膝周囲骨切り術 症例紹介シリーズ Vol.2
越谷市立病院 久保田 光昭 先生
膝周囲骨切り術 症例紹介シリーズ Vol.2
越谷市立病院 久保田 光昭 先生
『膝周囲骨切り術におけるデジタルプランニングは有用。
正確な術前計画により術中の透視時間も縮小され、
放射線被曝も軽減される。』
越谷市立病院 リハビリテーション部長
久保田 光昭 先生
* 現職・順天堂大学 整形外科・スポーツ診療科 准教授
当院では、2019 年11 月よりmediCAD を導入し、膝周囲骨切り術の術前計画を行なっております。mediCAD 導入前は、PACS の計測ツールを用いて、手動でアライメントの各パラメーターの計測と術前計画(矯正角度の設定)を行い(図1)、最終的に画像をフィルムに変換して手書きで作図を行なって おりました。
mediCAD では、下肢全長のレントゲンを使用して、大腿骨頭から足関節まで詳細にプロットし、アライメントの各パラメーターを自動で算出できます。また矯正角度の目標アライメントを、WBLR( weight bearing line ratio)で50%かFujisawa point( 内側から62.5%)のどちらかを選択することができ、矯正角度の調整も可能です。また骨切り部の距離計測を行い、open wedge であれば開大幅を、closed wedgeであれば切除幅を正確に計測することも可能です。
近年、術中の矯正角度よりも開大幅(切除幅)を指標にした方が、より正確な術後アライメントを獲得することができるとの報告もあります(Schröter S. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 2016)。

私達はFujisawa point を目標アライメントにして、骨切りラインは内側関節面から35mm の部位から近位脛腓関節としており、骨切りラインの長さも計測しています。矯正後のMikulitcz line が膝関節を通過する位置、矯正後のMPTA(medial proximal tibial angle), 開大または切除幅、骨切りラインの開始位置とその距離、これらの計測を行い術前に熟知しておくことは、正確に骨切り術を行うために有用と考えています。
図1と図2 は同じ患者さんの術前計画です。PACS を用いた手 動での矯正角度は7.2 度(図1)、mediCAD を使用した術前計画での矯正角度は6.34 度と少し乖離を認めます(図2、図3)。手術はOWDTO (open wedge distal tuberosity tibialosteotomy : Akiyama T. Arthrosc Tech, 2019) を行いました。

mediCAD での術前計画を指標にして、骨切り開大部に幅7mmで楔状に採型したβリン酸三カルシウムブロック(オスフェリオン60 マーベラス:オリンパステルモバイオマテリアル社)を挿入し、Tri S メディアルHTO プレート(オリンパステルモバイオマテリアル社)で固定しました。mediCAD での術前計画(図2)では開大幅が6.1mm となっておりますが、ボーンソーで骨切りした部分の切除幅を考慮して、人工骨を1mm ほど大きめに採型しています。
図4 は術後のレントゲンです。術後下肢全長(立位)での WBLR=61.4( 術前計画 62.5), MPTA=91.3(92.5), HKA( hipknee- ankle)=2.1(2.8), JLCA( joint line convergence angle) =1.5(1.4) と多少の誤差はあるものの、ほぼ術前計画通りのアライメントに矯正されております。術後6 ヶ月ですが、ROM0-140 度、痛みもなく経過良好です。

近年、膝周囲骨切り術におけるデジタルプランニングの有用性を示唆する報告を認めております(He A. J Orthop Surg Res,2020; Spitzer E. HSSJ, 2018)。正確な術前計画により、術中の透視時間も縮小され、放射線被曝も軽減されます。患者さんへのメリットはもちろん、我々医療従事者に対してもメリット のあるツールと考えております。
