直流電源装置のスルーレートを向上させるアイデア

直流電源装置のスルーレートを向上させるアイデア

直流電源における「スルーレート」とは、出力電圧や出力電流が変化するレートのことです。アプリケーションや試験内容によって、このスルーレートの特性が重要な場合があり、特に自動テストにおいては設定した電圧や電流への到達スピードがテスト時間に影響するため、重要な場合が多いです。

本題に入る前に、まず言葉の定義についておさらいをします。スルーレートと関連してよく出てくる言葉の定義は以下の通りです。

立ち上がり時間(rise time)
特に記載がない場合、電圧値または電流値が最大値(または設定値)の10%から90%まで変化する時間のこと。

立ち下がり時間(fall time)
特に記載がない場合、電圧値または電流値が最大値(または設定値)の90%から10%まで変化する時間のこと。

スルーレート(slew rate)
電圧または電流の変化率。プログラマブル電源においてはV/msの単位でき記載されることが多い。

プログラマブル直流電源において、電圧スルーレートは接続されているテスト対象デバイス(以下DUT)にはほとんど依存せず、どちらかというと出力フィルタのキャパシタに依存します。リップルとノイズを低く抑えるため、一般的にプログラマブル直流電源の出力フィルタにはエネルギーを蓄積する大容量のキャパシタを使用します。直流電源の電圧スルーレートを決定づけるのは、主にこのキャパシタへの充電および放電の時間です。

一般的にプログラマブル直流電源の立ち上がり時間は数十ms程度ですので、ほとんどのアプリケーションにおいては十分高速で、問題になることはほとんどありません。しかしながら、立ち下がり時間については問題になることがあります。立ち下がり時間は出力フィルタの回路特性だけでなく、DUTにも依存するからです。DUTが直流電源の定格電流に対して比較的少ない電流しか引き込まない場合、出力キャパシタに蓄積されたエネルギーがDUTへ”リーク”し、電圧が下がるまでに数秒かかることもあります。

その一方、DUTが直流電源の定格の概ね60%以上を消費しているような場合、出力キャパシタに蓄積されたエネルギーはほぼ瞬時に消費されるため、立ち下がり時間は非常に速くなります。それでも、立ち下がり時間は立ち上がり時間の2~3倍程度になるのが一般的です。

立ち上がり(rise time)改善の方法

直流電源の立ち上がり時間を速くする1つの方法は、試験に必要な電圧よりも高い最大電圧出力のプログラム直流電源を選択することです。たとえば、12V/24Vの自動車デバイスをテストする場合、通常は最大出力電圧が30 V程度の直流電源を使用します。しかし、速い立ち上がり時間が必要な場合、例えば最大出力電圧が60Vのモデルを選定し、電圧リミットを30Vなどに設定して使用することをおすすめします。プログラマブル直流電源の出力キャパシタは電圧が高いモデルほど小さく、同じ機種であれば30Vモデルも60Vモデルも立ち上がり時間がほぼ同じになるように設計されています。そのため、30Vまでの上昇時間は30Vモデルより60Vモデルの方が速くなります。ただし、あまり高電圧のモデルを選定すると、出力キャパシタが小さすぎるためDUTによっては発振の原因になるので注意が必要です。

なお、電源メーカーによっては立ち上がりを速くするために、出力キャパシタを小さくするハイスピードオプションを用意しているメーカーもあります。ただし、出力キャパシタを小さくすると安定度が低くなるので十分に注意が必要です。

立ち下がり(fall time)改善の方法

直流電源の立ち下がり時間を速くする1つの方法は、DUTと並列に「プリロード」を接続します。立ち下がり時間を十分速くするためには、プログラマブル直流電源の定格電流の65%以上消費できるようにプリロードのサイズを決定します。この方法は、より大容量の電源装置が必要になるという欠点はありますが、立ち下がり時間を改善することができます。

もう1つの方法は、プログラマブル直流電源を選定する際に双方向直流電源を選択することです。双方向直流電源は直流電源+直流電子負荷の機能を持っています。そのため、出力キャパシタに蓄積されたエネルギーを電源装置自身で吸い込むことができ、その結果立ち下がり時間が速くなります。

参考資料

AMETEK Programmable Power社のブログ
「Tips to improve DC supply slew rate」