電気化学ソリューションマガジン Vol.03

電気化学測定(3 電極系)の基本 PART2-参照電極

理化学計測部 電気化学チーム マーケティング担当です。

新年がスタートして一週間ほど経ち、ようやく気持ちが切り替わったという方も多いのではないでしょうか。我々も気持ち新たに本年をスタートしております。2020 年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

今回は前号からの続きで、作用電極について前号に続き説明いたします。
また、電気化学測定の基本である 3 電極系のうち参照電極についても触れます。

1.電気化学測定の基本(3 電極系)-作用電極 2.メンテナンス

【作用電極】

その電極表面で目的の反応が進む(反応を進める)ための電極であるため、作用電極のメンテナンスが適切に行われていないと何を測定しているのかわからなくなってしまいます。大気中に放置された電極表面には、空気中の塵や有機物が吸着していることが多く、そのため電気化学測定前には表面を清浄にするための前処理を行いチェックする必要があります。
ここでは、作用電極の基本的なメンテナンス方法について記載します。

1.作用電極のクリーニング方法
(物理研磨)
金、白金など貴金属:
0.05 μm 程度のアルミナ懸濁液を用いて研磨後、数分程度超音波洗浄を行う。
※長時間の超音波の照射は、電極ボディーのプラスチック素材にクラックなどが生じる可能性があるため避ける。

ガラス状(Glassy)カーボン:
貴金属に比べ汚れが残りやすいのでより時間をかけて研磨を行う。
あるいは 1 μm 程度のやや粒径の大きいアルミナの懸濁液での研磨も有効な場合がある。
汚れがひどい場合には、数 μm 程度のダイヤモンド懸濁液で研磨後、アルミナにて最終研磨を行う
作用電極のクリーニング 作用電極の研磨 GC電極の研磨
作用電極のクリーニング
(電解)
0.5 M 程度の硫酸水溶液で 0~+1.2 V(vs. Ag/AgCl)の範囲で、複数回サイクリックボルタンメトリー(CV 測定)を行う。
※この電位の範囲でガス(水素や酸素)の発生が電極表面で生じて表面の汚れが落ちる。
2.作用電極の状態を簡易的にチェックする方法
一般的な電気化学関連の書籍によく CV 波形が掲載されている、以下 2 種の溶液中などで CV 測定を行いその波形を確認すればよい。
・ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(1 mM 程度)
+支持電解質塩化カリウムなど(1 M 程度)の水溶液
・0.5 M 程度の硫酸水溶液
※チェック後には電極を充分に洗浄し、再度アルミナ研磨を行う。
白金電極 サイクリックボルタンメトリー 白金の水素吸脱着
  作用電極の電位窓
H2SO4(0.25M)中での白金電極のサイクリックボルタモグラム

2.電気化学測定の基本(3 電極系)-参照電極 1.種類

【参照電極】
電気化学測定で用いられるポテンショスタットは、 この参照電極の電位を基準に指定した□V を作用電極に印加するよう制御します。 そのため、この参照電極は電位の安定性を維持する必要があり、 電解液へのコンタミの問題も含め、使用する電解液に応じて使い分けることが重要です。 ここでは、代表的な参照電極と主な特徴を挙げます。
(水系)
・標準水素電極(SHE):電極電位の一次標準(ゼロ)となる電極。
取り扱いが面倒なため、実際の測定系ではほとんど使用されない。
・可逆水素電極(RHE):測定液と同じ pH で動作する簡易版 SHE。
測定液の pH が 1 変わると電極電位が 59mV 変化するため、燃料電池向け酸素還元触媒評価など H+(プロトン)が関与する測定によく用いられる。
・Ag/AgCl 電極(内部溶液飽和 KCl):最も広く水系の測定で使用されている参照電極。
多くの測定液で電位が安定。作製も簡単。過塩素酸イオンを含む測定液とは塩を形成してしまうため不向き。
・Ag/AgCl 電極(内部溶液 NaCl):カリウムイオン K+の測定液への混入を避けたい時に使用。
・Hg/HgCl2 電極(飽和カロメル電極):過去最も広く使用されていたであろう参照電極。
水銀を含むので最近は環境の観点から使用されにくくなった。
・Hg/Hg2SO4 電極:特に塩化物イオン Cl-の測定液への混入を避けたいときに使用。
・Hg/HgO(内部溶液 NaOH or KOH)電極:アルカリ系の測定液で使用。
液絡部の素材はアルカリ系に対応可能なセラミックスなどを使用する必要あり
(非水系)
・Ag/Ag+電極:Ag 線を AgNO3 などの Ag 塩を有機溶媒に溶解したものに浸漬して使用。多くの有機溶媒系で用いられる。
AgOTF(トリフルオロメタンスルホン酸銀)などの Ag 塩をイオン液体に溶解してAg 線を浸漬して使用することで、イオン液体でも使用されることがある。
Ag+は光により還元してしまうので、長期測定などでは取り扱いにくい。
※水系の参照電極を非水系で使用しているケースも見かけるが、少なからず水が混入することでせっかくの広い電位窓が狭められる可能性もあるので注意が必要。
また、非水系の測定液と水系の参照電極間で液間電位差も生じるため扱いが難しい。
・疑似参照電極:ただの Ag 線などをそのまま測定液に浸けて使用。
この電極電位は絶対値としてはあまり意味を持たないが、測定液中で安定であれば一つの基準電極として使用できる。Pt や Ti など不活性な電極材料が同様の使い方をされる場合がある

参照電極に関してはこちらもご参考ください

FAQはこちら

他にも分光電気化学で用いられる透明な ITO(酸化インジウムスズ)や、カーボンペースト、ボロンドープダイヤモンドほか多くの材料が作用電極として使用されています。 また、どの電極材料を使うにせよ、材料の選定にあたっては、見たい反応が生じる電位範囲に余計な反応が起こらないことが基本となっています。そのため、この余計な反応が起こらない電位範囲“電位窓”について考慮しなくてはいけません。
電位窓は一部書籍やネット上にも紹介されていますが、作用電極材料・支持電解質・溶媒などによって変わるので、基本的には一度電位掃引(リニアスイープボルタンメトリーなど)を行って、選択した作用電極がその測定系でどの電位範囲内で使用可能か確認されることをおすすめします。

今回述べた作用電極は電極材料の選定だけでなく、他にも大事なことがありますので、号のメールマガジンでご紹介する予定です。

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○ 会場
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5.電気化学インピーダンスの基礎セミナー@東陽テクニカ 開催のご報告

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今年もインピーダンスセミナーほか様々な電気化学関連のセミナーの開催を予定しており ます。ぜひ東陽テクニカのセミナーにご注目ください!

インピーダンスセミナーの様子はこちら

6.【測定のコツが知りたい電気化学分析】個別相談室のご案内

 

本相談室では、初めて電気化学分析を行われる皆様を対象に、
「測定には何をどれだけ揃えれば良いのか?」
「作用電極のメンテナンスはどうしたら良いのか?」
「有機溶媒のCV測定は難しい?」
数え始めるときりのないこれらの疑問点やお悩み事をうかがったうえで、その測定に必要な測定機器と電極などをご紹介し測定に至るまでのご相談を承ります。

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