電気化学ソリューションマガジン Vol.09

燃料電池の評価について

平素は弊社製品をご愛顧いただき誠にありがとうございます。
理化学計測部 電気化学チーム 燃料電池担当です。

昨年を思い返すと、コロナウイルスの感染対策で社会環境や勤務体制の慌ただしい変更に翻弄されたことは印象深く、働き方を含め、ライフワークバランスを再考するきっかけになりました。ワクチン接種、オリンピック開催を含めて、今年も激動の1年になる予感がします。

さて、今回は燃料電池の発電評価における計測器の選定や測定に関しての注意点をご紹介いたします。

description  目次

  1. 燃料電池の機種選定における注意点
  2. 今後の学会・展示会出展ほかイベント予定
  3. あとがき

1.燃料電池の機種選定における注意点

東陽テクニカでは、1999年から燃料電池(以後:FC)の発電特性評価を行う「燃料電池評価システム」を製作・販売しています。
本システムは、FCの発電条件となる燃料ガスの流量・加湿量・セル温度・セル内圧力(背圧)を制御するガス装置と、発電出力を測定する電気的計測器(電子負荷装置)やその他の分析測定機器の組合せで構成されています。今回はその電子負荷装置を使用する場合の注意点についてご紹介いたします。

【1】電子負荷装置
FCの発電試験や二次電池の放電試験などによく使われている計測器が電子負荷装置です。
電子負荷装置は可変抵抗器に電流計と電圧計が付いた装置とイメージしてください。起電圧があるFCを繋いで電子負荷装置の抵抗を無限大から下げていくと電流が少しずつ電子負荷装置に流れ始めます。電子負荷装置に流れる電流を内部の電流計で測定して狙いの電流値になるように調整します。電子負荷装置は測定対象サンプルの起電圧を利用して順方向(プラス極→マイナス極)に電流を流すだけなので、FCの発電特性評価では必須の計測器です。
FCの出力電流が大きくなるにつれてFCの電圧が起電圧から下がっていく傾向をプロットした結果がI-Vカーブです。
FCの起電圧は水素のイオン化電位である1.23Vが理論上限で、オーソドックスな固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セルの場合は1V前後になり、I-Vカーブは0A/約1Vを起点とする右肩下がりのカーブを描き、その起点、傾き、収束点(測定限界点)から様々な情報を読み取ることができます。
【2】電子負荷装置の動作電圧
電子負荷装置も電気回路ですので内部抵抗が存在します。その計測器としての内部抵抗を元にした仕様として「最低動作電圧」があります。これは電子負荷装置の最大電流を流すために“電流測定端子間”に必要な電圧を示します。
例えば弊社で販売している米国Scribner社のFC用電子負荷である「890eシリーズ」の50Aモデルの場合、50A@0.1Vという形で仕様欄に記載しています。これは、最大の50Aを流すためには電流端子間に0.1Vが必要ということを表し、電子負荷装置に大電流を流すために、内部抵抗を2mΩ程度まで下げることができることを意味しています。FCの単セルは起電圧の理論上限は1.23V以下であり、電流出力が大きくなるとセル電圧が下がるため、大電流時ほど電圧がこの動作限界に近づきます。50A@0.1Vという仕様であれば、FC単セルでも十分にI-Vカーブの測定を行うことができます。
電子負荷装置の最低動作電圧は機種によりますが、一般的な機種では最低動作電圧が1V以上の場合があります。このような装置を選定すると、1V以下の測定しかないFC単セルのI-Vカーブを十分に低電圧域まで測定できなくなるため、電子負荷装置の最低動作電圧は機種選定する際のポイントとなります。
【3】電流リード線による電圧降下
“最低動作電圧”に気をつけて電子負荷装置を選定し、もう一つ考えるべき注意点があります。それは電流測定用リード線の抵抗です。仮に電流測定用リード線2本(プラス極/マイナス極分)で合計1mΩの抵抗があった場合、50A流すとリード線で50mVの電圧降下が発生します。この電圧降下を考慮すると、電子負荷装置側の電流測定端子間で0.1V以上を確保するには、セルの電圧は0.15V以上が必要となります。電流が大きくなるほど、またリード線の抵抗が大きくなるほどリード線での電圧降下は大きくなるため、測定可能な範囲を電子負荷装置自身の測定範囲に近付けるには、太くて短い電流測定用リード線を使用する方が有利になります。
特に固体酸化物燃料電池(SOFC)の評価においては注意が必要です。高温環境下のため白金線を使用することが多いかと思いますが、高価な貴金属のため太くすることが難しく電圧降下を無視できなくなります。このようなケースでは電源を内蔵した電子負荷装置、“ゼロボルト対応電子負荷”が有効で、当社であれば「890ZVシリーズ」が該当します。
また、電流測定用リード線の形状にも注意が必要です。接続する末端がギザギザのワニグチクリップの場合、点接触のため抵抗が大きくなり電圧降下が発生するため、接触面を確保できる丸端子の使用などが有効となります。

2.学会・展示会・その他のイベント予定

  • 第12回「国際」二次電池展

二次電池、燃料電池の電気化学測定評価に必要な計測装置、セルを展示しています。
お近くにお立ち寄りの際は、ぜひ当社ブースにお越しください。

3.あとがき

今号も最後までお読みいただきありがとうございます。
本メールマガジンが少しでもみなさまのお仕事、ご研究のお役に立つことが出来れば幸いです。

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