【コラム / 早稲田大学 逢坂 哲彌氏】蓄電デバイスとしてのLIB(Lithium Ion Battery)と日本の現状

2016/10 早稲田大学 特任研究教授 逢坂 哲彌

蓄電デバイスとしてのLIB(Lithium Ion Battery)と日本の現状

*東陽テクニカルマガジン 第22号より掲載

はじめに

リチウムイオン電池(LIB)は1990 年代初頭にソニーよりビデオ電源として販売・実用化され、その後、日本で着実にシェアを伸ばしながら成長してきたエネルギー密度の高い二次電池であります。このシリーズは筒型18650として定着し、一方では積層型また、その複合型などと発展してきています。1998年頃までは、その世界シェアはほぼ100%でしたが、ちょうど21世紀に入った頃から、韓国、中国製の電池がシェアを伸ばし、2000年以降、日本のシェアが減少し、2008年にはほぼ世界シェアの半分となり、2011年には4割を割り込みました( 図1)。

さらに、2014年には3割程度まで落ち込んでしまいました。実際の日本の販売量の金額としては、6,000億円程度で変わっていないということから、一定量は出ていますが、この分野の大きいシェアを確保できていないということになります。最大の理由としては、価格による国際競争力の低下があげられますが、この経緯は日本が過去たどってきたDRAMや液晶パネル、太陽光パネルなどと全く同じ傾向を示しており(図1)、LIBも先行き日本のシェアがほとんどなくなってしまうという傾向にあります。

20兆円市場となる中での6,000億円では、全体シェアの数パーセントになってしまうでしょう。一方、小型携帯用電池に関してはこのように日本は既に主役ではないですが、自動車用電源、いわゆる安全性が担保された大型電池に関しては、日本は高いシェアを誇っています。しかしながら、2014年頃に韓国で発売された本分野対応の電池が車に搭載されはじめると、日本のシェアは100%を切り、このままでいるとこれも低下することが懸念されます。このような状況を鑑みると、日本で生まれた先端技術が世界で生き残るための戦略的な対応と工夫が今後より必要になってきているでしょう1)

蓄電デバイスとしてのLIBについて

蓄電池は携帯電話用のワット数の小さいものから、少し大きくなってパソコン用、それが大きくなってくれば、自動車用電源や家庭用定置電源となり、それがもっと大きくなれば、エネルギーを貯めるあるいは電力バックアップ型となる蓄電システムにまで使われています。
鉛蓄電池、ニッケル水素蓄電池に対してエネルギー密度が高い蓄電池としてLIBが注目され、これらの各分野への応用がなされていますが、LIBは現在ではエネルギー密度が非常に高くなってきて、その反面、安全性からみると発火などの可能性が高くなってきているといえるでしょう。

エネルギー密度がガソリンの3分の1ぐらいまでになってきているので、それだけ発火などの可能性が高いことは当然といえ、今後は、いかに安全性と信頼性を高めた電池を開発していくかがより重要となってきています。エネルギー密度を高くすることと安全性を確保することを両立させなければならない必然性がでてきています。また、使用されているものが、今まで以上に人命や人の日常生活に密着してきますと、ひとたび起きた事故が人や社会の安全性に直結するようになり、このような事故が極力起きない安全性を担保にした電池を作ることが重要となります。

図1:電子デバイス機器における日本企業の世界市場シェア小川紘一 「新・日本型イノベーションとしての標準化・事業戦略(11)」より、内海氏が加筆

図1:電子デバイス機器における日本企業の世界市場シェア

小川紘一 「新・日本型イノベーションとしての標準化・事業戦略(11)」より、内海氏が加筆

先端蓄電池技術開発拠点構想

図2:先端蓄電技術開発拠点構想

図2:先端蓄電技術開発拠点構想

図2に蓄電池の技術開発のイメージ図を示しますが、電池開発というものは、蓄電池デバイスを搭載する対象が必ず存在し、その目的に対する必要項目を満たす電池開発が必要になります。

今はやりのバックキャスティング開発がすなわち電池開発であり、この分野の開発ルールとなっています。そこで産業界からのニーズが常に研究開発を行うところと一体型となっている必要があります。

図3:早稲田大学・逢坂研究室の先端電池研究開発体制

図3:早稲田大学・逢坂研究室の先端電池研究開発体制

ここで、学術研究側に立つ我々としては、この必要を満たすための研究開発体制を図3のようにセットアップしています。すなわち、蓄電池材料開発、次に蓄電池試作、それに合わせて蓄電池の診断技術開発、さらには電池システムを運用する技術へと総合的に組み合わせる体制をスタートアップしています。現在、そのためのスマートエナジーシステム・イノベーションセンター(SEnSIC)を立ち上げています(図4)。

学術研究としては、次世代を担う新しい蓄電池としての電池材料なりを開発することが最も重要でありますが、さらに電池として組み上げないと蓄電池としての可能性が見えてこないこと、さらには、電池システムとして組み上げ、かつそれをどのように運営するかのソフトウェアを含めたシステム開発が今では必要とされています。また、蓄電池の健康状態をチェックするシステムの立ち上げは、蓄電池産業の新たな開発が生まれてきます。我々はそのような意味合いからこのようなSEnSICを立ち上げています。
このセンターの活動はNaturejob2)に報告していますが、ここでは産業界の本分野をサポートし、日本だけでなく世界を先導するようなシステム作りを目的として活動しています。

図4:スマートエナジーシステム・イノベーションセンター(SEnSIC)

図4:スマートエナジーシステム・イノベーションセンター(SEnSIC)

ここで、我々が特に注力している蓄電池の劣化チェッカー、蓄電池健康状態確認システムについて、我々のメンバーが特集1・2にて解説いたします。その件について、ここに一言、内容に触れさせていただきます。
蓄電池の状況判断を自動的に行えるシステムとして、我々は矩形波FFTインピーダンス法をまとめ上げ、電池の状況を常に自動車なり、電池システムなりへフィードバックするシステム開発が今後重要な課題であるとして、研究開発を進めています。今では、電池一つのチェックだけでなく、モジュール単位、電池システム単位としてのチェックシステムまで進めています。このことは、蓄電池開発の今後には大変重要なことで、新たな産業創生にまでつながる技術と考えています3)

図4:スマートエナジーシステム・イノベーションセンター(SEnSIC)

まとめ

このような構想のもと図5のような蓄電池拠点づくりを行っています。すなわち拠点化に向けて以下の項目を重点的に取り組んでいます。①集中的に国から研究資金を学に投入できるシステム、②トップレベルの蓄電池研究者育成(継続的な人材輩出)、③蓄電池・材料メーカーの優秀な技術者の企業定年後の海外流出ではなく学において若手を育成するための技術指導システム、④研究成果による垂直生産システムの活性化(材料会社・電池会社・ユーザー:自動車、ハウジング、電力の技術と情報の共有)、⑤トップレベルの蓄電池研究(特許とノウハウの集約)の活動を行い、世界市場における日本の絶対優位性確保とともに、世界の蓄電池技術開発の先導とバックアップを指向、などの項目をあげて、一歩一歩おもしろく研究開発が行える拠点化が図れれば良いと考えています。
自動車産業界では、車の自動運転化が進み、将来の社会システムが変貌する可能性がみられますが、この自動運転化が進めば、さらに車の電気自動車化も進み、蓄電池はますますキーテクノロジーとしての重要性が増すでしょう4)

参考文献1に記しましたが、世界人口の増加は中国とインドの2カ国で爆発的に起こり、世界人口の4割を占めるようになるということです。したがって、今後の電池需要も将来的にはこの2カ国がキー消費国になるということです。中国では中国国内生産でないと電気自動車などの蓄電池使用ができなくなるシステム作りを着々と進めていますし、インドでは超低価格電気自動車などの試みが始まっています。こんな将来環境の中で、日本が優先的な技術と産業発展を続けるためには、大いに先導的な技術先取りとそのシステム創生が必要になっていると実感しています。

図5:エネルギー蓄電池拠点化に向けて

図5:エネルギー蓄電池拠点化に向けて

ところで、2016年8月の初頭に、日産自動車から蓄電池開発は自動車会社が囲い込みで行うのではなく自由に電池各社から買う方式に転換することが発表されました。この発表は、いよいよ大型というか自動車用蓄電池開発も次の開発環境に入ったなという印象を受けています。すなわち、韓国グループの急激な発展による政策的な自動車用蓄電池の売り込みを欧米自動車グループが採択し、蓄電池を日本以外の製作会社から入手できる環境になったので、蓄電池開発も次の体制を組んだ戦略を立てる時期に来ていると強く感じている次第です。

参考文献
1) 逢坂哲彌監修“ものづくり大国の黄昏‐巨大市場を目前に急失速する電池産業‐”、日経BPコンサルティング、2012.
2) Naturejobs “Spotlight on Japanese Battery Technologies”, nature publishing group, 2015.
3) 逢坂哲彌他、“リチウムイオン二次電池の電気化学インピーダンス解析”、Electrochemistry、印刷中(2016年12月号).
4) 逢坂哲彌監修“自動運転‐ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション‐”日経BP社、2014.

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