電力回生式双方向直流電源とは?

電力回生式双方向直流電源とは?
~双方向直流電源の基本とEA ElektroAutomati社製品の特長~

はじめに

クリーンなエネルギー利用が求められる昨今、様々な分野において再生可能エネルギーを活用する製品の開発が進められています。太陽光発電の利用はすでに当たり前になっていますが、FIT(固定買取制度)の終焉が見えてきている昨今では発電した電気を蓄電池や電気自動車に貯めて再利用するのが流行りになってきています。また、それらをVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)として利用する技術開発も活況を迎えています。
Eモビリティの分野では、ハイブリッド車や電気自動車はもちろんのこと、トラック/バス、バイク、農機/建機から航空機に至るまで様々な「動くもの」が電動化の対象になってきています。
これらの分野における製品開発の現場では、双方向直流電源は欠かせない設備の1つです。本記事では双方向直流電源の活用方法を解説するとともに、弊社取扱いのEA Elektro-Automatik社の双方向直流電源製品について、その特長をご紹介します。

1. 電力回生式・双方向直流電源とは?

双方向直流電源とは、直流電源の機能と直流電子負荷の機能を1台であわせ持ち、力行(りきこう:電流の出力)と回生(かいせい:電流の掃引)の両方の動作が行える直流電源装置のことを言います。電源+電子負荷を利用する場合に比べ、力行⇔回生の切り替えに外部回路を必要とせず、シームレス切り替えを行うことができます。さらに、双方向直流電源はほとんどの製品は、回生時に吸いとった電流を内蔵インバータにより系統側へさらに戻します。そのため、”電力回生式”の双方向直流電源となります。電力回生式双方向直流電源は、一般的によく「回生電源」とも呼ばれています。

2. 電力回生式・双方向直流電源の活用例

それでは、双方向直流電源はどのような利用方法があるのでしょうか?
基本的には電力の出し入れが存在する製品の開発現場でよく利用されます。以下によく利用される例をご紹介します。

モーター/インバータの試験に

ブレーキ時などに逆流してくるモーター、インバータから逆流してくる電流を吸いこむ必要があるため、双方向直流電源が最適です。いわゆる「バッテリー模擬電源」としての使い方で、昨今のEモビリティの開発現場でよく利用されます。

バッテリーの充放電

電気化学測定器では対応が難しいような高電圧、大電流のモジュール/パック電池の充放電試験には電力の大きい双方向直流電源が最適です。また、出荷検査ライン向けの単純な充放電試験、SoC調整など電気化学測定器ではオーバースペックな場合にも利用できます。

蓄電池用パワーコンディショナーの試験に

双方向直流電源で蓄電池を模擬し、蓄電池用パワーコンディショナーを評価します。実電池ではSoC調整に時間が要したり、同じ状態を長時間維持するのが難しかったりするため、開発用途では意図した状態を簡単に作り出せる双方向直流電源が最適です。

3. バイポーラ電源との違いは?

お客様より「双方向直流電源とバイポーラ電源って何が違うの?」という質問をよくいただきます。一言でいうと双方向直流電源は2象限動作、バイポーラ電源は4象限動作します。動作範囲のイメージは下図をご参照ください。

双方向直流電源:電圧が+の領域でSource/Sinkの2象限で動作
バイポーラ電源:電圧が+と-の領域Source/Sinkの4象限で動作

もちろんバイポーラ電源は双方向直流電源としても利用できます。しかし、一般的にバイポーラ電源はリニアアンプ方式の製品が多く、サイズダウンが難しいため、製品としては最大で1kW程度です。

双方向直流電源の動作範囲

バイポーラ電源の動作範囲

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4. 双方向直流電源がない時代はどうやって試験していたの?

さて、双方向直流電源がない時代はどのように試験を行っていたのでしょうか。
力行動作のみの普通の直流電源装置は電流が逆流してくるとほとんどの場合は故障します。そのため、直流電源の出力側にダイオードを接続し、逆流を防止する必要があります。また、回生時の電流を掃引する装置が必要なため、抵抗器や電子負荷装置を準備することになります。抵抗器や従来型の電子負荷装置を利用する場合、吸いとった電力は熱に変換するので、大電力での試験の場合は電気代のランニングコストが高くなります。また、熱消費のため部屋の温度が上昇するという問題点も挙げられます。試験系の組み方は概ね以下の2通りと考えられます。

A:試験系を簡単に組む場合

試験対象がモーター/インバータなどで力行と同じ電力まで逆流の可能性がある場合、電源の倍の電力の抵抗器や電子負荷を準備することで試験系を簡単に組むことができます。ただし、この試験系の組み方はコストがかかるという問題があります。

B:試験系をきっちり組む場合

力行時と回生時で結線を切り替える回路を作ることにより、直流電源装置と電子負荷装置または抵抗器で試験系を組むことができます。しかしながら、切り替え回路の制作に手間とコストがかかります。

5. EA Elektro-Automatik社の電力回生式・双方向直流電源PSBシリーズの特長

本項では、東陽テクニカで取り扱っています電力回生式・双方向直流電源PSBシリーズの特長についてご紹介します。EA Elektro-Automatik社は1974年に設立されたドイツのプログラマブル電源メーカーで、ラボ向けの直流電源装置、直流電子負荷装置を中心に開発・販売を行っています。特に自動車会社や自動車部品メーカーなど、E-Mobilityの分野で多数の実績があります。

PSB9000/PSB9000JPシリーズ PSB10000/PSB10000JPシリーズ

最大15kW(400V入力)/7.5kW(200V入力)
コンパクト(高さ3U)、軽量(32kg)
60V~1500V、豊富な21ラインナップ
業界最高レベルの最大95% の回生効率
最大30kW(400V入力)/15kW(200V入力)
コンパクト(高さ4U)、軽量(40kg)
60V~最大2000Vまでの9ラインナップ
業界最高レベルの最大95% の回生効率

特長①圧倒的なコンパクトさと軽量設計

PSBシリーズはなんと言ってもそのコンパクトさと軽量設計が特長です。高さ4U(178mm)/44kgの筐体で30kW(400V入力モデル)、高さ3U(133mm)/32kgの筐体で15kW(400V入力モデル)の超高電力密度設計です。他社の従来製品と比較して圧倒的なコンパクト・軽量化を実現しており、これまでの「電源製品は重くて大きい」という概念をくつがえす画期的な製品です。

なぜこんなにコンパクトなのか?

SiCを利用した最新のMOS-FETを採用することで、スイッチング周波数が高く効率が良いため、冷却ファンなどのクーリングシステムの小型・軽量化とEMIフィルタなど周辺部材の小型化に成功しています。また、トランスやインダクタなどをすべて自社開発しており、分散型エアギャップと巻線技術の最適化によりこれらの磁気コンポーネントの省サイズ化を実現し、大幅な省スペース化に成功しています。さらに、力率改善回路を最適化することで力率は限りなく1に近く、入力部でのロスも最小化しています。EA社は長年培ってきた技術と信頼により、他社よりも早く最新技術を導入することで業界最高レベルの最大95%の電力回生効率を実現し、コンパクトかつ軽量に設計が可能なのです。

双方向直流電源 サイズ比較

特長②豊富な電圧/電流/電力ラインナップ

従来の双方向電源は電圧ラインナップが非常に少なく、最適な電圧モデルがない場合は電源装置を直列接続する必要がありました。PSB シリーズは電圧ラインナップが9 種類あり、最大2000V まで直列接続なしで対応することができます。電力は1台あたり2.5kW~30kWまで幅広いモデルがあり、並列運転により最大1080kWまで拡張することが可能です。また、ワイドレンジ(下図参照)のため広い電圧・電流範囲で最大電力が得られ、将来を見越して現在の開発品より高い電圧のモデルを選定しても使用可能で、トータルコストを抑えることができます。

【ワイドレンジについて】

例:PSB9500-90JP(0-500V/±90A/7.5kW)
1/6の電圧=83.3V以上の広い領域で最大電力が得られる。
(従来製品だと7.5kW製品なら500V/15Aが一般的で
 最大電圧時しか最大容量で使えなかった。)

【各電圧モデルの試験対象機器の例】

PSBシリーズ電圧 試験対象器の例
0-60V ・12/24Vの弱電系
・マイルドハイブリッド(48V)
・ハーネス、リレーなどの定電圧・大電流試験
0-80V
0-200V ・小型モビリティ、電動2輪(120V前後)
0-360V ・HEV/PHEV(200-300V)
0-500V ・EVバッテリー模擬
・パワートレイン、EV充電系の試験(0-750V)
0-750V
0-1000V ・高圧EV系(800V以上)
0-1500V ・パワーコンディショナー試験、高圧PV模擬
・鉄道駆動系(750V / 1500V)
・電動航空機
0-2000V(PSB10000のみ)

特長③様々な用途に適用できる高機能設計

〇シーケンス機能/任意波形機能

短期または長期のシーケンス機能で、走行パターンなどの変動を伴うシミュレーションが可能です。高スルーレートのため車載電装品の試験として求められるLV123/ ISO7637-4規格の電圧変動試験にも対応可能です。

双方向電源を用いた車載高圧電装品向けLV123規格試験

〇バッテリー模擬、燃料電池模擬、太陽電池模擬

IVカーブ模擬の機能があり、バッテリーや燃料電池(FC)、太陽電池などのIVカーブ特性をシミュレーションできます。

PV table機能

FC table機能

さらに、オプションでリチウムイオン電池、鉛蓄電池のバッテリー特性に近い出力が可能な、リアルバッテリーシミュレーションオプションをご用意しています。バッテリー特性のSoCや温度依存性、内部抵抗などを模擬することが可能です。

EAバッテリーシミュレータ
オプション(EABS)

〇豊富な外部制御インターフェース

USBやEthernet、アナログ制御はもちろんのこと、CAN、Modbus、RS-232など様々な外部制御インターフェースに対応可能です。ノイズの高い環境や、HILSへの組み込みにも対応します。

○バッテリーテスト機能

バッテリーの充放電試験用途でご使用いただく場合の専用GUIを備えています。充放電電流や繰り返し回数など各種パラメータを設定して、自動での充放電試験が可能です。

関連製品

参考資料

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お問い合わせ先

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部