Scribner Associates(スクリブナーアソシエイツ / USA)

燃料電池用マルチレンジ電子負荷 890eシリーズ

燃料電池向けの計測機能を搭載した3レンジ切り替え式電子負荷装置です。
FCの発電(定電流、定電圧、定電力、I-V特性)の他、電流遮断法による内部抵抗測定機能やFRAと組合せてのインピーダンス測定にも対応しています。

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部
phone03-3245-1103
Mail:keisoku[at]toyo.co.jp

特長

  • 最大電流50A、100A、125A、250A、500A、1000A の6 モデル
  • 3 レンジ切り替え式(10%/50%/100%レンジ)で小面積~大面積セルを適したレンジでカバー
  • 定電流、定電圧、定電力、I-V測定に対応
  • 優れた低電圧通電特性
  • 電流遮断法による膜抵抗自動測定機能を標準搭載
    ・電流遮断速度 :1 μsec  (現電流値→0A
  • FRA(オプション)を組合せて交流インピーダンス測定可能
  • 4つの電圧測定端子により、アノード/カソード間に加え、アノード/参照極(-)間、カソード/参照極(+)間の3 点の電圧同時測定可能
    ・インピーダンス測定も3点同時に測定可能
  • GPIB通信制御
  • Scribner社製"FuelCell” ソフトウェア、または東陽テクニカ製 "TFT"ソフトウェアから制御可能
    ・Windows8/10対応
  • ”Fuelcell” ソフトウェアから制御可能な、MFC制御信号出力:7ch、温度調節器:3chを搭載したインターフェースボックスオプションあり。
    ・MFC制御、温度制御を連動させた自動化運転が可能
    ・燃料電池評価システム PEMTest8900は、本機能を用いて設計されています。

※890シリーズのうち、890B型、890C型、890CL型は現在製造終了となっています。

仕様

項  目 890e-50A 890e-100A 890e-125A 890e-250A
最大電流 5A / 25A / 50A 10A / 50A / 100A 12A / 62A / 125A 25A / 125A / 250A
最大電力 125W 500W
最低負荷抵抗 < 2m Ω
低電圧特性 50A@0.1V 100A@0.2V 125A@0.25V 250A@0.5V
電流測定精度 ± 0.3% FS @ 電流レンジ
電流分解能 1mA
最大電圧 20V (anode-cathode 間)、9.999V(a-ref 間、c-ref 間)
電圧測定精度 ± 3mV ± 0.3% of reading
電圧分解能 1mV
電圧測定点 anode-cathode 間、anode-ref(-) 間、cathode-ref(+) 間
交流インピーダンス測定 880 型FRA カード、またはSolartron 社製FRA が必要
周波数応答範囲 1mHz ~ 10kHz
電圧測定ケーブル 約90cm、4 端子(1 本)
電流負荷ケーブル 約60cm(2 本)
項  目 890e-500A 890e-1kA
最大電流 50A / 250A / 500A 100A / 500A / 1000A
最大電力 1kW 2kW
最低負荷抵抗 0.7mΩ 0.4mΩ
低電圧特性 500A@0.35V 1000A@0.35V
電流測定精度 ± 0.3% FS @ 電流レンジ
電流分解能 1mA
最大電圧 20V (anode-cathode 間)、9.999V(a-ref 間、c-ref 間)
電圧測定精度 ± 3mV ± 0.3% of reading
電圧分解能 1mV
電圧測定点 anode-cathode 間、anode-ref(-) 間、cathode-ref(+) 間
交流インピーダンス測定 880 型FRA カード、またはSolartron 社製FRA が必要
周波数応答範囲 1mHz ~ 10kHz
電圧測定ケーブル 約90cm、4 端子(1 本)
電流負荷ケーブル

機能

電流遮断法によるセル抵抗測定機能

890シリーズ 燃料電池用電子負荷装置には、「電流遮断法によるiR抵抗測定機能」が標準装備されています。この電流遮断法は英語では“Current Interrupt”法と呼ばれます。

(1)測定の仕組み

燃料電池は、アノード側に水素、カソード側に酸素(空気)を供給すると、アノード/カソード間に起電圧(Open Circuit Voltage: OCV)が発生し、電流を流す力が発生します。負荷を繋いで電流を流すと、電流の取り出し量に伴って、アノード/カソード間の電圧がOCVから下がっていきます。電流の取り出し量を減らせば電圧は起電圧に向かって戻るという特性があります。
ある程度電流を流している状態で瞬時に電流をゼロにする(電流を遮断する)と、電圧は下がっていた状態からOCVへと瞬時に戻ります。この時の電圧の挙動をオシロスコープなどで細かく見ると、電流の遮断後に一瞬で直線的に戻る部分と、OCVに向かって漸近するように戻る部分があります。

燃料電池を単純な等価回路として見なした場合、この波形の直線的に戻る部分は単純な直列抵抗Rに依存する電圧となります。これを“iR電圧”と呼びます。OCVに向かって漸近して戻る部分は、模擬等価回路のRC並列回路に依存する部分に依存する部分となります。このiR電圧だけを正確に測定し、遮断前の電流値との「オームの法則」の関係から、直列抵抗Rをおおよそ計算することができます。

(2)電流遮断法で何が分かる?

直列抵抗Rは、燃料電池において電気化学反応(電子の授受)に依存しない電子またはイオンの移動抵抗に該当します。例えば、固体高分子形燃料電池(PEMFC)のセルで直列抵抗Rに含まれる構成部品は、集電体やセパレータ、そして電解質膜やGDEが考えられます。このうち集電体・セパレータ・GDEは導体ですので抵抗はほぼゼロと見なせ、iR抵抗の主成分は電解質膜となります。そのため、電流遮断法ではおおよその電解質膜の抵抗が計測できるということになります。

(3)電流遮断法の注意点

電流遮断法による測定は、同様の電流変化をセルに与えてオシロスコープで観測すれば、同等の波形を見ることができます。しかし、オシロスコープでの観測はグリッド表示の設定やサンプリング周波数によって、直線的に上昇する部分と漸近曲線となる部分の見た目の変曲点の位置が変わってしまうと、計算されるiR抵抗値も変わります。
特に実際の測定では、測定ケーブルのインダクタンス成分によって電流遮断直後にリンギングが発生し、変曲点を探すのにオシロスコープを調整することが多いため、測定の都度表示設定が変わることがよくあります。そのため昔は同じ機器構成でも日に寄ったり、測定者によって結果が変わるというご相談が多々ありました。
またオシロスコープを用いた観測では、電流遮断後にすぐに復帰させることが難しく、一発取りとなることが多いのも、測定結果にバラつきが増える一因となります。

最近では、電子負荷器の制御により電流をゼロに戻す(またはある程度の電流変化を与える)ことで、電流遮断法を模擬した測定を行う場合があります。この場合はケーブルによるリンギングが発生しにくく、きれいな変曲点が測定できると考えている場合があります。計測器の電流制御を使用する場合、測定後にまた元の電流に戻すこともできるため、使われることが多くなっています。
しかし、電子負荷器などの計測器には“スリューレート”という制御速度を表す仕様が存在します。スリューレートは「4 A/μsec」というように記載されます。(※スリューレートの表示の仕方はメーカーによって異なりますので、各メーカーの表示に準じてください)
例えばこの「4 A/μsec」という仕様の場合、100Aの状態から0Aに戻すには25μsecかかるということです。このスリューレートに沿って制御されている間は見た目直線になりますが、実際には漸近曲線は遮断直後から影響していますので、見た目の変曲点の時点では25μsec相当分の漸近曲線分の電圧が含まれた結果しか観測できないということになります。より大きな電流からの遮断であれば、それだけ含有誤差が大きくなるわけです。この点は意識して測定を行う必要があります。

(4)890シリーズの電流遮断測定機能

Scribner社製890シリーズの電流遮断測定機能は、上記(3)の問題を克服する工夫を行っています。
まず、電流遮断測定には特別な測定回路を装備しており、どんな電流からでも1μsecで0Aに遮断することができ、スリューレートの影響を受けません。
しかし、瞬断することによりケーブルでのリンギングが発生しますので、890シリーズではリンギングが落ち着いた遮断から20μsec後の電圧をiR電圧として測定します。そしてiR電圧を測定後はすぐに元の発電状態に復帰させます。この遮断-復帰を1秒間に10回(100msecおきに)繰り返し、その平均値を1sec毎に記録します。平均化することによりリンギングの影響がより小さくなり、継続的に繰り返し測定できることでリアルタイムな相対変化を見ることができます。1回の遮断時間は100μsec以下ですので、1秒間に10回遮断しても遮断されている時間は1/1000秒以下となります。

890シリーズの電流遮断測定機能の注意点としては、iR電圧をサンプリングする20μsecのディレイ分は漸近曲線部分の影響が含まれるため、iR電圧は真値に対して大き目に測定されるということです。
この20μsecのサンプリングディレイは1μsec刻みで変更することができますが、リンギングの影響を避けることと、漸近曲線部分が多少含まれる測定ということを考えると、工場出荷時の設定を変えるメリットは余りありません。

(5)電流遮断測定の使いどころ

上記のように電流遮断測定機能で測定されるiR電圧(iR抵抗値)は、測定の仕組み上ある程度の誤差を含み、少し大きめの値が測定されます。そのため真値として扱うのは難しいでしょう。より真値に近い電解質膜の抵抗を算出したい場合は、電気化学インピーダンス測定(EIS)から等価回路フィッティングを行って算出すべきです。固定周波数のインピーダンス測定(HFR)を行う低抵抗計は、周波数が適切でなければEISと同じ結果にはならないので要注意です。
890シリーズの電流遮断測定機能のメリットは、I-Vスイープ測定をしながら測定が継続的に行える点にあります。そのため新品のMEAの慣らし運転で電解質膜が生成水で浸潤して抵抗が変化する様子や、耐久劣化試験の前後での膜抵抗の相対変化確認などを簡便に行うことができます。

下記のグラフは新品のMEAを組み込んだセルで、相対湿度条件を変えながらI-Vスイープ測定をした時のI-Vカーブと電流遮断測定の抵抗値を並べて表示したものです。電流を出力することで生成される水分で膜の浸潤が進み、I-Vの往路より復路の方がI-V特性は向上し、膜抵抗も下がっている様子が分かります。

オプション

881型 890シリーズ用内蔵FRAカード

881型(旧モデル:880型)は890 シリーズに組み込んで使用する内蔵型FRA カード です。 890型電子負荷と燃料電池間の接続ケーブルを増やすことなく、シンプルな測定系で発電中のFCのインピーダンス測定を行うことができます。
890 シリーズ付属の"FuelCell"ソフトまたは東陽テク ニカ製"TFT"ソフトで制御し、取得したCole-Cole プロット やボード線図は"ZView"交流解析ソフトウェアで等価回路フィッティング が可能です。

  • 周波数範囲 1mHz ~ 10kHz
  • 周波数誤差 < 0.01%
  • 確度 0.5%、0.5°
  • 各点測定時間 1 周期 or10ms(積分回数設定も可能)

885-HS型 FC用ポテンショスタット

890e シリーズ専用と接続して使用するポテンショスタットで、890e シリーズによる負荷測定と切り替えて、CV(サイ クリックボルタンメトリ)やLSV(リニアスイープボルタンメ トリ)、低電流域の高精度V-I(ターフェル)測定を実行可能。

  • 電圧 :± 3V(分解能:152 μ V)
  • 電流 :± 2A(最小分解能:1.22 μ A)
  • スキャンレート :1 m V/sec ~ 1V/sec
  • データ収集速度 :最大100 pts/sec
  • PC接続 : USB
  • 接続可能モデル
    890e-50A / 890e-100A / 890e-125A / 890e-250A
    (890e-500A / 890e-1kAは非対応)