東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら

シンプルな設定で効率性アップ
最新マルチビーム測深機で測る海底の世界

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部 課長 柴田 耕治

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. マルチビーム測深機とは
  2. マルチビーム業界を牽引、R2Sonic社の「Sonic」シリーズ
  3. 煩雑な設定や試験は必要なし!最新の「Sonic-V」シリーズ
  4. 「Sonic-V」シリーズはSIMも小型化
  5. 小型モデルは小型無人ボートにも搭載可能
  6. 「Sonic」で測れること― ケーススタディのご紹介
  7. 今後の展望― 注目が高まるブルーカーボンの取り組みへの活用

シンプルな設定で効率性アップ 最新マルチビーム測深機で測る海底の世界

マルチビーム測深機とは

マルチビーム測深機とは、扇状に音波を発射し、水中・海中の地形形状を取得するための音響測深機です。旧技術であるシングルビーム測深機は、音を海中に発信して海底からの反射波を受信し、その時間から海底までの距離を計算します。シングルビームでは一回の計測で一点の計測データしか得られませんが、マルチビーム測深機は、信号処理で複数のビームを同時に作成することにより、一回の計測で数百点の計測データを同時に得られるシステムとなっています。

シングルビーム(左)とマルチビーム(右)の計測イメージ

マルチビーム測深機は、扇状に同時に複数のビームを発射し、広域の水深を計測する

本稿では、東陽テクニカが取り扱うワイドバンドマルチビーム測深機「Sonic」シリーズの特長とケーススタディ、そしてますます注目されるブルーカーボンの取り組みにおける活用の展望をご紹介します。

マルチビーム業界を牽引、R2Sonic社の「Sonic」シリーズ

2008年にR2Sonic社が販売を開始したワイドバンドマルチビーム測深機「Sonic」シリーズ。日本国内では、2009年に東陽テクニカが販売代理店となり、これまでに約300システムの納入実績がある、日本で最もポピュラーなマルチビームシステムです。広い受信帯域、オンザフライでの周波数切り替え、最新のWCI(Water Column Image)搭載(水中イメージを見ることが可能)、バックスキャター(海底の反射強度のイメージング)技術の搭載など、マルチビーム業界の最先端を行くシステムです。他社に先駆けて1,024測深点/ピングの実現や、低周波モデルの実装、超小型モデルの販売を行うなど、R2Sonic社は常にマルチビーム業界を牽引するメーカーです。

ワイドバンドマルチビーム測深機「Sonic2026」

煩雑な設定や試験は必要なし!最新の「Sonic-V」シリーズ

R2Sonic社/R3Vox社(R2Sonic社の姉妹会社)から新しく、「Sonic-V」シリーズが発売されました。「Sonic」のソナー内部にIMU(Inertial Measurement Unit:動揺センサー)を組み込んだ最新モデルです。IMUをソナー内部に組み込むことにより、工場出荷時に行われるセンサー間アライメント調整のみで、現場でのソナーとIMU間のアライメントを行うパッチテストが不要となります。従来の「Sonic」シリーズのソナーとIMUを金具で組み合わせる方法とは異なり、0.01°単位でのアライメント精度を常に保つことが可能となります。また、IMUが組み込まれていても、ソナーのサイズ・重量は「Sonic」シリーズとほぼ同じです。

IMUの購入が不要であることに加え、「Sonic」シリーズで必要だったコネクタや水中ケーブルも不要になり、「Sonic-V」単体を購入すればよいため、価格もリーズナブルです。また艤装時には、ソナーを艤装すれば同時にIMUの艤装もできますので、煩雑なケーブルの取り回しも減り、人為的ミスも軽減できます。

「Sonic2022-V」

「Sonic-V」シリーズはSIMも小型化

「Sonic-V」シリーズの船上ユニットは、「Sonic」シリーズのSIM(Sonar Interface Module)より小型で高性能な「VOX-IM」となります。ソナーケーブル、GNSSケーブル、表面音速度計ケーブル、PCとの通信用のイーサネットケーブル、その他外部入力ケーブルが「VOX-IM」に接続されますが、従来の「Sonic」シリーズより小型となっております。また、90~260VAC、10~55VDC入力により動作しますので、さまざまなプラットフォームに搭載可能です。

「Sonic-V」シリーズの船上ユニット「VOX-IM」
「Sonic」シリーズより小型で高性能

洗練されたオペレーションソフトウェア「VoxAPP」により、直感的なソナーの操作とデータ収録も可能となります。また、「Sonic」シリーズと同様にサードパーティのソフトウェアによるデータ収録も可能ですので、オペレーション方法の幅が大きく広がります。

「VoxAPP」でリアルタイムに表示された、沈船を捉えた疑似3D図(鳥瞰図)

小型モデルは小型無人ボートにも搭載可能

「Sonic」、「Sonic-V」シリーズの中で最も小型のモデル「Sonic2020」および「Sonic2020-V」は、小型無人ボート(水上ドローン)にも搭載可能です。小型でありながら水路測量業務準則の最も上位となる特級の規定も満たしているため、ほぼ全てのオペレーション要求をクリアすることができます。センサー類を全て無人ボートに搭載しており、ボートは内部センサーとCPUにより自動的に測量を行うため、作業時間の短縮、人的リソースの削減を実現することができます。

無人ボートで世界的に実績のあるSeafloor社と東陽テクニカが共同設計したマルチビーム搭載小型無人ボート「TriDrone2020
「Sonic2020」を搭載している

2人で持ち運べる大きさの小型無人ボートに搭載可能

「Sonic」で測れること― ケーススタディのご紹介

「Sonic」シリーズを使用した事例をご紹介します。

① 第二次世界大戦中に沈没した米駆逐艦を捉える

「Sonic」シリーズに搭載されているTruePixにより、WCI、バックスキャターデータを、一般的なものより、圧倒的に小さいサイズで収録することができます。図は第二次世界大戦中に沈没したアメリカの駆逐艦 USSエモンズです。九州大学浅海底フロンティア研究センター 菅 浩伸教授の探索チームにより「Sonic」で得られた画像です。海底に鎮座する船体と水中部の魚群がTruePix技術により鮮明に捉えられています。

TruePix技術で捉えた海底に鎮座する船体と水中部の魚群(九州大学 菅 浩伸教授 提供)

海底で撮影されたUSSエモンズの写真(九州大学 菅 浩伸教授 提供)

水深ごとに色分けされたエリア図。
真ん中に映るのがUSSエモンズ(九州大学 菅 浩伸教授 提供)

② 異なる周波数を発信して地形を捉える

「Sonic」シリーズでは、オンザフライで周波数の切り替えをタイムラグなしで行うことができます。異なる周波数を順番に発信して、それぞれの周波数特性により海底の底質の検出を行う新たなオペレーションも可能です。また、高分解能な高周波と、広レンジの低周波の周波数を組み合わせることにより、測量時に同時に高分解能データと広レンジデータを得ることができます。これにより、例えば直下のパイプラインを高分解能の周波数を用いて収録、周りの地形データを広レンジの低周波数を用いて収録するようなオペレーションを同時に行うことができます。

100kHzで収録したバックスキャター。砂、岩などの物質によって色の見え方が違う
(物質によって、周波数への反応が異なる)(R2Sonic社提供)

200kHzで収録したバックスキャター(R2Sonic社提供)

400kHzで収録したバックスキャター(R2Sonic社提供)

100kHz(赤)+200kHz(緑)+400kHz(青)を組み合わせた図(R2Sonic社提供)

今後の展望― 注目が高まるブルーカーボンの取り組みへの活用

近年、海中において海藻が二酸化炭素を吸収するという役割が注目されつつあります。「Sonic」シリーズは、10年以上前から日本国内でブルーカーボン(塩性湿地帯、マングローブ林、藻場などの海洋生態系が吸収・固定する二酸化炭素)に関連する研究に使用されています。海中の海藻を図示、計量することができるため、海藻の分布や生育状況の正確な把握など、ブルーカーボンに対する取り組みに貢献するというさらなる期待が持たれています。

「Sonic」で取得した点群データを色分けしたもの。海藻が白、海底は水深毎に色分け

東日本大震災前の“あまも”が群生するエリア。緑色の濃い部分があまも

震災直後の同じエリア。あまもが全て流されてしまっていることがわかる

東陽テクニカは、今後も海の環境を健全に守るために、海外の最新機器をお客様に提供し、持続可能な社会創りに貢献していきます。

筆者紹介

名前 写真

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部 課長

柴田 耕治

入社後エンジニアとして海洋計測機器のサポートに携わり、現在は営業部にて販売とプレセールス活動を行っている。大学では医療超音波を研究、東陽テクニカに入社後もその知識と経験を活かし、海中音響機器のスペシャリストとして活動。

製品・ソリューション紹介