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膨大なデータをまとめて分析
―自動運転車開発用の最新データロガー

株式会社東陽テクニカ 機械制御計測部 水戸部 涼太

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. はじめに
  2. 自動運転/ADAS搭載車両の構成と課題
  3. データロガー「ViCANlog pro」
  4. おわりに

はじめに

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生産年齢人口(15~64歳)は2020年が約7,400万人に対し2060年には約4,500万人と約60%に減少すると予測されています1)
2060年には、筆者や読者の大半の方は現役を退いていると思いますが、労働力がこれだけ減少するということは、今は普通に受けられている物やサービスの供給も必然的に減少することになります。

第一生命保険株式会社が2020年12月に行った「大人になったらなりたいもの」調査では、小学生男子の1位が会社員でした2)。この背景には、コロナ禍で在宅勤務が広がり、子ども達が親の働く姿を間近に見るようになったことがあると考察されており、働く親として嬉しい反面、限られた労働力は在宅勤務ができる仕事に集中し、在宅勤務ができない仕事の担い手の減少がより加速するのではないかと筆者は想像しています。

実際にコロナ禍において営業活動をしていると、将来の労働力不足解消のために既存の業務を自動化することが急務だと考え行動されているお客様の熱量を感じます。その一例として、地方の移動手段の確保や物流ドライバー不足の解消など、安全で快適な社会の実現に向けて、自動運転/ADAS(先進運転支援システム)搭載車両実用化への期待が高まっています。

1)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」
2)第一生命保険「第32回『大人になったらなりたいもの』調査結果を発表」

自動運転/ADAS搭載車両の構成と課題

乗用車だけではなくバス・鉄道といった公共交通機関や物流を支えるトラックなどで開発が進んでいる自動運転車やADAS搭載車には、GPS、カメラ、レーダー、LiDAR(Light Detection And Ranging=ライダー、光による検知と測距)などのさまざまなセンサーが搭載されています。人が車を運転する場合、他車両や歩行者、障害物などありとあらゆる情報を認知し判断して走行経路を決定し、ハンドルやアクセル・ブレーキといった操作をします。ロボットに人のような五感はありませんので、カメラやレーダー、LiDARといったセンサーが人の目の代わりとして情報を収集しそれらの情報を分析する必要があるのです。

しかし、安全が求められる自動運転開発において2021年1月時点で死亡事故がアメリカで3件、日本では死亡事故は起きていませんが接触事故が少なくとも4件起きています3)。テスラ社の事故では白いトレーラートラックを他車両と認知できなかったことが原因であるとされ、認知技術の向上が課題です。各社で開発された認知アルゴリズムは実走行試験やシミュレーションによって評価が行われています。

3)自動運転ラボ「自動運転車の事故まとめ UberやTeslaの死亡事故、日本の事例も解説」

図1:自動運転/ADAS搭載車両の構成

データロガー「ViCANlog pro」

今回ご紹介するのは自動運転/ADAS搭載車両の実現に向けて実走行試験で使用され、あらゆるデータを計測・再生・解析することができるデータロガー「ViCANlog pro(ビーキャンログ プロ)」です。

図2:「ViCANlog pro」ハードウェアとソフトウェア画面

自動運転/ADAS車両に搭載されているGPS、カメラ、レーダー、LiDARなど、さまざまなセンサー情報を1台のコンパクトなハードウェアで同期して収集・分析ができます。
センサーの種類が多いと情報量が膨大になりますが、記録容量をHDDやSSDの増設で拡張できるつくりになっています。

図3:充実したインターフェース

センサーのメーカーによっては情報のフォーマットがそれぞれ異なるため、これまでA社のLiDARはA社のハードウェアやソフトウェアで測定し、B社のLiDARはB社のそれらで測定する必要があり、ハードウェアとソフトウェアの数量が増えてしまうという問題がありました。「ViCANlog pro」は、主要メーカーのセンサーに対応しています。加えて、複数のセンサーを接続し、同時に複数のセンサーの値を測定することもできます。また、たとえセンサーメーカーから新製品がリリースされた場合でも、センサーの仕様を元に「ViCANlog pro」の製造元であるZuragon社(スウェーデン、イェーテボリ)もしくはユーザー側でも拡張することができます。

図4:対応しているセンサー一覧

また、データロガーを自動運転車内に設置し、自動運転車に搭載されたセンサーから情報を収集する場合、一般的には車両が開発拠点に帰着しデータロガーを確認するまで情報の回収ができません。それでは研究・開発に遅れが生じてしまいます。
「ViCANlog pro」には、測定した情報を随時クラウドサーバーにアップロードする機能があります。クラウドサーバー経由で情報を回収することができますので、車両の帰着を待たずに情報の分析を開始できるのです。

図5:クラウドを利用したデータ転送

自動運転車が収集する情報は膨大なため、分析したい特徴的なシーン(例えば障害物との距離が極端に近くなってしまったような危険なケース)だけを分析したいという研究者にとっては、そのシーンを見つけ出すために不要な工数がかかってしまいます。

「ViCANlog pro」にはADAS(例えば衝突被害軽減ブレーキなど)機能がONになったシーンのセンサー情報だけを抽出する機能や、車速やブレーキのON/OFFを車両内部の信号(CAN信号)から取得して測定の開始と停止を制御する機能があり、必要な情報だけを見つけやすい工夫がなされています。
「ViCANlog pro」は乗用車やトラックだけではなく農機や建機、鉄道、船舶、工場内のロボットなど幅広い用途で利用できます。
無人飛行機やヘリコプター、ドローンなど「空」の自動運転でも使用することができますが、その際はハードウェアがよりコンパクトで軽量な「ViCANlog light」という製品をお勧めします。

図6:「ViCANlog light」前面(上)と後面(下)

図7:「ViCANlog」が活躍するさまざまなアプリケーション

おわりに

自動運転は夢やSF映画の再現ではなく、少子高齢化の日本を救う重要な手段です。私達、東陽テクニカは1953年の創立以来、世界最高水準の“はかる”技術の提供をコアコンピタンスとし、最先端の測定機器の輸入販売と自社開発製品の提供によって、官公庁、大学ならびに企業の研究開発を支援してきました。「“はかる”技術で未来を創る」のスローガンのもと、これからも日本の自動運転開発および産業界の発展と安全で環境にやさしい社会づくりに貢献してまいります。

「ViCANlog pro」の主な特長

・ CAN-HS/FD、LIN、FlexRay、Ethernet、レーダー、ビデオストリームなどの計測が可能
・ Velodyne LiDAR社、RoboSense社、Ibeo Automotiv System社など、複数ベンダーのLiDARをサポート
・ WEBサーバーを使用することで車載ロガーのデータを遠隔地のPCと共有可能
・ LKAS(レーンキープアシスト)やオートパーキングの評価など、各種評価機能を搭載
・ 収録データの中から評価に必要なデータだけを抽出する「自動データ抽出機能」を搭載

ナレーション付きデモ動画をYouTubeの当社公式チャンネルで公開中!!(画像をクリック)

当社サイトの製品紹介ページ
「ViCANlog pro」
https://www.toyo.co.jp/mecha/products/detail/vicanlog.html
「ViCANlog light」
https://www.toyo.co.jp/mecha/products/detail/vicanlog_light.html

著者紹介

株式会社東陽テクニカ 機械制御計測部

水戸部 涼太

2011年 東陽テクニカに入社。
バッテリーの充放電装置などの電気化学測定器、半導体や低温・磁気デバイスを評価する物性測定器の営業を経て、現在はADAS/自動運転用のLiDAR製品やデータロガー製品を担当。執筆や講演活動も手掛ける。

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