ドアサミット10周年 ―株式会社日産オートモーティブテクノロジー 芳尾詔彦氏インタビュー ~「黒子の司会術」と次の10年への展望
「ドアサミット」は、「日本のドアをよりよくしていこう!」を理念に国内主要自動車メーカー各社の主催で毎年実施されています。このカンファレンスは、自動車ドアに関する情報交換の場を求める自動車メーカーの声に応えて、2016年より(株)東陽テクニカが事務局となり始まりました。記念すべき第10回は2025年9月9日に開催されました。
今回、司会を務めていただいた株式会社日産オートモーティブテクノロジー 車体設計部 第一車体設計グループ アシスタントマネージャー 芳尾 詔彦氏に司会者としての工夫や、議論を深めるための新しいテーマ設定など、今後のドアサミットの可能性についてお話を伺いました。
インタビュアー
株式会社東陽テクニカ オートモーティブ・ソリューション部 浅原 亮平、夏 一寧
黒子の司会術でつなぐ、ドアサミットの熱気
夏:第10回ドアサミットを終えて率直な感想をお聞かせください
芳尾氏:司会を任された時は緊張しましたが、終わってみると達成感がありました。 実は2回目から参加しているので、どういった流れでドアサミットが進むのか理解していました。前年は盛り上がりすぎて時間が足りなかったなどの反省点を伺っていたので、その点に気を付けながら進行しました。
参加者の雰囲気も「欠点を探す」より「得たものを持ち帰る」という前向きな空気に満ちており、司会としては周りの方々と一体感を持って進行できたと感じております。
浅原:今まで東陽テクニカが司会を行っていました。今回、芳尾様の見事な司会でドアサミットが盛り上がりつつも時間通りに進行ができました。お任せしてよかったと思っています。
芳尾氏:例年、時間通りの進行が難しいと聞いておりましたので、緊張しながらも、時間通りの進行できたことを嬉しく思います。今年も盛況でありましたので、時計で残り時間を見ながら、途中で調整を入れ、「次に進みます」と何度も声をかけてコントロールしました。
夏:今回の司会で特に意識したことは何ですか?
芳尾氏:心がけていたのは“目立たないこと”になります。主役は発表者であり、私の役割は流れを整える「黒子」だと考えています。参加者が自然に議論できる場を作ることが、司会の最大の仕事だと感じています。
各OEMの設計者の方々が準備された資料や、実際のドアそのものを持ち込まれているので、準備された方の気持ちになって、どの部分をどのように注目して見てもらうかを重点に置いて進行をしました。
夏:そういう視点がよかったんですね。進行中の声かけが議論の起点になっていましたよね。
芳尾氏:私は長く参加しているので、顔見知りの方も多く、話しかけることに抵抗がなかったのかもしれません。司会はドアサミットへ何度も参加された方が務められると良いと思います。
浅原:最近の盛り上がりの理由を芳尾様はどうみていますか?
芳尾氏:実際にドアを持ちこみ、OEMの担当者と直接話ができる場があることが大きいと思います。
以前は『来て見て初めて分かる』ということが多かったですが、今は事前に情報を頭にいれて参加されている方も多く、その中で『ここを聞きたい!』という意識して参加されるため、答えが返ってくると、場が盛り上がるのです。現地ならではの現象だと思います。オンラインではちょっと難しい部分ではありますね。

ドアサミット 芳尾氏の司会の様子
ハイブリッド開催で見えた課題と改善策
夏:ハイブリッド開催で進行に難しさはありましたか?
芳尾氏:オンライン側の様子が見えない点に難しさを感じました。例えば、司会者がTeamsの参加者がどう見えているかが分かる仕組みがあれば、進行の工夫がしやすくなると考えます。資料を画面共有している場合、参加者の顔が映らないため、反応が把握しづらいのです。
また、発表時間と質問時間のバランスも難しかったです。30分枠で皆さんが話す準備をしているため、質問の時間がほとんど取れませんでした。
来年からは時間を区切り、発表と質問の時間を分けて設定、さらに時間を現地とオンラインにおいて時間配分を調整できるとよいと思います。
また、今年はオンライン参加者の意見があまり反映されなかった点についても反省しています。会場側の声をオンラインに届けることと、逆にオンライン側の声を会場に反映させる取組の改善が必要です。
浅原:他にはありましたか?
芳尾氏:リアルタイムアンケートが機能しづらくなっていると感じています。
事前に質問を参加者へ提示し、回答を集めておく方法も良いと思います。その結果をもとに議論を広げることで、より一層の内容深い議論に展開させられるのはないかと思います。
次の10年へ向けて―ドアサミットが進化するためのアイデア
夏:今後、どんなドアサミットになると良いと思いますか?
芳尾氏:各社の特徴はある程度見えてきましたが、まだ議論されていない部分も存在すると考えております。一つのテーマを設定し、各社の評価の視点を比較しながら討議を進めることは非常に有意義で面白いと感じています。
例えば、欧州車のドアについて「何が良いのか」を議論した場合、メーカーによって注目点が異なることも理解できます。こうした違いを共有することにより、「他社はこういうところを重視しているのか」という新しい気づきが得られるのではないでしょうか。ある企業では特定の要素に重点を置き、別の企業は全く異なる点を評価している場合もあり、開発や評価の担当者の視点も多様です。このテーマは、議論を深める良いきっかけになると確信しております。「日本のドアをよりよくしていこう!」という設立の理念に通じていますね。
日産が考える「良いドア」― 黒子のように寄り添う存在
夏:ドアサミット自体のご質問は最後になります。皆さんに聞いている恒例の質問です。 芳尾様の考える良いドアとは?
芳尾氏:日産のドアの基本方針は「顧客の行動を邪魔しない」「不満を与えない」ことにあります。開けやすさ、安全性、質感が重要視されており、ドアは車両に触れる最初と最後のパーツであるため、目立たず悪い印象を与えないドアが理想的なドアだと考えています。
そして私たちが目指すのは、まるで黒子のようなドアです。開ける時には自然にサポートし、閉める時にはさりげなく寄り添う、そうした存在感の薄さこそ、最高の品質だと考えています。
感じる違和感をなくす― 日産が追求する“感性品質”
夏:日産様のドア開発についてお伺いいたします。 感性品質という言葉があります。これについてどうお考えですか?
芳尾氏:感性品質というのは、「見て、触って、使ったときの印象や質感を大切にする」考え方になります。この感性品質は、設計段階から意識しています。例えば、線が平行のはずなのに歪んで見えたり、穴がないはずなのに奥の隙間が見えたりといった、違和感をなくす工夫です。車の構造上、どうしても隙間が生じることはありますが、それを「穴」に見せないように、部品の形状や構造を検討します。
こうした取り組みは、製造ラインの段階だけではなく、デザインの初期段階からも始まります。デザイナーがスケッチやクレーモデル作成時点で、「この形だと隙間が目立つ」ときづき、改善案を提案して、質感を損なわない範囲で調整を行います。
こうした細かい工夫は、普段目にしていると気づかれにくいですが、そのレベルまで配慮してこそ、評価されるものだと考えます。違和感のなさこそが、「当たり前の美しさ」とも言えると思います。
軽自動車“大きなドア”を採用 ― 日産「ルークス」がこだわる乗降性と安全性
夏:ジャパンモビリティショーで展示された新型車のドアについて伺います。特に新型リーフのフラッシュドアハンドルが印象的でしたが、その採用理由や狙いを教えてください。
芳尾氏:採用の理由は、デザインを洗練させ、空力性能を向上させることになります。鍵を持って接近すると、自動的にハンドルが出てくる仕組みで、外観の高級感も狙っています。ただし、凍結時の作動や耐久性などに関しては、設計段階において十分な検討を施しました。構造上、モータや基盤が増加し、従来より大きく重くなるため、その補強や製造時の調整が必要となりました。車体ごとにドアパネルの精度を計測し、その結果に応じたスペーサーを用いるなど、様々な工夫をしています。
夏:ルークスのスライドドア開発において、乗降性や安全性を高めるためにどのような工夫をされていますか?
乗降性を高める“大きなドア”
芳尾氏:近年、軽自動車は背の高いモデルが増え、より乗り降りのしやすさが求められるようになっています。そのため、日産「ルークス」もドアの大きさを確保し、快適な乗降性を実現しました。実際、普通車と比べて大きいドアを採用することで、日常使いの利便性を追求しているわけです。
細部に込めた安全性と使いやすさ
芳尾氏:ルークスでは、スライドドアの開口量を広く取る工夫を継続し、取っ手の位置変更や内装のぶつかりやすい部分の改善など、細部にわたる改良が加えられています。さらに、小さな子どもが触っても危なくないように、尖った部分をなくすなど、安全性への配慮も徹底されています。
見えない部分に遊び心を― 所有する楽しさを演出する工夫
芳尾氏:バックドアのパネルに模様を入れるなど、見えない部分にもデザイン性を持たせる工夫が施されています。こうした遊び心は、部品配置や模様に意味を持たせることで、所有する楽しさを演出します。また、当たり前品質(PQ)を重視し、違和感のない仕上がりを追求しています。
浅原:最後に来年の参加者へのメッセージをお願いします。
芳尾氏:ドアサミットは、ただ聴くだけの場ではなく、共に創り上げていく場であると考えております。遠慮せず声を上げ、意見をお伝えください。手を挙げること、質問すること、意見を交わすこと――それらの一歩一歩が議論を深め、意味のある時間になります。そこで得られる知見や盛り上がる議論を大切にし、「来年も何かを得て帰る」という気持ちで積極的に参加していただきたいと願っております。
本日はありがとうございました。東陽テクニカも、今後もより良いドアサミットを目指して引き続きサポートしてまいります。

左:日産オートモーティブテクノロジー 芳尾詔彦氏
右:東陽テクニカ 夏一寧
ドアサミットに関するお問い合わせ先
株式会社東陽テクニカ オートモーティブ・ソリューション部
TEL:03-3245-1058(直通)
E-mail:web-car@toyo.co.jp
Webサイト:https://www.toyo.co.jp/mecha/
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