加速度計の挙動

理想と現実

理想と実際とで、どこが異なるでしょうか?

次のような名言を聞いたことがありますか?「アナリスト以外に理論解析の結果を信じる人は誰もいない。実験者以外に実験の結果を信じる人はいない。」 試験計測の世界にこの名言を当てはめると、振動センサは試験対象である自動車、電子機器、人工衛星、機械装置などと同じように構造物です。すなわち、加速度計が応力を受けてストレインを示し、加速度計が動いたり、曲がったり、たわんだりして、現実世界の挙動を示します。試験技術者は、有効なデータと有効な結果の両方が生成されていることを確認するために、測定機器の実際の挙動を理解する必要があります。

加速度計の世界では、理想的な挙動は非常に単純であり、理想的な加速度計は「直線」の挙動をします。すなわち、入力および出力振幅に対する直線(線形)関係、FRFの大きさに対する直線、およびFRF位相に対する直線です。実際には、メーカは完全なセンサを作ることはできないので、通常はセンサの挙動が理想に近くなる範囲は限られています。この範囲は、振幅の直線性や周波数応答などの重要な仕様について、加速度計の有効範囲として定義されることが多いです。

これらの重要な仕様は、電気的または機械的な設計だけでなく、ユーザの選択によっても左右されます(センサの取付けや電源の放電時定数の選択など)。 例えば、振幅の線形性は、ICP®圧電型加速度計における内部インピーダンス変換アンプの線形範囲に関するメーカの設計に左右されます。これは通常、アンプに±5ボルトの振幅を与える加速度または「g範囲」として表されます。標準の100 mV/g加速度計の場合、振幅の直線性の範囲は±50 gです。

その他の主要な性能仕様は、ユーザの選択と操作に依存します。より高い周波数での加速度計の周波数応答は、ユーザに依存する仕様の1つです。選択した取付条件(表面処理、接着剤の選択、接着剤の厚み、接着剤ベースなどのオプション取付具の追加質量など)に応じて、取付けられたセンサの周波数応答曲線が作成されます。

 

図1:共振周波数に対する取付の影響

一般的に、加速度計の周波数範囲と感度/分解能は反比例します。地震監視などのために、より高い感度が必要になると、感度向上のために慣性マスが加速度計の受感素子に追加され、受感素子の共振周波数(および有効周波数範囲)が低下します。他方、小型の加速度計は一般的に感度が低いですが、使用可能な周波数範囲は極めて広いです。どちらの場合でも、加速度計の実際の挙動は、一自由度の2次システムに近似します。これは図2のような古典的な周波数応答曲線を示します。通常、使用可能な周波数範囲はほぼフラット(振幅感度の±5%または±10%)であり、取付後の共振周波数の最初の約20%にすぎません。図3のような曲線は、周波数応答に対するセンサ減衰の影響を示しています。ピエゾ抵抗型(PR)および(可変)容量型(VC)の加速度計など多くの場合において、臨界または近臨界減衰は、衝撃または帯域外ノイズのような高周波数の事象に対する応答を減少させるために望ましいです。

 

図2: 一般的なICP®加速度計の周波数応答

図3: センサ減衰の周波数応答に対する影響

最後の種類の挙動は、実際にはユーザの選択とメーカの設計の両方に依存します。 ICP®タイプの加速度計の放電時定数は固定されており、これは適切な低周波応答を保証するために重要ですが、測定チャンネルの実際の応答はRSS値によって決まります。RSS値は、定電流源の放電時定数と加速度計の放電時定数の組み合わせです。定電流源は、スタンドアロンのシグナルコンディショナ、またはデータ収録装置に内蔵されたダイナミックシグナルアナライザです。例えば、構造試験に有用なモーダルアレイ型加速度計は通常1秒の放電時定数を有するので、その理想的な5%ロールオフ周波数は0.5 Hzとなります。しかし、同じく1秒の放電時定数を有するICP®電源に結合されると、全測定チャンネルの時定数は二乗和の平方根により計算され、放電時定数は0.707となります。この機能により、5%ロールオフ周波数は約0.7 Hzに上昇します。AC結合測定では、経験則として、シグナルコンディショニング放電時定数は、変化しない低周波の挙動を実現するために、センサの放電時定数の約10倍になるようにします。極めて低い周波数の測定が必要な場合は、DC結合測定モードに切り替えるのが一般的です。

いずれにせよ試験エンジニアは、測定器の実際の挙動を知っていることが望ましいです。加速度計の世界では、重量測定校正のような単純な手段や、精密加速度計校正ワークステーションのような自動化された方法で、この挙動を校正し評価することが可能です。いずれにしても、質問があればお気軽にお問い合わせください。