電気化学ソリューションマガジン Vol.02

電気化学測定(3 電極系)の基本 PART1-作用電極と対極

理化学計測部 電気化学チーム マーケティング担当です。

前回のメールマガジン配信の頃からは一転、最近夜はかなり冷え込むようになり、冬の訪れを肌で感じることも多くなってきたのではないでしょうか。
この時期は様々な大学で学園祭、文化祭が開かれています。私が学生時代には酸化鉄とアルミニウムの粉末を混合したものに着火することで、酸化鉄が鉄に還元されるテルミット反応を子供たち向けに実演したりしました。着火の時は花火のように火花が飛び散り派手な割には、出来上がった黒っぽい塊に磁石を近づけて鉄ができましたという地味な終わり方。。しかし、これも理系ならではのいい思い出だったと今なら思えます。卒業してから大学にあまり行っていないという方は、文化祭などのイベントをきっかけに一度足を運んでみるのも良いかもしれないですね!

さて、今回は電気化学での嬉しいニュースのご紹介とともに
前号に引き続き電気化学測定の基本である 3 電極系のうち用電極・対極について簡単にご紹介させていただきます。

1. [祝]ノーベル化学賞受賞!リチウムイオン電池の研究

皆さまご存知のように、先月は電気化学の業界で大変嬉しいニュースがありました。
米テキサス大学オースティン校のジョン・B・グッドイナフ教授、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の M・スタンリー・ウィッティンガム教授、そして日本の旭化成名誉フェローで名城大学教授の吉野彰氏の 3 名が“リチウムイオン電池開発への貢献”でノーベル化学賞を受賞されたことです。
3 名とも電気化学会(ECS)に深い関わりがあります。

リチウムイオン電池は充電が可能な二次電池の一種で、電解液を介して正極と負極間をリチウムイオンが行き来することで充放電が行われる電池です。
現在、私たちが当たり前に使用しているスマートフォンやノートパソコン、音楽プレーヤーなど様々な製品を“携帯する”という時代になったのも、このリチウムイオン電池の存在のおかげといっても過言ではないかもしれません。

ウィッティンガム氏は、正極材料として二硫化チタンを使い、負極にリチウム金属を使うことで、繰り返し充放電可能な新しい電池を開発。二硫化チタンは層状の化合物で、 “リチウムイオンが層状化合物を出入りする(インターカレーション)”という考え方は、その後の電池材料でも広く使われる極めて重要な考え方になっています。グットイナフ氏は、1980 年に正極材料として二硫化チタンではなく、コバルト酸リチウムを使用することでリチウムイオン電池の起電力を4 V まで大きく押し上げることに成功しました。吉野氏は 1985 年、これらの研究を元に、負極材に特殊な炭素系材料、正極材にコバルト酸リチウムを用いることで、充電が可能な全く新しい二次電池であるリチウムイオン電池の基本構造を世界で初めて完成させました。

その後、金属リチウムによる危険性や充放電の繰り返しによる劣化などの課題を解決、電池の熱暴走防止による安全性の確保など多くの技術開発でリチウムイオン電池の製品化に成功し、ソニーは吉野氏の研究成果を受けて、1991 年にリチウムイオン電池を発売しました。
その後、リチウムイオン電池の市場は電池メーカーだけでなく、電池を構成する正極材・負極材・セパレーター・電解液/固体電解質(・添加剤)などに関わる化学系メーカー、電池を使用する自動車、医療機器メーカーほか様々な業種で研究開発や評価試験をともなう一大マーケットとなっています。
2022 年の世界市場は 7.4 兆円とも言われ、2017 年の 2.3 倍ほどに伸びるそうです。

弊社では電池部材評価のためのインピーダンス測定を含む電気化学測定や電池の充放電特性試験まで、システムとしてトータルでご提案させていただいております!

2.電気化学測定の基本(3 電極系)-作用電極 1.電極材料

【作用電極】
電気化学測定においてその電極表面で目的の反応が進む(反応を進める)ための電極のこと。
そのため、作用電極自身が反応しては元も子もないため、容易に溶解などせず化学的に安定、反応を円滑に進めるため電気伝導性が高く、目的の反応を阻害しないよう水素/酸素過電圧が大きい電極材料などが望まれます。ただ、その全てを満たすような材料はなかなか用意できないため、都度測定系に応じた作用電極の選択が必要となります。
以下に代表的な電極材料の特徴を一部記載します。
白金      
溶解電位が高く、正電位領域での測定に向いている。
水素過電圧は小さいため負電位側で水素発生による反応の阻害が生じることがある。
また、水素の吸脱着による電流が流れる・
金       
白金に比べ水素/酸素過電圧がやや大きい。
チオール類などは金表面に化学結合して単分子膜を形成するため、SAM(自己組織化単分子膜)電極として様々な機能性を持たせることもできる。
ガラス状カーボン
化学的に安定で液体や気体を通さず高純度のものも得やすい。
貴金属に比べ安価で水素過電圧や(溶存)酸素の還元過電圧が大きい利点もある。
ただ、電気伝導性がやや劣り、電子の授受反応がやや遅くなるなどの短所も。
※ 非プロトン性溶媒(非水溶媒)では水素発生や水の分解が生じないため、白金や金などでも負電位側の測定も可能、一般的に広い電位範囲で測定が可能。

他にも分光電気化学で用いられる透明な ITO(酸化インジウムスズ)や、カーボンペースト、ボロンドープダイヤモンドほか多くの材料が作用電極として使用されています。 また、どの電極材料を使うにせよ、材料の選定にあたっては、見たい反応が生じる電位範囲に余計な反応が起こらないことが基本となっています。そのため、この余計な反応が起こらない電位範囲“電位窓”について考慮しなくてはいけません。
電位窓は一部書籍やネット上にも紹介されていますが、作用電極材料・支持電解質・溶媒などによって変わるので、基本的には一度電位掃引(リニアスイープボルタンメトリーなど)を行って、選択した作用電極がその測定系でどの電位範囲内で使用可能か確認されることをおすすめします。

今回述べた作用電極は電極材料の選定だけでなく、他にも大事なことがありますので、号のメールマガジンでご紹介する予定です。

3.電気化学測定の基本(3 電極系)-対極

【対極】

電気化学測定を行う上で、作用電極とは対になる電極(当然電極は 2 本ないと測定系が構築できない!)
作用電極で酸化/還元反応が起きている場合には、対極では還元/酸化反応が起きることになり、作用電極を流れるのと同じだけの電流が対極にも流れることになります。そのため、電極材料としては安定で、反応性もよく分かっている白金が用いられることが多いです。また、対極での反応が測定系での作用電極間との電流の流れを妨げないよう、電極の面積は充分に取っておく必要があり、コイル状にするなどして表面積をかせぎます。
電流の捨て場のようなイメージであまり注目も浴びないことが多い対極での反応(及び対極の電位)ですが、対極での反応(生成物)が作用電極での反応に影響を及ぼすこともあるため、作用電極から離れた位置に配置したり、場合によっては隔膜などで隔離するなどの注意が必要な場合があります。

Bio-Logic 社の電気化学測定器は全モデルで対極の電位もモニタリング可能です

ポテンショ/ガルバノスタット

Bio-Logic社 電気化学測定システムの動画マニュアルのご案内

2電極測定、3電極測定に関する説明、インピーダンス測定、サイクリックボルタンメトリー測定など、電気化学測定装置の動画マニュアルを公開しております。是非、ソリューションマガジンと合わせてご視聴ください。

電気化学測定機器のカタログ アプリケーション別マニュアル

電気化学測定機器の総合カタログ(56ページ)をPDFファイルでご提供しております。
また、EC-Labソフトウェアをお使いのお客様向けのアプリケーション別(二次電池、燃料電池、腐食、分析化学)マニュアルをご用意しております。測定条件の設定方法や、解析の手法などの一例を示しております。正しい測定の為にもぜひ参考にしてください。

電気化学測定機器 総合カタログ

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(参考文書) EC-Lab による アプリケーション別 測定および解析例

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