進化する乳腺画像診断 - 乳がんの早期発見

女性の8人に1人が乳がんになるといわれる米国などに比べ、日本は乳がんの少ない国といわれてきましたが、その状況もこのわずか10年ほどの間に大きく変わり、日本人女性の乳がん罹患率(乳がんにかかる率)が急激に高まっています。10年前にはおよそ50人に1人とされていたものが、7~8年前は40人に1人、ここ数年は30人に1人といわれ、最も新しい医療統計では、日本の女性18人に1人が乳がんにかかるとされています。このような乳がん増加の背景には、日本人のライフスタイルや食生活の欧米化があると見られており今後も罹患者の増加が懸念されています。

しかし、乳がんは早期発見されることにより治る率が高いがんです。それには乳がん検診が有効です。欧米では、60歳代など高齢になるほど乳がんにかかりやすい傾向がありますが、 日本では40代女性に乳がんが多発しているため、厚生労働省は2004年から乳がん検診の対象年齢を引き下げ、40歳以上には2年に1回のマンモグラフィを用いた乳がん検診の受診の推奨をしています。
また、検診用のマンモグラフィの撮影装置、読影装置の購入にも補助金が交付され、日本でもマンモグラフィ検診体制が整い、市町村の健康診断に組み込まれたり、企業検診でも実施するところが増えてきました。欧米で70~80%という乳がん検診受診率に比べて、日本は未だ23.8%と低い水準ですが、ピンクリボン運動と呼ばれる、乳がんの正しい知識を広め乳がん検診の早期受診を推進することを目的として世界規模で行われている啓発キャンペーンが日本にも広がり、早期受診への意識は高まりつつあります。

予防医学と画像診断

我が国での今までの医学は、病気になったら治す「治療医学」が中心でしたが、これからは「病気にならないように予防する、早期発見する、治療後に再発を予防する」という「予防医学」が更に重要になります。世界的に意識は「治療」から「予防」へと変わりつつあり、我が国の政府の方針でもこの予防医療の推進に大きな予算が割かれています。
その予防医学において大きな役割を果たしているのが画像診断です。画像診断とは、簡単に言えば、体の外から診るだけでは分からない体内の様子や病気(腫瘍、梗塞、動脈瘤等)を目に見える形の画像にして、異常がないかどうかを診断する医療技術のことです。
検査するには体をなんらかの形で透視する必要がありますが、代表的なものとして電磁波(X線、ガンマ線含む)、磁気、超音波を使った透視が行われます。一般的にレントゲン(X線検査)、マンモグラフィ(乳房X線撮影)、CT検査(コン ピュータ断層撮影)、MRI検査(磁気共鳴画像撮影法)、RI検査(シンチグラフィー)、超音波検査(エコー検査)、PET検査などと呼ばれるものですが、これらは全て画像診断です。

乳腺診断の第一選択手段マンモグラフィ

乳がん検診の際に代表的に使用される画像診断が乳房X線撮影すなわちマンモグラフィです。X線で撮影することにより、手に触れるしこりはもちろんのこと、手に触れられない小さなしこりや、またしこりになる前の早期がんを微細な石灰化像として見つけることができるので、マンモグラフィは乳がんの早期発見に非常に有効な検査手段です。
とても微細な病変や、淡い陰影を観察し診断することから、その観察装置(画像ビューア)には高い精度が求められ、読影者にも高い知識と診断技術が必要とされます。一般の世界でもアナログカメラからデジタルカメラへの移行がなされましたが、医用画像診断の世界にもデジタル化の波は押し寄せ、これまでアナログ写真(いわゆるレントゲン・フィルム)をライトボックスにかけて読影していたマンモグラフィも、デジタル装置で撮影しその電子画像を液晶モニター上で観察する方式に変わりつつあります。医療の世界でも、ペーパーレス、フィルムが進んでいるというわけです。

デジタル・マンモグラフィとモニター診断

医用画像の表示には一般的に高精細モノクロ液晶ディスプレイと呼ばれる縦型のモニターが使用されます。現在、民生用液晶ディスプレイでも高精細化が進み、フルハイビジョン対応の1,920×1,080ピクセルなどの解像度の液晶ディスプレイなどが見られますが、マンモグラフィの診断では最低でも2,048×2,560ピクセル(500万画素解像度)の液晶ディスプレイが二面構成で使用されます。
これら診断用のモニターにおいては、高精細化だけでなく、高輝度化も年々進んでいます。また、表示対象であるデジタル・マンモグラフィ画像も大容量化しており、その画像サイズは撮影装置により1,914×2,229ピクセルから7,080×9,480ピクセルまで多岐に渡っています。これらをデータ容量に換算すると、前者は一画像で約9MB、後者は一画像で約132MBとなります。
このようにデジタル・マンモグラフィにおける画像データは一様に、画像ビューアにとっていわゆる大きく重いデータであり、そのストレスのない表示を実現するには表示装置ハードウェアの高い性能に加えて、適切なソフトウェアの設計が不可欠です。
デジタル・マンモグラフィおよびモニター診断の導入によって、検診・診断ワークフローの効率化を図ることが可能になり、人的コスト面から見た高い費用効果の実現に加えて下記のようなメリットを得ることができます。従来のフィルム診断に比較したデメリットも十分に理解し、その原理特性を把握した上で、診断の安全性を損なうことなくその利点を最大限に生かすことが必要です。

【モニター診断によるメリット】
  • 再検査数の低下
  • 品質管理検査の簡素化と自動化
  • フィルム貯蔵時の物理スペースの削減
  • 保存画質の不変性
  • 診断時点での明るさや拡大操作が可能
  • 電子画像解析への拡張
  • 遠隔診断での画像送信における利便性
  • 過去画像比較での利便性
  • 画像の容易な二次利用

前述の通り、モニター診断の運用においては、その宿命的なデメリットを常に意識しなければなりません。その代表的なものが、「複数モニター間での見え方の違い」や、「モニター劣化による診断能の変動」です。これまでは出力された一枚のフィルムそのものを複数の人間が見ていたので、観察者により見え方が違うというようなことは心配することがありませんでした。
しかしモニター診断に移行すると、同じ電子画像が異なるワークステーションで表示し観察されるケースもでてきます。するとそれぞれのモニターの状態や表示特性により画像の見え方が変わってしまう可能性があります。あるモニターでは表示されている淡い病変が別のモニターでは表示されないというようなことが起きます。

また、モニターは輝度が経時劣化しますので、同じモニターで見ていても昨年見えていた病変が、今年同じ画像を表示した時には見えないなどということも起こることになります。そのような問題を避けるために、画像診断モニターは複数のモニター間での階調特性を揃える必要があります。現在ではDICOM 3.14 GSDFと呼ばれる標準規格によりメーカー間を越えて階調特性を揃えることが可能となり、画像を観察するモニターによる診断能の違いが最小化されています。
また、画像診断に使用されるモニターの経時劣化に関しては、使用者にも厳しい品質管理が課せられています。モニターは画像と観察者を直接結ぶインターフェイスであることから、製品を作る立場でも診断の安全性確保の点でその設計には最大の注意が払われ、当社製品にもテストパターンや輝度計を用いた様々な精度管理機能が実装されています。


AAPM TG18-QC 品質管理テストパターン

東陽テクニカマンモグラフィ画像ビューア MammoRead

当社ではモニター診断の黎明期よりその読影手法や精度管理に関する啓蒙活動を続けながら、ソフトウェア、ハードウェアの両面から見た製品設計を実施しています。当社マンモグラフィ画像ビューアMammoReadは2005年の1号機納入を皮切りに、今では日本全国の大学病院、公立病院、検診施設、クリニックまで幅広く採用され、マンモグラフィ専用ビューア単体として国内標準機の評価をいただくまでになりました。
現在でもこれまでの経験を活かして継続的に医療現場からの要求を製品に反映すべく製品改良を行っています。近頃では次世代マンモグラフィと称される新技術「乳房X線断層撮影/ブレスト・トモシンセシス」の画像表示にも一早く対応しています。注目を浴びているその新技術についてもここで紹介させていただきます。

次世代マンモグラフィ乳房X線断層撮影/ブレスト・トモシンセシス

現在普及しているデジタル・マンモグラフィの新世代の拡張形態として、X線管球の角度を変えて複数の方向から撮影した画像から3D画像を再構築しマルチスライス化するブレスト・トモシンセシス(乳房X線断層撮影)が大きな注目を浴びています。いわばCTのように複数の画像からなるスライス画像によるマンモグラフィです。
トモシンセシス(Tomosynthesis)とはTomography(断層)とSynthesis(合成,統一)の2つの意味から作られた造語であり、いわば「1回の断層撮影で任意の高さの裁断面を再構成する撮影技術」といえます。これまで一枚のX線透過画像で診断している時には乳腺と病変が重なり画像上で明確な判断ができなかった場合も、トモシンセシスは1mm毎にスライスされた画像から構成されているのでその画像をめくっていくことにより乳腺に隠れた病変や異常を発見することができます。ブレスト・トモシンセシスは従来のマンモグラムの乳腺構造の重なりという弱点を
克服する画期的な新技術として期待を集めています。


ブレスト・トモシンセシス

但し、画像容量はその枚数分増えることになります。現状で一検査の画像容量は500MB~数GBという従来の常識を超えたサイズとなり、その画像表示をするワークステーションには更に高い性能が求められ、ソフトウェアにも様々な工夫が必要となります。当社新製品MammoRead TOMOは従来のMammoReadの多彩な機能に加えて、大容量トモシンセシス画像のストレスのない表示に対応しています。
これらの大容量画像の保存形態や運用などに関してはまだ確立したものがなく、各病院で手探りでの運用が始まったばかりですが、今後の読影方法の確立に当社でも貢献して行きたいと考えております。また余談ですが、このトモシンセシスに更に造影剤を用いるという手法も提案されはじめています。
従来のマンモグラフィ診断が「X線の吸収差を画像化しその陰影の目視により腫瘤の存在を特定する」のに対し、「造影剤でコントラストをつけた、腫瘤周辺の新生血管を画像化し腫瘤の存在を特定する」というものです。このように乳腺の画像診断の進化は絶え間なく続き、今後のさらなる診断能の向上が期待されています。

おわりに

今後さらに多角化するであろう画像診断に柔軟に対応していくことが我々に課せられた使命であり、画像ビューアの役割は更に重要なものとなるでしょう。当社もこれらの製品開発を通して医療に貢献して行くことを目指しています。「はかる」技術を提供する東陽テクニカにとって、本分野での「はかる」対象は「健康」ということになります。さらに効果的な読影手法を確立し「はかる」精度を上げることにより、早期乳がんの発見に少しでも寄与していきたいと考えております。