EMCの国際規格の策定に対する貢献により、東陽テクニカ社員が「IEC活動推進会議(IEC-APC)議長賞」を受賞

概要

当社にて長年EMC分野で活躍してきた中村哲也が2020年のIEC活動推進会議(IEC-APC)議長賞を受賞しました。受賞を記念して、これまでのEMCとの関わりやエキスパートとしてどのような活動をしてきたのか、インタビューを行いました。動画とインタビュー全文でご紹介いたします。

インタビュー全文

中村さんの東陽テクニカでの経歴と、どのようにEMCに関わるようになったか教えてください。
1981年に東陽テクニカに入社し、最初は技術に配属されて、高周波計測器を扱っていました。
最初は高周波計測器の修理をしていましたが、5年くらい経った後、EMCがクローズアップされ始め、EMIレシーバーの修理に加え、取扱方法などをお客様に教えるといったサポートが増えてきました。
徐々にEMCのシステムを提案するようになったのですか。
最初はEMCを簡単に測定できるように、EMIレシーバーをPCで制御して、自動で出力が出るというようなソフトウェアを作ってほしいという要望が出始めました。最初は特注システムを受けるようになり、86年ごろから34年くらいこれに携わっています。
東陽テクニカが標準のEMCシステムを販売しはじめたのはいつごろからですか?
お客さんのEMCの特注ソフトウェアを作っていく間にノウハウが蓄積できました。EMI測定というのはレシーバーだけではなくて、最初はスペアナを使って測っているというのが分かり、それだけではなく、ターンテーブルやアンテナマストも組み合わせて測定するということも分かってきたので、それをすべて制御できるソフトウェアを作って、一式のシステムとして売るのがお客様にとって利益があるのではないか、という考えから、標準システムを作って販売を始めました。
最初は、製品を輸出する企業だけがEMC試験を実施していましたが、国内でも規格化されるという流れになったときに、すでにシステムを様々な企業に供給できる体制となっていたため、タイムリーに供給できました。
技術的なバックグラウンドは35年ほどで培ったと思うが、どのように習得しましたか?
振り返ると、すべて東陽テクニカの業務の中で得た知識です。最初は、例えばEMIレシーバーの修理をするときにはレシーバーをよく知っていなければ修理できないので、測定原理が詳細に書かれたマニュアルなどを読んで勉強しました。お客様のところでご意見をうかがえる機会もありました。EMCの測定はEMIレシーバーを使うばかりではなく、ほかの測定器も駆使している人がいることも分かりました。また、お客様自身がEMCをよく知っているのかといえば、そうでもなく、東陽テクニカが扱う測定器は往々にしてお客様が詳しいということがよくありますが、EMCの分野ではそうではありませんでした。お客様は高周波の知識があまりない方も多かった一方で、自社の製品を売るためには高周波の特性を測定しなければならないという責任を負うようになったんです。製品を作るための知識は深く、デジタル化が進む時代でその方面の知識は深かったのですが、EMCになると、全く関係ない高周波に関する知識が必要で、非常に困惑していました。どのように測るか、出てきた値がどのような意味があるのか、なども知らない方が多かったです。当時、我々は高周波に関する知識があり、測定に関してもいろいろな経験があったので、お客様にトータルなサポートを提供することができました。それが強みでした。その後、日本からEMCに関するエキスパートとして、私が派遣されることになりました。EMCの必要な知識は東陽テクニカの仕事の中で得たものですが、他国のエキスパートとやりあえるくらいの知識が得られたということを実感しています。
エキスパートを長年務めていて、システムやソフトウェアの開発に役立ったことはありますか?

やはり、EMCで一番大事なのは規格。規格に沿った試験をするため、規格自身がどうあるかがシステム作りに大きく関係します。当初は規格書を読み込みましたが、あいまいな部分が多く、その部分をシステムで具現化するにはどうしたらいいか、という悩みがありました。その当時のエキスパートやずっと昔から試験している人に聞きにも行きましたが、「知っている人しか知らない」というのは規格としてどうなのか、という疑問がありました。
エキスパートになると、どんな経緯で要求事項ができているか、どんな話し合いがあったか、どんな言い合いがあって、最終的な形になったかという背景をよく知っているので、システムを作るときにもはっきりとどうすればよいか理解でき、後のやり直しもなくなります。また、EMC試験に使用する製品のスペックを把握しておけば、無理な仕様を掲げて、お客様が高価な測定器を買わなければならないというようなことを避けることができます。また、規格化したときにお客様にすぐに提供できるように、事前に準備を始めることもできます。
エキスパートになった経緯、いつごろなりましたか。
すでにEMCのエキスパートだった方と知り合い、その方のところに東陽のシステムを納めました。その縁から交流が始まり、国際規格を作る際のいろいろな裏話を聞いていました。その後工業会の代表として国内委員会に入りました。
国内委員会に入ったのは2003年。そこからエキスパートとして選ばれて、IECの一つの技術委員会、TC SC77Bの1つのWG10で活動し始めたのが2010年。そこから国際会議に出席し始めました。
国際会議に出席できるメンバーは何名いらっしゃいますか。
TC77関連は一人だったり、二人だったり。WG10は2名。
国際会議の頻度はどのくらいですか。
私の場合は年に2回。
何か国くらいからメンバーが国際会議に参加しますか。
15-20名ほど。ドイツなどは3名参加などあるので、国で言うともうすこし少なく、10か国ぐらいです。
委員会活動で楽しかったことはなんですか。
いろいろな国に行かせてもらったので、ご当地のおいしい食事やワインをエキスパートの人たちと交流しながら楽しめたことですね。
それは、各国の事情などを聞ける機会でもありましたか。
はい。いわゆるロビー活動というのがこの場で行われることも多かった。コロナ禍なので、今はオンラインで議論しているが、この活動が重要だったということをあらためて痛感しています。
エキスパートで国際会議にいくとどのようなことをしますか。
1週間、月曜から金曜日まで缶詰で議論します。まずは、今の規格のメンテナンスや新しい規格をどうするか話し合います。そして、一つの規格に対して各国からコメントが届き、200くらいあるコメントをひとつずつ議論します。飛ばすと不平等なので、すべてを議論します。1つの規格をやるだけで2-3日かかります。
日本である程度議論した意見を国際会議に持って行って、そこで議論しますか。
それぞれの規格の要求事項について、持ち帰って、国内委員会から各工業会に回します。もし受け入れづらい内容があれば、実験などをして、そのデータを元にプレゼンテーションして国際会議で変更提案をします。なるべく日本の意見を反映してもらって規格化してもらうというのが私たちの仕事です。
中村さんの立ち位置はどの辺でしょうか。
15-20名の中の7-8名が活発に意見したりするのですが、私もそのメンバーの一人です。周りから認められないと意見が軽んじられるので、認められることが必要。そこでもプレゼンテーションでポジションを確保することができました。
中村さんが参加している国際会議の正式名称とどの規格に携わっているか教えてください。
所属はIEC (International Electrotechnical Commission) の規格を規定して審議する、TC(Technical Committee) SC77B(Sub-committee)のWG10(Working Group)。イミュニティの基本規格、連続派に対するイミュニティの試験方法などを規定しているところ。
日本から中村さんが持って行った規格案が規格化されたのはどのくらいありますか?

各規格に対する日本からのコメントを受け入れてもらえるように常に活動している。その中で、例を挙げるとすると、IEC61000-4-3第4版が9月に発行されましたが、それを審議している際、床置き装置でも床から全体を電磁界の中に入れる、というようにより厳しい要求に変わりそうになりました。床付近の電磁界は発生しにくいので、緩和措置はあるものの、日本の国民性からきっちりやろうとする。そうすると強いアンプが必要になるため、新たな設備投資をすることが目に見えていました。一方、他国は緩和措置があるのできっちりやらなくてもよい、という解釈をするところが多いです。そうなると日本に不利益があるので、強制をしめすShallではなく、望ましいという文面にするため、表現をShouldにしてほしいという意見を出し、採用されました。
中村さんがそのような活動をして、国内のメーカーが不利益にならないようにしているということですね。
SC77Bや国内委員会での最近のホットトピックは何ですか。
最近はシステムとして稼働し始めた5Gですね。
近々に規格化されるものはありますか。
ブロードバンド信号による放射イミュニティ試験法に対し、IEC61000-4-41が採番されており、これから審議が開始されます。現在、Working Draftを作成するところですが、規格となるかどうかはこれからの審議次第です。
これからも委員会活動をつづけるか。
許される限りこのような活動は続けていきたい。
国の代表としていくのは楽しいですか。
意外と大変な仕事です。
ありがとうございました。