極低温プローブステーションにおける微小電流測定で考慮すべき点
微小電流測定(1nA未満)は、既存、新規問わず半導体デバイスの設計と製造品質を評価する重要な測定です。半導体デバイス設計・製造において、デバイスの材料、成長パラメータ、またはジオメトリの変更は、望んでいないデバイス内部の電流パスを生じさせる可能性があります。これらのいわゆるリーク電流は、材料の欠陥、ゲート酸化物の構造、基板の選択、電界プロファイルによって生じ、最終的にはデバイスの性能低下(多くの場合は過剰な電力消費)を引き起こします。これら多くのリーク原因の背景にある物理的メカニズムは温度依存性を持つことが知られていることから、極低温プロービング測定は、特に新規材料・デバイスにおいて、リーク電流の根底にある正確なメカニズムを知るための有効な評価方法となり得ます。
デバイスのリークに対する温度依存性は、市販N型シリコンJFETの300Kおよび80Kでの増幅特性曲線に見ることができます。この測定はLake Shore社プローブステーションCPX-VF、トライアキシャルケーブル、グランド型サンプルステージの構成で行いました。測定器はKeithley社4200型半導体パラメータ・アナライザを使用し、4200-SMU:最小電流レンジ(1pA)、確度は1%±10fAをソースとしました。 室温でのピコアンペア領域のサブスレッショルドリーク電流(意図せずにドレインからソースに漏れてしまう電流)は、デバイスを100K以下に冷却することで約6fAまで劇的に減少します。このデバイスのサブスレッショルドリーク電流は熱活性によりゲート障壁を超える、またこれは100K以下で抑えられる可能性があると言えます。これらの非常に低い電流(fA)測定条件を満たすためには、計測ユニット、ケーブル接続、環境、およびデバイスの固定など測定装置について様々な点で注意が必要です。このアプリケーションノートでは、微小電流測定、極低温プロービング測定の重要なポイントをレビューします。
図1:シリコンJFETのサブスレッシルドリーク電流の温度依存特性
ケーブル接続と固定
同軸ケーブル
同軸ケーブルは、コアキシャルケーブルまたはBNCケーブルとも呼ばれ、低ノイズと広い周波数帯域から、多くの研究で一般的に使用されています。同軸ケーブルの中心導体(Force)は、高抵抗絶縁体に囲まれ、それらは導電性のシールド(Shield)内側にあります(図2)。デバイス測定では、同軸ケーブルのシールドはグランドに接続され、デバイス端子は中心導体に接続されます。中心導体に生じる電圧は一般的にデバイスに電流を流しますが、中心導体とシールドの間に電圧差があるので、測定される電流の合計値に小さなケーブルリーク電流(RIを介して)が追加されます。高品質同軸ケーブルの絶縁は100GΩオーダーの抵抗を有しています。もし中心導体が10V印可されている場合、100pAオーダーのケーブルのリーク電流が生じることになります。
図2:同軸ケーブルの構造と同軸ケーブルを使用したデバイス測定の測定系。
この構成による絶縁リークと充電効果の影響により、微小電流測定は約1nAが限界となります。
充電電流は、同軸ケーブルを使用した微小電流測定に対して、さらに悪影響を及ぼす可能性があります。通常、デバイスの測定では電圧をスイープし、対応する応答電流を測定する必要があります。電圧をスイープするとき、ケーブルの静電容量は、下記に式で表される充電電流(IC)を発生させます。
ここで、C はケーブルの合計静電容量で、通常は 90pF/m オーダーです。1mのケーブルと1V/s のスイープレートで測定する場合、充電電流はほぼ1nAです。もちろんスイープレートを遅くすることで充電電流を減らすことができますが、デバイスの特性評価に不要なテスト時間を要することになります。
トライアキシャルケーブル
トライアキシャルケーブル(三重同軸ケーブル)は、同軸ケーブルを使用した測定系では生じてしまう充電電流とリーク電流の両方を除去できます。トライアキシャルケーブルは、中心導体(Force)と外側シールド(Shield)の間にガード導体(Guard)がある点を除いて同軸ケーブルに似た構造をしています(図3)。最新のソースメジャーユニットを使用すると、ガードはバッファアンプによって中心導体と同じ電圧になります。ガードと中心導体はサンプルと同電位であるため、リーク電流が生じにくくなります。またスイープ測定中は、中心導体とガード間の電位差は一定に保たれ、充電電流も排除します。
図3:トライアキシャルケーブルの構造とトライアキシャルケーブルを使用したデバイス測定系。
ガード導体の追加により、絶縁リークや充電効果が低減し、fAスケールの微小電流性能を実現します。
Lake Shore社極低温プローブステーションのマイクロマニピュレートプローブアームには、同軸ケーブルとトライアキシャルケーブルが用意されているため、測定ニーズに応じてユーザーはケーブルを選択することができます。1nA未満の測定の場合、Lake Shore社はトライアキシャルスケーブル構成での測定を推奨しています。トライアキシャル構成では、プローブアームフィードスルー、ケーブルおよびプローブブレードがプローブ先端まで完全にガードされ、優れた微小電流性能を実現しています(図4)。プローブアームアセンブリのリーク電流は、プローブをサンプルホルダ上に上げ、Keithley社4200型内の4200-SMU(ガードされたソースメジャーユニット)から電圧を±10V掃引し、その時の電流を1pA固定レンジで測定しています。また、Lake Shore社はサンプルホルダに対してガード機能を拡張するための同軸およびトライアキシャルのサンプルホルダも提供しています。
図4:フィードスルー、ケーブル、プローブブレードを含む
Lake Shore社トライアキシャルプローブアームアセンブリのリーク電流測定
摩擦電気、熱電、圧電効果
ケーブルまたはデバイス接触における摩擦帯電(トライボ電)、熱勾配(熱電)、力学的応力(圧電)がバックグランド電流を引き起こし、デバイスの測定結果を覆い隠す可能性があります。プローブ測定
- デバイス測定を開始する前に、ソースユニットとプローブステーション間のケーブルを接続してから15~30分待ちます。ケーブルの曲がりやねじれによって生じる電荷は、多くの場合この時間経過によって放電されます。
- 温度可変測定中、プローブアームが熱平衡状態となるための時間を十分に確保してから測定を開始します。Lake Shore社プローブステーションでは、温度安定はプローブアームセンサーでモニターでき、温度変化は1K/min以下である必要があります。
- 真空ポンプ、真空接続部、およびコンプレッサーユニット(クローズドサイクルシステムの場合)の上または横にケーブルを敷設しないでください。
- 測定ケーブルのねじれや急な曲がりを避けてください。
図5:蒸気飽和および真空環境のトライアキシャルフィードスルーおよびケーブルにおけるリーク電流。
電気化学的輸送はデバイス測定の電流感度を制限します。
これはプローブまわりの汚染を最小限にすることや、各測定前にサンプルスペースを避難させることによって回避できます。
汚れた表面と湿度
デバイスまたはプローブステーションの微小電流性能は、ケーブル、プローブ、デバイス上に吸着した水や汚染物質によって能力を低下させる可能性があります。バイアスが印加されると、帯電した汚染物質は自由に移動し、バックグラウンド電流を発生する可能性があります。図5は、湿度の高い環境下におけるプローブアセンブリのリーク電流プロットです。 このような条件下で測定すると、プローブのバックグラウンド電流が、感度の高い電流測定値を覆い隠す可能性があります。プローブステーションを真空にすることで、微小電流測定性能は回復しました。
電気化学効果を避けるため、微小電流測定を行う前に(室温測定の場合でも)プローブステーションのチャンバ内を真空にすることを推奨します。使用しないときも、Lake Shore社プローブステーションの真空チャンバはさらなる汚染を低減するために、真空またはドライガスで置換する必要があります。加えて、デバイスを扱う際や、プローブ交換でプローブステーションを扱う際は、ニトリル手袋やラテックス手袋を着用することでプローブ環境の汚染を回避することが必要です。
結論
半導体デバイスが小型化されていくにつれて、リーク電流は全体的な電力消費を大幅に増加させる可能性があります。低電力と高電力の両方のアプリケーション向けの次世代デバイスを開発するには、さまざまなリークメカニズムを特定してモデル化することが重要です。リーク電流のいくつかの原因は熱的に活性化されるため、特定の場所でリークを引き起こす物理的メカニズムを評価するには、極低温プローブ測定が有益です。配線とデバイス環境に適切な注意を払い、Lake Shoreの極低温プローブステーションでデバイスのリークを評価するために重要な半導体デバイスの微小電流測定が実証されました。
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株式会社東陽テクニカ 理化学計測部