時刻同期:GNSSだけに頼らない時刻同期

 私たちの生活を支える社会インフラの多くは、高精度な時刻同期によって成り立っています。しかも、その安定運用・安全管理、品質の担保のために、求められる精度は年々高まっています。

 代表例として、ミリ秒単位以下で自動売買を繰り返す高頻度取引(HFT)が挙げられます。この領域では、AIや深層学習の活用が進んでおり、その演算処理能力に対応する高精度な時刻同期は不可欠と言えます。
 欧州連合(EU)が2018 年1月に施行した新規制「Mi FIDⅡ」は、少なくともマイクロ秒の精度を要求しており、米国で証券会社の行動を監視・規制するFINRAもマイクロ秒の精度を求めています。各トランザクションの時間は年々短くなり、その前後関係の管理は難しくなってきています。さらに、取引はインターネットを使えば世界の至る所で可能であり、取引の正当性、透明性のためには規制が重要と考えられます。これら海外の動向を見ると、日本国内やアジアでも今後、同様の規制が設けられる可能性が十分にあるといっても良いでしょう。

 高精度の時刻同期が重要になるのは金融業界に限ったことではありません。防衛システムでは、安全な場所でミサイルを撃ち落とすために、正確で高精度な時刻同期が必須になります。5Gネットワークでは、5Gの特徴であるリアルタイム性、低遅延を担保するために、100ナノ秒(ns)以下という極めて高い精度のレベルの時刻同期の精度が求められます。

「GNSSは安全」は神話に過ぎない
脆弱性対策が必要な3つの理由

 どのようにして正確な時刻を得れば良いのでしょうか。現在、一般的な方法として採用されているのがGNSSです。GNSSは、米国のGPSや露GLONASS、EUのGalileo、日本の準天頂衛星(QZSS)等を使った衛星測位システムの総称のことを言います。その安全性に疑いを持つ人は少ないかと思いますが、GNSSの信頼性は「神話に過ぎない」と言える理由として3つの脆弱性が挙げられます。

 第1に、GNSS衛星の高度は約2万kmであるため、地表には微弱な信号しか届かず、ジャミング(電波妨害)に弱いという点があります。

 第2に、GNSS信号はカーナビなど民間サービスで利用できるようにするため暗号化されていない点です。なりすまし攻撃や時刻情報の改ざんが容易にできてしまうのです。加えて、民間が利用できる衛星が限られることもあって、GNSS専用アンテナが衛星を捕捉できない時間帯が存在します。

 第3の理由は、アンテナ設置が困難だという点です。設置場所の確保や工事の手間、費用負担が大きく、散雷等の外的障害要因の影響も受けやすいため、信号が受信できなくなるリスクを排除することが困難なのです。

こうしたリスクが放置されているうえ、GNSSの脆弱性をついた攻撃は年々増えているため、高精度な時刻同期が必要なシステムにおいては、「GNSSだけに頼らない時刻同期」を考えることが不可欠だと言えます。

2週間以上も内部で時刻を保持
GNSSトラブルも恐るるに足らず

 これら「GNSSの脆弱性」への対策も含めた高精度な時刻同期ソリューションとしてAdtran社Oscilloquartz部門(以下、Oscilloquartz社)が開発・提供する製品群とそのテクノロジーをご紹介します。

 Oscilloquartz社は1949年にスイスで創業した老舗クロック専業ベンダーです。70年以上にわたり時刻同期技術を磨き続けてきたことに加えて、モバイル通信網のエンドからコアまで高精度な時刻同期を提供できることが、同社ソリューションの特徴です(図1)。

 その精度と信頼性の高さを示すのが、Oscilloquartz社が提供する革新的な「光励起セシウム発振器」です。

 GNSS信号が受信できなくなった場合には、オシレータ(発振器)が正確な時刻情報を保持して同期運用を継続できるのですが、OCXO(水晶)、ルビジウム、セシウムの順に長期のクロック安定が得られます。そして、セシウム発振器の中でも「光励起式」の性能は群を抜いており、従来の磁気選別式セシウム一次標準器では、目的の励起状態のセシウム原子のみを抽出していましたが、光励起セシウムはレーザー光で全ての原子を目的の励起状態に遷移させることでより多くの原子を使用できるため、クロックの長期安定度が大幅に向上しているのです。

 GNSSにトラブルが生じても14日間以上、100ns精度の時刻同期を維持できます。これをGNSSのバックアップとして運用することで(図表2)、信頼性を圧倒的に高められるという仕組みです。セシウムは枯渇するため、安定的に使えるのは5~7年と言われている中で、同社の光励起セシウム発振器は10年の保証付きとしており、オシレータ業界では夢のような製品が登場したと言われています。

光励起セシウム発振器をGNSSのバックアップとした運用例

【図2】光励起セシウム発振器をGNSSのバックアップとした運用例

一次標準器ベンダーが提供するユニークで高品質なタイムサーバー

他社にはなかなか真似できない高精度な一次標準器を開発し、時刻同期の特性を知り尽くしている企業だけに、Oscilloquartz社が提供するタイムサーバー/PTPグランドマスタークロック(GMC)も非常にユニークな製品が揃っています。

例えば、SFPプラグ型の業界最小クラスのPTPタイムサーバー「OSA5401」もその一つです。ネットワーク機器のSFPポートに挿入するだけで、PTP GMC、Boundary Clock、Slave機能を実現できます。電源も不要でSFPポートに挿すだけなので、非常に手軽に正確な時刻同期を実装出来ます。IP化が進む放送業界では映像装置自身にクロックを出すインタフェースがないことも多く見られます。また、5Gでもスイッチに備わる同期機能では高精度な時刻同期に対応できないことも多くあります。「OSA5401」を使うことで、そうした課題を解決することができます。

GNSSアンテナ一体型のPoE対応GMC「OSA5405」もユニークな製品です。既設のネットワークやモバイル基地局に容易に導入できるクロック同期製品で、屋上に別途、GNSS専用アンテナを立てる必要がありません。アンテナからタイムサーバーまで、太くて固い同軸ケーブルの取り回しが不要になり、扱いやすいLANケーブルや伝送距離の長い光ファイバーで時刻同期環境を構築できます。PoE対応なので、イーサネットを挿すだけで使えるのも特長の一つです。さらに、完全防水の屋外型も用意されています。

 OSA5401/5405は通信キャリアの5G網のみならず、今後普及が見込まれるローカル5Gシステムの構築現場でも活躍が期待できる製品です。OSA5405を設置する場所さえあれば、GNSS専用アンテナに縛られることなくローカル5Gをより簡単かつ柔軟に敷設できるようになることが期待できます。

 これら以外にもGNSS/時刻同期に関する様々なソリューションを提供しております。「Satellite Time & Location(STL)」は、既存のイリジウム衛星を独自に活用して、位置・時間データを提供する宇宙空間ポジション・ナビゲーション・タイミング配信サービスで、GNSS衛星よりも低軌道を周回しているため、屋内でも受信可能なほどの強度の信号を提供できます。外的要因の影響が少なく、GNSSの脆弱性対策として活躍します。

 我々は、時刻同期を高精度かつ安定運用できるよう「GNSSだけに頼らない」方法の検討を提案するとともに、このような多彩なソリューションによってその実現を支えてまいります。

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