「第8回ドアサミット」
トヨタ自動車株式会社 梅谷剛氏インタビュー
(後編)

コラム

「第8回ドアサミット」インタビュー|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

「ドアサミット」は、国内主要自動車メーカー各社の主催による、自動車のドアに特化したカンファレンスです。2016年、自動車ドアに関する情報交換の場を求める自動車メーカーの声に応えて東陽テクニカが事務局となりスタートしました。
「日本のドアをよりよくしていこう!」を理念に定例開催されているドアサミットですが、第8回となる2023年はリアルとオンライン同時開催の初のハイブリッド形式で9月5日に開催されました。

前編の第8回ドアサミットのレポートに続き、今回幹事を務めてくださったトヨタ自動車株式会社 車両品質部 内外装室 主幹 梅谷 剛氏にドアサミットの感想や期待、ワールドプレミアで発表されたセンチュリー「リンク式パワードア」や、今後の自動車ドアについてお話を伺いました。

インタビュアー
株式会社東陽テクニカ 機械計測部 浅原亮平、名古屋支店長 草村航

ドアサミット幹事 トヨタ自動車株式会社 梅谷剛氏へインタビュー

切磋琢磨の理念に合致した白熱したドア展示プログラム

浅原:ドアサミット今回はハイブリッド開催となりました。梅谷様はリアル会場でご参加いただきましたが、どのような感想を持たれましたか?また、初の試みだったハイブリッド開催の良かった点や反省点、それらを今後の開催にどのように生かしていくかをお聞かせください。

インタビュー|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

梅谷氏:私は第一回目からずっと参加させて頂いていますが当初の頃の面着の参加に加え、昨年と一昨年はコロナのためにオンラインとなりましたが参加しました。オンラインにはオンラインの良さがありよかったと思っております。ただ、あらためて今年面着で参加して、じかに顔を合わせて話をすることの良さを感じました。相手の表情が見えることで、会話がよりスムーズにいくのかなと。オンラインは参加しやすく便利ですが、どうしても面着で話すレベルまでに深い議論をすることはできません。
面着で集まると当然ですが、マツダさんは広島から、トヨタも九州のメンバーも来るので、大変な面もあります。ただ、顔をあわせると実際の報告では出てこないような話もできるのが面着の良さです。
一方でオンラインを2年間やってよかった点もあります。参加の敷居、ハードルが下がって多くの方が参加でき、参加人数も増えました。オンラインは手軽に参加できるという良さがあります。
今回、面着の良さとオンラインの良さをそれぞれ欲張ってハイブリッド形式で実施しました。ハイブリッド形式は面着とオンライン、両方を開催してきた過去の経験を活かしながら良いところを取り入れられたのがよかったと考えています。

反省点ですが、今回アンケートでもありましたがオンライン参加の方々が面着参加者同士の議論に入っていけずに、聞いているだけになってしまうなど、議論へ参加しづらく、中身までは入りこめなかったというご意見や、通信状況も悪かったため、何を言っているのかわからないというご意見もありました。
面着参加者たちが一緒に会をやっている認識を持ち、オンライン参加の方々に話を聞きやすくする気配り、参加しやすい気配りができたら、より良い議論の場になるのではと思いました。

草村:開催時期についてはいかがでしょうか?以前は人とくるまのテクノロジー展とセットで行けるようにと、時期を合わせていました。

梅谷氏:私は別にセットである必要はないと考えています。 ドアサミット単独でも来ていただけるというか、行こうという、それだけ参加する価値がある会であると考えています。

浅原:ドアパネルの実物を展示し各社が説明、質疑応答するプログラムが非常に盛り上がって、予定していた時間を大幅に超過するほど白熱しました。活発な議論ができた理由としてはどのようなことが考えられますか?

インタビュー|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

梅谷氏:技術講演のミニ版になっていたからではないかと考えています。すべてのOEMがドアを展示し、こういう技術で開発したと紹介をしましたが、その紹介の中にそれぞれのOEMの信念や、技術開発の考え方が付随していて、技術屋の好奇心をくすぐるプログラムになっていたと思います。参加者の皆さんは技術屋なので、他社の技術に興味があり、どのような考え方で開発をしているのかを聞いてみたい、良いところを学んで自分の業務の参考にしたいとの思いが強く、沢山の質問が出てきたのではないかと考えています。
やはり展示物(ドア)を直接見ると紹介いただいている項目以外にも興味が湧いたり、気が付いたりなどして、新たな質問が出てきて、技術的な議論が活発に盛り上がっていたのだと思います。

ドアパネル展示

ドアパネル展示|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

ドアパネル展示|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

ドアサミットの「日本のドアをよりよくしていこう!」という理念、お互いに技術を紹介しあって、切磋琢磨していこうという理念に合致したとても良いプログラムだったと思います。次回はもっと時間をとりたいプログラムですね。

リアル会場の盛り上がりの一方でオンライン参加の方々から、質疑応答が聞こえない、中途半端に聞こえるのを聞くだけだったというアンケート回答もありました。接続の問題を解決し紹介の仕方を工夫してオンラインの方々も参加できるようにすれば、オンラインの方も楽しいのではと考えています。今回ハイブリッド開催は初で反省点があるので、次回に活かせたらと考えています。

浅原:三菱自動車様のドアを見て各社みなさんが「きれいだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。どのような観点による評価なのでしょうか?

梅谷氏:ドア板金の見た目には意味があって、その形状に各社の思想が現れています。板金の窓枠の下のところが、三菱さんはパっと見て複雑にごちゃごちゃしていなくてシンプルにうまくできている。また三菱さんが積極的におっしゃっていた、お客様に見える側、ドア後側ですね、こういうところの気配りをしている。設計としてやりたい形状と、プラスそこにデザイン性を加えたとおっしゃっていました。

梅谷様の考える良いドア、そして今後のドアサミットへの期待

浅原:毎回、幹事の方にお伺いしているのですが、梅谷様の考える良いドアとはどのようなものでしょうか?

梅谷氏:使い勝手の良いドアですね。ドアは多機能なので、開閉に耐えうる密閉性能(水漏れ対策や風切音の異音対策)も求める必要があります。毎日、快適に軽く開けて軽く閉めることができ、雨の日には水漏れがなく、高速道路では風切音を防ぐといった車に乗る上での当たり前の基本性能をよくしたいと思っています。
一方で見た目の印象を左右する素材の検討や、利便性のある電気的な動きを取り入れるという付加価値も大事ですね、ただ、まずは基本性能である使い勝手があってこそだと考えています。

浅原:今後のドアサミットをどのようなイベントにしていきたいとお考えですか?もしくは期待する姿などありますでしょうか?

梅谷氏:切磋琢磨して世界に通じるドアをつくっていく「日本のドアをよりよくしていこう!」というドアサミットの理念を核にしてやっていきたいです。今までも工夫をしてプログラムを作っていますが、ドアの実物展示のような技術的な議論ができる場、技術交流の時間を多くとっていきたいですね。
また、冒頭の技術講演もとてもよいプログラムでした。今年のSUBARUさんの講演がとてもよく、前半で会社紹介をされていたのでSUBARUさんの考えを知ることが出来ました。会社はこうです、クルマはこうです、ドアはこうですといった階層を経て、SUBARUさんがどのような考えと信念に基づいてドアを設計しているかがわかる良い機会でした。技術者にとってそれぞれが所属する会社の考え方、私で言えばトヨタの考え方が基本、自分にとっての当たり前になっています。ドアサミットを通じて他社の信念を知ることができとても良かったと考えております。

主軸はOEMですが、サプライヤーさんも入れた技術紹介も取り入れながら、 自動車会社の垣根を越えて、技術的なディスカッションを中心とした交流で切磋琢磨できる場になることを期待しています。

ワールドプレミアで発表されたセンチュリーの「リンク式パワードア」開発

浅原:ここからはドアサミットに関連しないご質問になります。 米国ではドライバーレスタクシーが商用化されました。完全自動運転車に求められるドアはどのような機能をもったドアでしょうか?

梅谷氏:私個人の考えですが、ドライバーがいない中でお客様だけで車にのり、目的地でおりるということなのですが、ドアに限らず、最優先は安全ですよね。乗るお客様の安全を最優先にしなければならないです。ドアに特化して考えたときに、開け閉めが安全でなければなりません。自動運転だからといって、自動ドアである必要はないと考えます。通常の有人のタクシーだとお客様の様子をみてドアの開け閉めをしますよね。もし自動ドアにするなら、絶対に挟まないように配慮をしないといけない、その安全を判断して開け閉めをしないといけないですよね。まだ手があるのに閉まってしまったらけがをしてしまいます。挟まない、けがをしない配慮が必要です。 自動運転車も普通のドアから始まるのではと思います。お客様の安全が最優先です。

浅原:10月初旬のワールドプレミアでセンチュリーの「リンク式パワードア」が発表されましたが、どのようなところがアピールポイントになっているのでしょうか?

リンク式パワードアシステムについて|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

梅谷氏:リンク式パワードア、実は私も携わっておりまして、生産技術の立場で図面作成から物を作って世に出していくという部分を一緒にやっております。
このドアの特徴ですが、まず見ていただくとわかるように、通常ドアには必ずあるはずのハンドルがなくなっています。
開閉方向は、普通はドア前側のヒンジ中心に開きますが、ドアの後ろから支えているリンクを使ってドア開閉します。 スライドドアに近い動きをしますが、異なる点はスライドドアにはレールが必ずあり、ローラーがレールに従って動きますが、この車にはレールはありません。 その代わり、クルマ本体に固定されたアームでドアを動かします。
重いドアを動かさなければならないのでアームはしっかりしたものでないといけない苦労があります。
またセンチュリーなので、高精度な造りも求めるために生産技術も必要です。根本しか固定されていない一本のアームでドアを支えるため、先端がブレてしまうものを、ブレを押さえながら生産する必要があります。

浅原:ドアの開き方が特長的ですね

梅谷氏:ドアの開け方はふすまを開ける「少し開けてからすっと開ける」動作をイメージしています。 動き出しは穏やかにゆっくり開け、動き出してからはすっと動くように設計されております。
乗り降りしやすい点がメリットです。また電気仕掛けですので、先に開いて待たせることなく乗り降りができるようになっております。通常使用では電気で動くのみにしようということでハンドルをなくしてすっきりさせました。

浅原:ドアのハンドルがないので、後部座席に乗る時はどうなりますか?

梅谷氏:想定しているのがオーナーカーではなくショーファーカーですので自分でドアをあけることは少ないと思います。専属運転手にドライバー席近くにあるスイッチで開けて頂くことを想定しています。リヤドア外側からは、ドアフレーム根元にあるスイッチ操作や、ワイヤレスキーのスイッチ操作でも開閉することが可能です。

※オーナーカー:車の所有者が運転する車 ショーファーカー:専属運転手が運転する車

浅原:センチュリーのドア開発に梅谷様もかかわってらっしゃったのですね。今後、同じドアは量産の高級車に搭載されますか?

梅谷氏:このベース車両の記者発表で説明されているのですが、このリンクドアについては、販売店の担当マイスターが、一人ひとりのお客様と丁寧にコミュニケーションを重ね、お好みに合った世界に一台のお車をご提案する「フルオーダー」のご提案事例として提示したものです。特長あるパーツを精度よく丁寧に作る必要があるので、量産車に広げるのはハードルが高いですが、今後も検討を続けていきます。

浅原:自分が関わった製品が世に出るのは喜びもひとしおですね。 この度はありがとうございました。ドアサミットの幹事としてのインタビューだけではなく、センチュリーのリンク式パワードアの開発についてもお伺いでき、とても貴重なお時間でした。
次回のドアサミットは当社側としても通信環境のところは改善してまいります。 梅谷様のおっしゃるとおり、面着もオンラインもいいところがあります。今後もより良いドアサミットを目指して引き続きサポートしてまいります。

インタビュー集合写真|「第8回ドアサミット」|自動車計測ポータルサイト|東陽テクニカ

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