色のメーター表示は正常な回路接続を示します。赤色は短絡を示し、黄色はオープン回路を示します。各チャンネルの接続の良否を確認し、特定の障害(短絡または開放)を表示します。ICP®に類する定電流電源装置のほとんどのメーカは、このケーブル監視回路を提供しています。その監視状態は、メーター、LCDディスプレイ、またはライトで表示できます。

要約

ケーブルとコネクタは、振動測定システムの性能とコストに影響する主要部品です。システムを購入する以前に、ケーブルの種類、長さ、接続、動作環境、メンテナンス、可用性、およびコストに関する問題に対処する必要があります。計装が稼働状態になった後で、無視していたケーブル接続に起因する問題が表面化することはよくあります。

測定システムによっては、非常に特殊なローノイズケーブルが必要です。ただし、これらの測定システムは、加速度計の近くに小型の電荷変換器(チャージアンプ)または電圧変換器を設置することで、低インピーダンス動作に変換できることがよくあります。電子回路を内蔵した加速度計を使用するシステムは、低インピーダンスの電圧信号を出力します。この電圧信号は、標準の低コストケーブルおよびコネクタと互換性があり、測定エンジニアが特定の用途に最適なケーブルおよびコネクタを選択できます。