車両アンテナ放射パターンとデータスループットを測定する費用対効果の高い方法

ヤン・カールソン
RanLOS AB (スウェーデン、ヨーテボリ)

自動車は、安全運転や先進安全支援システム、あるいはソフトウェア更新や娯楽目的のデータストリーミング向けなど、信頼性の高い無線通信への依存度を高めている。こうしたシステムやサービスの能力や性能は、顧客獲得競争において重要な差別化要因となっている。それにもかかわらず、アンテナ性能と接続性を測定する試験システムに投資している自動車メーカーは、世界でもほんの一握りしかない。その主な理由は、従来の測定技術は複雑で、使用するのに時間がかかることが多く、特別な試験設備と多額の投資が必要だからである。対照的に、RanLOSテストシステムは、その代替手段となり、手頃な価格で使いやすい、ソリューションである。RanLOS システムは、最終製品の信頼性と優れた性能を保証するために、開発プロセスで継続的に使用することができる。この記事では、RanLOS テストシステムの背景にある考え方と技術、またこのシステムを使用することによってどのように自動車メーカーがコストパフォーマンス良くアンテナ放射パターンとOTAデータスループット測定をすることができるか、説明する。

背景

無線通信システムの性能を評価する一つの方法は、実際の使用環境でその性能を測定することである。自動車の場合、これは通常ドライブテストと呼ばれ、単純に公道を走り回ることを意味する。現在、多くの自動車メーカーがこの方法でシステムをテストしている。しかし、この方法には疑問がある。前回測定したときと今回の環境は同じで、その環境は典型的な使用状況を表しているか。起こりうるすべてのケースをカバーしているか。これらすべての質問に対する答えは、厳密に言えば「ノー」であり、テストの価値が疑問視される。もうひとつの問題は、走行テストには完成間近の車両が必要であり、多くの場合、機密保持のため、少なくとも昼間は人前で走らせることができないことである。このような現実的な問題と、走行テストの限定された価値という問題から他のアプローチも提案されている。そのアプローチのひとつが実験室のセットアップで環境を模倣することである。これは、複数のアンテナを車両の周囲に円形、半球、または同様の構成で配置することで実現できる。このアンテナに適切な信号を送り、実際の環境を模倣する。このようなセットアップにより、異なる方向からの電波を発生させることができ、実際の環境における物体からの再反射、回折、散乱をシミュレーションする。そこで生じる疑問は、どのような環境をシミュレーションしているか、そしてその環境は最悪のケースなのか、ということだ。もう一つの疑問は、テストの必要性が十分にカバーされているという信頼度を高めるために、テストベッドは何種類の環境をシミュレーションすべきかということである。

図1:車両向けRanLOS試験システム

RanLOS社の創設者であり、シャルマース工科大学の教授であるパー・シモン・シルダル氏は、このような疑問に取り組むため、2000 年にBluetest社を設立した。Bluetest社は、リッチな等方性マルチパス(RIMP)環境でモバイル機器をテストするためのリバブレーションチャンバを製造している。RIMP環境には、あらゆる方向、振幅、位相、偏波を持つ信号が到来する多数の等方性マルチパス波が含まれている。シルダル教授は、通信システムを正確にテストするためには、LOS(Line of sight、見通し線)環境も再現する必要があると考え始めた。LOS 環境では、被試験車両に入射する単一の波だけが含まれる。この環境は、従来のポイント・ツー・ポイントの通信リンクを再現している。2013 年にこれらの境界条件を探るうちに、シルダル教授は、RIMPとLOSという2つのエッジ環境両方で通信システムをテストする必要があるという考えに至った。2016年、シルダル教授はこのLOSエッジ環境に対応したテストシステムを製造するためにRanLOS 社を設立した。RIMP環境は、実生活ではめ ったに見られない極端なマルチパス環境を提供しリバブレーションチャンバでエミュレーションすることができる。一方LOS エッジ環境では、被試験車両に入射する波は1つだけである。これも実生活ではめったに発生しないタイプの環境だが、シルダル教授は、すべての実環境はこの2つのエッジ環境の中間に位置すると仮定した。シルダル教授は、デバイスがこの2つのエッジ環境で良好なパフォーマンスを発揮していれば、実環境でも良好なパフォーマンスを発揮するだろうと結論づけた。また、あるデバイスが2つのエッジ環境のどちらかでうまく機能していない場合、おそらく実環境でもうまく機能しないか、少なくとも両方のエッジ環境でうまく機能するデバイスほどは機能しないだろう。2016年にシルダル教授が逝去されて以来、理論的な研究と開発作業は、教授の娘であるマデリン・シルダル氏を含む専門家チームによ って引き続き行われてきた。これらの理論に基づき、RanLOS社は、小型のmmWaveデバイスだけでなく、車両アプリケーション用のOTA 測定システムも開発してきた。図1は、車両用OTA 試験システムの最新製品版である。

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