物性/エネルギー
IR情報 会社情報

技術資料

電圧降下が存在する場合の腐食電流測定における誤差

I- はじめに

I.1 電圧降下

電気化学測定に対する電圧降下の影響は、アプリケーション・ノート#27([1])で説明しています。作用電極~参照電極間の電解液の抵抗RΩに起因する電圧降下RΩ I(t)を図1([1])に示します。

201610131702_1.jpg

ここに、V(t)はポテンショスタットによって印加される電位、E(t)は作用電極から見た電位です。

本書では、電圧降下が存在するときに腐食電流が測定された場合に発生する誤差を示します。この不正確さについて、以下で説明します。

 

I.2 電圧降下が存在する場合の腐食電流の測定

既知のI対E特性のダミー・セルを使用し、腐食パラメータの測定に使用されるさまざまな方法をチェックするのは便利です。アプリケーション・ノート#9([2])で示した試験ボックス#3の第2回路である試験ボックス#3-2を使用しました(1)。試験ボックス#3-2の定常状態のlog |I|対E曲線を、図2に示します。ターフェルの直線は腐食電位のそれぞれの側で250mV以上に渡って観測可能であり、Tafel Fit分析からはIcorr = 33nA、βa = 61:5mV、およびβc = 61:4mV(図2)が得られます。

電圧降下の効果は、WE側の試験ボックス#3-2と直列に2kΩの抵抗を追加してシミュレートします。Tafel Fitによって得られる結果は、ターフェル線をプロットするために選択する電位範囲によって決まります。2kΩの抵抗を直列に追加すると、ターフェル線は曲線のアノード部およびカソード部の電位範囲100mVに渡る範囲でしか観測することができません(図3)。2kΩの抵抗が直列に接続された図3で選択した電位範囲に対し、Tafel Fit分析の結果から得られるのは、Icorr = 44nA、βa = 69:4mV、およびβc = 68:6mVです。

1 研究対象のシステム(ダミー・セル)が電気的なものであっても、電気化学的パラメータを使用します。

本書の残りの部分では、ZIR電圧降下補償手法を使用し、EC-Lab®で利用可能なすべての方法、すなわちStern法(Tafel Fit)、SternおよびGeary法、VASP(VASP Fit)、およびCASP(CASP Fit)の試験を実施します。

 
201610131702_2.jpg
図1: 標準の3電極セットアップにおける電圧降下の配置(V (t): ポテンショスタットによって印加される電位; E(t): 電極における電位とRΩI(t): 電圧降下) ([1])
201610131702_3.jpg
図2: 定常状態の曲線log |I|対E(試験ボックス#3-2(抵抗降下なし)とTafel Fit)。Icorr = 33nA、βa = 61:5mV、およびβc = 61:4mV。
201610131702_4.jpg
図3: 定常状態の曲線log |I|対E(試験ボックス#3-2(電圧降下あり)とTafel Fit)。Icorr = 44nA、βa = 69:4mV、およびβc = 68:6mV。
 
II ZIR手法

ZIR手法については、アプリケーション・ノート#29([3])を参照してください。溶液の抵抗は、単一の周波数(デフォルト値は100kHz)でインピーダンス測定を実施することにより特定します。この周波数は、ユーザが変更できます。

201610131702_5.jpg

ZIR手法の設定は、補正が必要な手法の前に実施する必要があります(図4)。補正値としては、85%を選択しました。これはソフトウェア補正である点に注意してください。

 
201610131702_6.jpg
図4: ZIRおよびLP手法のリンク
 
III Stern 法(Tafel Fit)

2kΩの直列抵抗付きの試験ボックス#3-2で測定された曲線log |I|対E(ZIR手法を使用した場合と使用しない場合)を、図5に示します。ZIR手法を使用すると、ターフェル線が見え、腐食パラメータを特定しやすくなる電位範囲が広がります。Tafel Fit分析とZIR手法を併用すると、Icorr = 37nA、βa = 68:4mV、およびβc = 69:5mVが得られます。

 
201610131702_7.jpg
図5: 定常状態の曲線log |I|対E - 電圧降下付きの場合(RΩ = 2kΩ、青色の曲線)、電圧降下およびZIR補正付きの場合(赤色の曲線)、Icorr = 37nA、βa = 64:7mV、βc = 64:5mV。
 
IV SternおよびGeary法

吸着または拡散の限界のない腐食反応の場合は、電圧降下が存在する環境で微小分極を使用し、Rpの値を測定することができません(アプリケーション・ノート#10([4]))。この方法では、RpとRΩの和を測定することしかできません。しかし、ZIR手法と微小分極(LP)手法をリンクすると、Rpを測定することができます。残留電位(図6)でインピーダンス図をプロットし、RpおよびRΩを直接特定する方が簡単です。

図6のナイキスト線図は、90kΩの抵抗を直列接続した試験ボックス#3-2で測定しました。

このナイキスト線図は、R1+(R2/C2)回路のZ Fit([5])を使用して近似できます。我々の場合は、Rp = R2 = 400:5kΩ、RΩ = R1 = 90:2kΩが得られます。
Icorrの値は、次のSternおよびGearyの関係

201610131702_8.jpg

と、電圧降下なしのTafel Fit分析(I.2を参照)によって取得済みのβa = 61:5mVおよびβc = 61:4mVを使用して特定できます。この場合は、Icorr = 33:3nAが得られます。

 
201610131702_9.jpg
図6: 残留電位(×)で測定した試験ボックス#3-2のインピーダンスのナイキスト線図と、R1 = 90:2kΩ、R2 = 400:5kΩ、C2 = 0:467μFにおけるR1+R2/C2回路(線)の理論図
 
V VASP法

VASP法については、アプリケーション・ノート#36([6])を参照してください。VASP手法の本質は、電位振幅の変化δEによる分極抵抗Rpの測定値の変化の特定にあります。
図7に示すRp 対δE曲線は、次の条件でプロットした曲線です。i) 電圧降下なし、ii) 電解液抵抗をシミュレートした90kΩの抵抗付き、iii) ZIR法による電圧降下補正が85%の場合(2)。

次の関係([7, 6])

201610131702_10.jpg

を、電圧降下が存在する場合に使用することはできません。ただし、ZIR補正で得られた実験結果(図7の緑色の曲線)を使用することはできます。得られた値は、次のとおりです。Icorr = 41:3nAおよびβa = βc = 72mV。

2 ZIR(またはMIR)とVASPをリンクすることはできません。ただし、ZIR(またはMIR)とCASPをリンクし、振幅を大きくする一連のCASPを使用してVASP手法を再現することはできます。詳細については、弊社にお問い合わせください。

 
201610131702_11.jpg
図7: 試験ボックス#3-2におけるVASP。電圧降下なしの場合(青色の曲線)、直列抵抗がRΩ = 90kΩの場合(赤色の曲線)、ZIR補正が85%の場合(緑色の曲線)。
 
VI CASP法

CASP法では、次のように振幅および周波数が定数の、正弦波形の電位に従う電気化学的系の非線形応答を分析します([8])。

図8は、次の条件における試験ボックス#3-2の電流応答を示しています。つまり、電圧降下なしの場合、直列抵抗がRΩ = 90kΩの場合、およびMIR補正が85%の場合です。MIR手法の場合、補正が必要な抵抗の値は、手作業で入力する必要があります。MIRもZIRも、CASP(およびその他の技法)にリンクすることができます。電圧降下の値が判明している場合は、MIRを使用できます。周波数f = 0:1Hzが十分に小さいので、図6のようにRpを測定することができます。CASP分析ツールで得られた値を、以下に示します。

• 電圧降下なしの場合: Icorr = 31nA、βa = 56:9mV、およびβc = 55:6mV
• 電圧降下ありの場合: Icorr = 40:3nA、βa = 89:0mV、およびβc = 87:7mV
• 電圧降下ありでZIRが85%の場合: Icorr = 33:9nA、βa = 64mV、およびβc = 62:7mV

 
201610131702_12.jpg
図8: 試験ボックス#3-2におけるCASP。電圧降下なしの場合(青色の曲線)、直列抵抗がRΩ = 90kΩの場合(赤色の曲線)、MIR補正が85%の場合(緑色の曲線)。δE = 40mV、f = 0:1Hz。
 
VII 結論

試験ボックス#3-2で得られた腐食パラメータの値を、すべての方法について表Iに示しました。本書では、EC-Lab®ソフトウェアで利用可能なさまざまな方法を使用して腐食速度を特定できることを示しました。Tafel Fit、SternおよびGeary、VASP、CASPを使用すると、電圧降下が存在する場合に、系の腐食速度を特定できます。

本表は、電圧降下によって腐食速度の測定に入り込む誤差を示しています。本誤差は、約40%以下の場合があります(VASP)。電圧降下の補正手法は、本誤差を約10%まで下げるのに非常に効率的であるとみなすこともできます(Tafel Fit)。

  表I: パラメータ値の要約RΩは、電圧降下が追加されていることを示します。補正方法は、手法の前に記述されています。
201610132230_1.jpg
 
  参考文献:  

[1] アプリケーション・ノート#27.電圧降下.測定に関する効果。
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[2] アプリケーション・ノート#9.Linear vs. non linear systems in impedance measurements.
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[3] アプリケーション・ノート#29.電圧降下.Part III.Suit- able use of the ZIR techniques ?
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[4] アプリケーション・ノート#10.酸性溶液中における鉄電極の腐食電流測定.
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[5] アプリケーション・ノート#14.Z Fit and equivalent electrical circuits.
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[6] アプリケーション・ノート#36.VASP: an innovative and exclusive technique for corrosion monitoring.
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

[7] J.-P. Diard, B. Le Gorrec, and C. Montella.Corrosion rate measurements by non-linear electrochemical impedance spectroscopy.Comments on the paper by K. Darowicki.Corros.Sci.37, 913 (1995).Corros.Sci., 40:495–508, 1998.

[8] アプリケーション・ノート#37.CASP: an new method for the determination of corrosion parameters.
www.bio-logic.info/potentiostat/notesan.html.

Chlo´e Vincent,
Nicolas Murer, Ph.D.,
Bel´en Molina-Concha, Ph.D.
Jean-Paul Diard, Pr.Hon.

detail__vid--text.png

はい (0)
いいえ (0)

アーカイブ

  • 電気化学インピーダンス測定の原理

    スマートフォンや携帯電話をご使用の際、バッテリー寿命に不満を感じている方はいらっしゃいませんか? 現在、スマートフォン、太陽光発電システム、電気自動車、ハイブリッド自動車に搭載されるバッテリーのさらなる高性能化が急速に求められています。これらに搭載されるバッテリーを精度良く評価解析するために、電気化学インピーダンス測定法は欠くことのできない技術です。ここでは、電気化学インピーダンス測定の原理を紹介します。

  • 電気化学測定 概説

    電気化学測定とはセル(サンプル)に対し電気的な信号を印加し化学的な反応を起させたり、応答信号から内部で起こっている化学的反応を考察することです。これら電気化学測定法の種類や、電気化学測定に必要な計測器について説明します。

  • 固体電解質における交流インピーダンス測定について

    固体電解質とは、電子ではなく、Li+、Na+や、F-、Cl-などのイオンを通じる固体を指し、水や溶媒を全く含んでいないものです。普通の“円筒型乾電池”は実は“湿電池”であり、その中に含まれる電解質は塩とのりを水で練ったものが用いられています。
    これら固体電解質の特性評価を交流インピーダンス測定で行う時の利点について、説明いたします。

  • オーミックドロップ(IRドロップ)

    オーミックドロップ(IRドロップ)は測定される曲線の形状に影響を与え、得られた結果の分析中に誤差の原因となる場合もあります。本書では、いくつかの電気化学的手法に対するオーミックドロップの効果に焦点を当てて説明いたします。

  • 電気二重層の静電容量測定

    本書では、酸性条件における鉄製電極の電気二重層について説明します。その目的のため、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)およびサイクリックボルタンメトリ(CV)という2つの手法を使用して、静電容量の値を特定します。

  • 白金(プラチナ)の活性界面の計算

    電極表面の状態は、実施する実験によっては非常に重要な場合があります。たとえば、平面電極の場合、表面は顕微鏡スケールで可能な限り平面にする必要があります。本書では、I対Eweを示すボルタンメトリ曲線から電極の活性界面を特定する方法を示します。

  • 電気化学反応の反応速度測定 LevichおよびKoutecký-Levich分析ツール

    EC-Labソフトウェア v11.00以降では、LevichおよびKoutecký - Levich分析ツールを利用できます。Levichの関係を使用すると、電気活性種の拡散係数を特定できます。また、Koutecký-Levich分析を行うと、反応の標準定数および対称性因子を特定できます。

  • 電気化学インピーダンス測定:電圧モード(PEIS)と電流モード(GEIS)のどちらを選択すべきか

    電気化学的インピーダンス分光法(EIS)測定は、定電流制御よりも定電圧制御で頻繁に実施されます。ほとんどの場合、電圧モードおよび電流モードは等価であり、電流振幅が電圧振幅に「等価」な場合、同じインピーダンス結果になります。ただし、特定の条件の場合、それら2つの手法の結果は異なることがあります。その点について説明いたします。

  • 大きなトポグラフィ特徴を除去するic (Intermittent Contact: 間欠接触)SECM

    ic-SECMはウォーリック大学によって開発された比較的最近の手法で、SECM測定の間にサンプルのトポグラフィが追跡されるのを可能にします。[1] ic- SECMを使用すると、プローブからサンプルまでの距離を大きなエリアで維持することができ、サンプルの勾配の影響を取り除くだけでなく、大きなトポグラフィ特徴を持つサンプルを測定することにも役立ちます。M470はユーザがdc-およびac-SECM測定の両方でic手法を実行するのを可能にします。本書の目的は、大きなトポグラフィ特徴を持つサンプルの測定におけるic手法の使用を実証することです。これは以下の4つのサンプルを使用して実証されます。

  • USB-PIOの紹介: 生葉への光の影響の測定

    本書はSKP手法の能力の概略です。ここで被覆欠陥の4つの異なる領域を撮像することができます。
    M470がSKPモードで設定され、欠陥亜鉛被覆がTriCellTMに取り付けられて水平にされました。タングステン・プローブがサンプル表面から約100μm以内に置かれ、システムが信号を自動調整するように設定されました。これでユーザがロックイン・アンプ調整を行う必要がなくなります。その後、ステップサイズ100μmで、6 x 6mm²にわたってスイープスキャン・エリアマップ実験が行われました。

PAGE TOP

本ウェブサイトではサイト利用の利便性向上のために「クッキー」と呼ばれる技術を使用しています。サイトの閲覧を続行されるには、クッキーの使用に同意いただきますようお願いいたします。詳しくはプライバシーポリシーをご覧ください。