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シミュレーション環境でV2Xの開発を加速 効率的に安全なテストを可能にする「V2Xエミュレータ」

株式会社東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 課長 下平 秀信

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目次
  1. はじめに
  2. V2Xとは
  3. V2X通信の評価 ―シミュレーションを活用
  4. V2X搭載車のシミュレーションでは何を評価すべきか
  5. V2X車載器をどのように評価するのか
  6. おわりに

シミュレーション環境でV2Xの開発を加速 効率的に安全なテストを可能にする「V2Xエミュレータ」

はじめに

日本国内における車の通信は、VICS(道路交通情報通信システム)やETCといった情報提供と料金収受から、カメラやレーダーなどを用いた「自律型自動運転」と呼ばれる安全運転支援の用途へと発展しつつあります。

例えば衝突を事前に回避する運転支援は、車に搭載しているカメラ、レーダーなどの自律センサーを活用して、周囲の人や車を検知することで成り立つものです。その先の、より高度な運転支援や自動走行である「協調型自動運転」には、V2X通信が用いられます。ここでは、V2X通信の評価方法をご紹介いたします。

V2Xとは

V2Xとは

V2XとはVehicle to everything(X)の略で、車と車、車とインフラ、車と人などを無線通信でつなぎ、互いに周辺の状況を知らせるシステムです。車車間(V2V:Vehicle to Vehicle)では、車種、位置、進行方向、速度などの走行状況を互いに知らせ、見通せない場所から飛び出してくる車両との衝突回避、交差点右折時の対向車線車両との衝突回避などに利用されます。路車間(V2I:Vehicle to Infrastructure)では、信号の切り替わりタイミング、制限速度、工事中などの情報を知らせ、ドライバーの見落としによる事故の回避に利用されます。

通信方式としては、Wi-Fi技術をベースとしたDSRC(狭域通信)と、携帯通信技術をベースとしたセルラーV2X(C-V2X)があります。DSRCとセルラーV2Xは互いに通信することはできません。DSRCは狭い範囲を対象としており、ETCの自動決済で活用されています。一方、セルラーV2XはDSRCに比べて通信距離が長く、遅延が小さいという特徴があります。セキュリティに関してはDSRC、セルラーV2Xともに、車両情報や所有者情報などのプライバシー保護、および緊急車両などへのなりすまし防止のため、暗号化と電子署名のセキュリティ対策技術が用いられています。

V2X通信の評価 ―シミュレーションを活用

「自律型自動運転」に用いられるカメラ、レーダーなど自律センサーの評価は屋外の実車走行が一般的でした。一方V2Xの評価は、まだ十分なインフラがなく、V2X搭載車がない状況において、屋外の実車走行は一から準備が必要で膨大な工数と時間がかかるという課題があります。いったいどのようにして評価したらよいのでしょうか。

政府が2025年から新車にV2X搭載を推奨する中国では、シミュレーションを活用した評価が行われています。シミュレーションでは仮想環境内でV2X搭載車を自由に走らせることができます。そのため、再現性があり一定の条件下で定量的な評価ができます。また、車を用意する手間がなく、天候にも左右されないので業務の効率化が図れます。衝突場面などのリスクが伴う試験でも安全に評価できる点も大きいです。

V2X搭載車のシミュレーションでは何を評価すべきか

具体的に、V2Xを搭載している車はどのような評価が必要になるのか。車が走行している状況が“安全”か“危険”か、まずはこれを判断できなければいけません。V2X搭載の自車両が、受け取った情報から、周辺状況を正しく認知すること、かつドライバーに正しく警告することが求められます。

例えば信号のない見通しの悪い交差点に差し掛かるとき、右方向から車が進入してくる状況において、警告は遅すぎても早すぎても意味がありません。また十分安全な状況において誤って警告を出してもいけません。V2X車載器が無線通信を受信し情報を正確に読み取ること、また適切なタイミングでドライバーに警告が出せること(安全状況では警告が出ないこと)を評価する必要があります。

処理許容量の観点から、多くの車が走行する繁華街を想定し、情報が錯綜している状況においても正確な動作ができるという評価も重要です。また、信頼できる機関が発行した公開鍵証明書を用いて、互いに通信を暗号化できることの評価も必須となります。

V2X車載器をどのように評価するのか

前方に停車している車両に近づく走行場面を例に、V2X車載器をシミュレーション環境でどのように評価するのか紹介します。ここで使用するのは、シミュレーション環境で実環境の交通シナリオを再現し、安全制御装置の機能検証とベンチマークテストが行えるテストベッド「V2Xエミュレータ」です。Spirent Communications社製「V2X Virtual」、「C50 C-V2X」、「マルチバンドGNSSシミュレータ」1)で構成されます。シミュレーション映像はIPG Automotive社製「CarMaker」と連携します。

1)GNSS:Global Navigation Satellite System(衛星測位システムの総称)。人工衛星を使って位置情報を取得する技術。米国の衛星測位システムであるGPS(Global Positioning System)はその一つ。

V2Xシミュレーション環境「V2Xエミュレータ」を構成する「V2X Virtual」、「C50 C-V2X」、「マルチバンドGNSSシミュレータ」、およびV2X車載器と「CarMaker」

V2Xシミュレーション環境「V2Xエミュレータ」を構成する「V2X Virtual」、
「C50 C-V2X」、「マルチバンドGNSSシミュレータ」、およびV2X車載器と「CarMaker」

まず初めに車両シミュレーション環境を構築するソフトウェア「CarMaker」で、シミュレーション環境に直線道路を一本設けます。その道路上に停止車両(図1の青色車両)を置き、後方から自車両(図1の黄色車両)があらかじめ設定した時速で近づく場面を模擬します。

図1:「CarMaker」で模擬する前方衝突場面

図1:「CarMaker」で模擬する前方衝突場面

「C50 C-V2X」は、「CarMaker」と連携して停止車両の状況をセルラーV2X方式でV2X車載器に知らせます。同時に、V2X車載器に道路の緯度経度を示す「マルチバンドGNSSシミュレータ」の疑似GNSS信号を入力して道路上を走行するように自車両を誘導します。停車車両に近づくと、V2X車載器が前方衝突の警告を発報します。「V2X Virtual」はV2X車載器からの警告を受け取り、警告の有無、発報タイミング(停車車両の何メートル前で発報したか)を評価します(図2)。

図2:「V2X Virtual」の画面:緑色枠内はV2X車載器が発報した前方衝突警告

図2:「V2X Virtual」の画面:緑色枠内はV2X車載器が発報した前方衝突警告

次に赤信号で停車する場面の例をご説明します。「CarMaker」で信号機付き交差点を設けます。自車両が交差点に進入する場面(図3)を模擬します。

図3:「CarMaker」で模擬する交差点進入場面

図3:「CarMaker」で模擬する交差点進入場面

まず、「C50 C-V2X」が信号の色をV2X車載器に知らせます。同時に疑似GNSS信号にて自車両を交差点に誘導します。V2X車載器は赤信号なら停止の警告を発報します。「V2X Virtual」にて警告の有無と、発報タイミングを評価します(図4)。

図4:「V2X Virtual」の画面:緑色枠内はV2X車載が発報した赤信号警告

図4:「V2X Virtual」の画面:緑色枠内はV2X車載が発報した赤信号警告

こちらの例の他にも、「V2Xエミュレータ」を使用したシミュレーション環境では事故事例、ヒヤリ・ハット事例の走行場面を用意することができます。より多くの場面を評価することで、ドライバーに信頼される安全運転支援ができます。またシミュレーション環境では400台以上の車が周辺を走行する状況も模擬することができ、多数の車がいる中でもV2X車載器が警告を遅れることなく的確に発報できるか評価することができます。また、公開鍵証明書を変えて通信することも可能で、発行元が不確かな証明書を用いた場合はV2X車載器で通信を拒絶できるかというセキュリティ機能を評価できます。

おわりに

V2Xは自動運転を実現する上で自律センサーを補完する技術として注目されている技術です。V2Xが将来、協調型自動運転で広く利用される日が来るよう、これからも東陽テクニカは“はかる”テクノロジーを提供して業界の発展に貢献してまいります。

筆者紹介

下平 秀信 写真

株式会社東陽テクニカ
情報通信システムソリューション部 課長

下平 秀信

1999年入社以来、情報系計測器の営業に従事。近年はコネクテッド、V2X、車載イーサネットなど自動車の通信に関する計測ソリューションを担当。

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