東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら東陽テクニカルマガジン70周年記念号はこちら

IT 社会を支えるストレージ技術

株式会社東陽テクニカ プロトコル・ソリューション・グループ 坂口 充宏

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. はじめに
  2. HDDとは
  3. SSDとは
  4. SSDとHDDの比較
  5. SATAとは
  6. SATA通信プロトコルの解析手法
  7. おわりに

1.はじめに

電子計算機の誕生によって磁気録音技術が外部記憶装置に応用され、1940年から50年代にかけて、磁気テープ装置やHard Disk Drive(以下、HDD)、FDD(Floppy Disk Drive)などのデジタルデータ記録機器が次々と生まれました。さらに1960年代後半にはアナログ信号をデジタル変換して書き込む技術が進展して、 PCM(Pulse Code Modulation:パルス符号変調「音声などのアナログ信号をデジタルデータへ変換する方法の一つ」)録音機が開発され、今日のストレージへの道が拓かれています。さらに、ビデオもデジタル化され、圧縮技術の進展にともなって、光ディスク装置も開発されています。また半導体フラッシュメモリが開発され、大容量化も進み、これもストレージ機器として登場しています。この様に当初は記憶あるいは記録機器と呼ばれていたものが、大容量化によって情報ストレージ(蓄積)機器と呼ばれるようになったのです。

この様にストレージ技術は、私たちの身近な情報だけでなく、文化・芸術・科学などのあらゆる分野の貴重なデータを蓄えるための技術です。これからのIT社会ではますます重要な役割を果たし更なる発展が期待されています。記憶措置の中心であるHDD、今後急速に発展、普及が見込まれるSolid State Drive(以下、SSD)にフォーカスを当て、その機器に使用されている通信技術、測定手法についてSerial Advanced Technology Attachment(以下、SATA)インタフェースを例にご紹介をします。

2.HDDとは

代表的な記憶装置の一つでパソコンを始めとするほとんどのコンピュータに搭載されています。磁性体を塗布または蒸着した金属のディスク(「プラッタ」という)を一定の間隔で何枚も重ね合わせた構造になっています。これをモーターで高速に回転させて磁気ヘッドを近づけてデータの読み書きを行います。磁気ヘッドとディスクは10nm程度と非常に接近しているため、振動に弱いという欠点があります。ディスクの大きさは、ノートパソコン向けのものは2.5インチ、デスクトップパソコン向けのものは3.5インチがそれぞれ主流です。ノートPCに搭載されている2.5インチ型ならタバコの半分程度、デスクトップPCの3.5インチ型ならその2倍ほどの大きさとなります。この機器の構成品は、高速回転している磁気ディスク、情報を書き込み読み出す微細な磁気ヘッド、これらを駆動する機構系、これらを制御し書き込みや読み出し情報を処理するLSIなどで構成されています。また、全てが超精密部品であるだけでなく、磁気ヘッドや磁気ディスクなどはナノテク技術が用いられています。

(a)は3.5インチHDD、(b)は2.5インチHDD

3.SSDとは

近年HDDに代わる記憶装置として注目を集めています。記憶媒体としてフラッシュメモリを用いるドライブ装置となります。HDDと同じ接続インタフェースを備えているため、HDDの代替としてそのまま利用ができます。また、HDDのようにディスクを持たないため、ヘッドをディスク上で移動させる時間(シークタイム)や、目的のデータがヘッド位置まで回転してくるまでの待ち時間(サーチタイム)がなく、高速に読み書きできるのも特徴です。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータをSSDに保存して、それ以外はHDDに保存するといった使い分けが行われているケースも見受けられます。

なお、SSDは記録方式の違いにより「SLC」、「MLC」の2タイプの方式があります。1つのセル(記憶領域) に1bitの情報を書き込むものが「SLC(Single Level Cell)」、 1つのセル に2bitの情報を書き込むもの が「MLC(Multi Level Cell)」で す。「SLC」は「MLC」と比較すると「書込み速度が速い」「消費電力が少ない」「書き換え寿命が長い」「価格が高い」などの特長が挙げられます。それに対して「MLC」は「SLC」と比較して「値段が安い」「大容量化しやすい」といった特長があります。

SSDの外観図

4.SSDとHDDの比較

(1)データ処理速度

HDDはディスクに記憶されたデータを、ヘッドやアームを動かして読み取るという仕組み上、データを読み取る際には回転する磁気ディスクに対して目的のエリアにヘッドを動かす時間(シークタイム)や、ディスク内の目的データが回転してくるまでの時間(サーチタイム)、などがかかっています。 対してSSDはフラッシュメモリにデータを記憶しているため、HDDのような時間のロスがないことで高速なデータ処理が可能です。

(2)容量と価格

現時点では圧倒的にHDDが安価ですが、今後の普及率の上昇に伴いSSDも安価になっていきます。

(3)耐衝撃性

SSDはHDDに比べて耐衝撃性が高いといわれますが、それは内部構造の違いが大きな原因です。HDDは強い振動により、ヘッドやアームなどの可動部分がデータを記憶しているディスクを傷付けてしまうことがあります。対してSSDは半導体を中心に構成され可動部分がないため、振動や衝撃への耐性がHDDを上回ります。

(4)動作音

HDDはモーターの回転音がしますが、 SSDはそのような動作部分がないため、非常に静かです。

(5)軽量

SSDにはモーターもヘッドも必要ありません。また、HDDは埃の侵入を防ぐため基本的に金属製の筐体で密封されており重量の増加にも繋がっています。

5.SATAとは

(1)SATAの登場

Parallel ATA(Advanced Technology Attachment)/ATAPI(Advanced Technology Attachment Packet Interface)に代わり高速な転送レートに対応できる新しいインタフェースの開発要求が背景にあり、SATAが登場しました。 SATAはATA/ATAPIの物理インタフェースを従来のパラレル・インタフェースから高速なシリアル・インタフェースに置き換えることを目的としています。なお、SATAの仕様は2000年11月に業界団体「Serial ATA Working Group」により策定が行われています。 現状、SATA-IO(Serial ATA International Organization)によりSATA3.0が規格され、最大転送速度が6Gbpsまで引き上げられています。

(2)PATAからSATAへの移行状況

(3)SATA通信プロトコルの概要

SATAは3階層で構成されています。

物理層:シリアル信号の送受信とデジタル信号変換。
リンク層:物理層の制御やデータの符号化を行います。
トランスポート層:コマンドを発行しプロトコル全体を制御します。

この様な通信プロトコルをどの様な手法で解析、性能評価を進めていくのか、当社で取り扱いのLeCroy社製Sierra M6シリーズを用いてご説明いたします。

高機能SAS/SATA解析ツール “Sierra M6シリーズ”

6.SATA通信プロトコルの解析手法

(1)プロトコル・アナライザを用いて通信の可視化

ホスト(PC)とデバイス(HDD)間を流れるトラフィックを記録します。記録されたトラフィックデータはプロトコル・アナライザ本体から制御用PCにアップロードされ、専用アプリケーションソフトウェア上に表示されます。トランスポート層(コマンド)、リンク層(FIS)、物理層(プリミティブ)までの広範囲にわたるトラフィックを分かりやすく表示することが特徴で、さらに複数の表示方法を採用しており、目的に合わせて最適な表示にカスタマイズできます。これにより目的の箇所をすばやく見つけ出すことができます。また、フィルタ、トリガ条件を細かく設定することができるため、特定の問題箇所を的確に捉えることが可能です。

(2)通信の性能評価

負荷試験、エラー試験等を下記の手法で容易に実現し機器の単体評価、システム評価を行うことができます。

(2)-1:エキササイザ機能
SATAのトラフィックを生成し、擬似的にホストとデバイスの動作を行います。生成するトラフィックは予め作成をしたシナリオに沿って出力されます。シナリオはプルダウンメニューからコマンド、FIS等を選択し、さらに条件分岐やカウンタも組み合わせることもできます。なお、デバイスエミュレータはIdentify情報を設定することにより任意のデバイスになりきることができます。この様にこれらの機能を用いて、稀な事象を再現したり、ストレス試験、エラーハンドリング試験などを行うことができます。

(2)-2:エラーインジェクタ機能
バス上を流れるトラフィックに干渉し変更を加えます。データペイロードの置換、各種のエラーの挿入、リンクの遮断などのエラー注入を行うことができます。エキササイザ機能と異なる点は実ホストと実デバイスの間を流れるトラフィックに干渉できる点です。これによりシステム全体のエラーハンドリングが行えます。シナリオの作成はプルダウンメニューから任意のイベントを選択し、条件分岐やカウンタを組み合わせることができます。

7.おわりに

IT社会を支えるストレージ技術は、今回ご紹介をさせて頂いたさまざまな技術から成り立っております。当社としては今後ともストレージ技術の開発の一端を担うべく、最新の測定器のご紹介を続けてまいります。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ プロトコル・ソリューション・グループ

坂口 充宏

1990年 東陽テクニカ入社。入社から8年程技術部に所属し、その後、営業に転籍。主にストレージ機器で使用される通信プロトコルの解析機器を担当。