音響粒子速度センサを用いた
ニアフィールド アコースティックカメラ

株式会社東陽テクニカ 営業第11部 鈴木 一広

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目次
  1. はじめに
  2. 可視化には何が重要か
  3. ニアフィールド アコースティックカメラ
  4. おわりに

はじめに

製品の開発からラインオフに至るまで、音と振動に関わる音源の特定は重要なテーマです。我々が音響ノイズとして対策しなくてはならないものは、大きく分けて下記の2つあります。

①定常的なノイズ
②非定常的なノイズ

①の定常的に起こる現象に対し、②の非定常的な現象はどのタイミングで起こるか予測できません。自動車、鉄道また日本メーカのプレゼンスが高まりつつある航空機のような輸送機器においても静音化に対する要求レベルは高いものとなってきており、非定常なノイズへの対応も必要になってきています。このような現象を取りこぼすこと無く捉えるには音源と考えられる箇所に複数のプローブを設置し、ノイズ信号の同時収録を行うことが必要となります。今回は主に音響粒子速度センサを活用した非定常ノイズの検出方法に焦点を当てて説明します。対象物からセンサまでの距離が音の1波長より短い距離の場合、音源はニアフィールドと見なすことができ、音響粒子速度センサを適用する主な領域となります。

なお、音響粒子速度センサの特徴につきましては本誌第3号 特集03「音響粒子速度センサから始まる新たな振動/音響計測」の記事も併せて参照いただけますと幸いです。

可視化には何が重要か

人間の知覚は、その多くを視覚に頼っています。音は目に見えないため、今までも可視化の試みがなされてきました。現在商品化されている非定常音の可視化システムには大きく分けると下記の3種類があります。

①平面マイクロフォンアレイを用いた音響ホログラフィシステム(Nearfi eld Acoustic Holography, NAH)
②マイクロフォンを用いたビームフォーミングアレイ
③PUプローブアレイ(直接法)

図1:PUプローブ手持ちアレイ

ここでは音の可視化システムとしてどのような要素が必要なのか列記します。

単純であること

平面アレイNAHは多本数の音圧マイクロフォンを測定周波数に合わせて構成し、フロントエンドも多CHとなるハードウェア構成で計算も複雑なシステムです。

ビームフォーミングアレイもやはり多本数の音圧マイクロフォンから構成されますが、指向性の無い音圧マイクロフォンはバックグラウンドノイズの影響を受けやすいため、 S/Nが低くなりがちです。アレイを設置する位置も音源から離れたファーフィールドに限られます。

PUプローブアレイ(直接法)は音圧と音響粒子速度をそれぞれ直接測定するセンサからなるPUプローブを用いて構成されています。対象物の近傍に設置して音響パラメータを直接測定可能です。測定対象に合わせてセンサ間隔を調整する必要が無く、音響粒子速度センサは音響粒子速度の検出に2本の白金線を用いているため、 8の字の指向性を持ち、外部からのノイズにさほど影響を受けません。

簡単に使えること

操作性も重要です。現場で物理的に使える時間は限られていますが、PUプローブアレイやビームフォーミングアレイは電源を入れて比較的すぐに測定が開始できます。平面アレイNAHシステムは測定器を使えるまでに要する時間および測定に要する時間がかかり、人件費のコストがかかってしまいます。

音響粒子速度計測の精度が高いこと

PUプローブアレイ(直接法)は他システムのように音響粒子速度を複数の音圧マイクロフォンの測定結果から間接的に算出するのではなく、直接音響粒子速度を測定します。そのため、フロントエンドのCH数やデータ処理能力もさほど必要とせず、高精度な音響粒子速度情報が得られます。

ダイナミックレンジが広いこと

対象物の表面振動レベルの最小個所と最大個所であるダイナミックレンジが40dBを越えることが多くあります。システム自体のダイナミックレンジが小さいと大きなエラーとなります。平面アレイNAHシステムのダイナミックレンジは20dB程度ですが、ビームフォーミングシステムはさらに小さくなります。PUプローブアレイは音響粒子速度をダイレクトに計測し、再計算を必要としないため、そのような高ダイナミックレンジの信号に対応できます。

測定周波数レンジが広いこと

PUプローブアレイ(直接法)の周波数レンジは広く、20Hz~20kHz(PUマッチプローブの場合、PUミニプローブは~10kHz)です。平面アレイNAHシステムは500Hz~3kHz、ビームフォーミングは2kHz~10kHzが対応する周波数レンジになります。

図2の例はバックグラウンドノイズが無く、単一音源だけがあるという理想的な環境かつ単純な音源を各システムを用いて計測した例です。他のシステムでは周波数による位置分解能の違いが顕著ですが、PUプローブアレイだけが周波数レンジによらず一様で良好な空間分解能を示しています。

図2:各システムの周波毎における空間マッピング分解能比較

ニアフィールド アコースティックカメラ

PUプローブアレイは対象物近傍の音響粒子速度と音圧を直接測定し、そこからインテンシティを算出して音圧、音響粒子速度、インテンシティそれぞれの音響パラメータを可視化します。以下の特徴があります。

アレイ構成の柔軟性

PUプローブアレイを構成するセンサはどの位置に設置することも可能です。そのため曲面のような測定対象にも対応します。

図3:ドアパネルの音響粒子速度測定

アレイ構成による周波数制限なし

各音響粒子速度センサは音響粒子速度を20Hz~20kHzの周波数レンジにて直接計測するため、アレイを構成することによる周波数レンジの制限はありません。こちらは1cm間隔で小型PUマッチプローブを用いて構成されたニアフィールドアコースティックカメラとその測定例です。

図4:小型PUマッチアレイ

高ダイナミックレンジ

測定によって得られる音響粒子速度のダイナミックレンジは40dBに達します。他のシステムと較べ非常に高い値です。

複雑な計算が不要

平面アレイNAHシステムのような複雑な計算を必要としません。今まで音響計測をあまり行ってこなかった方でもアコースティックカメラは使いこなすことが可能です。

空間分解能の高さ

各音響粒子速度センサが直接音響粒子速度を測定し、20aHz~20kHzの帯域をもつため、各センサの間隔がそのまま測定データの空間分解能になります。

図5:各システムの空間分解能比較

おわりに

非定常音の音源探査は、複数のPUプローブにて構成されたアコースティックカメラで可能となりました。自動車や電車内のような反射のある閉空間における音源探査の実績も徐々に増えてきております。もちろんPUプローブアレイは前回本誌第3号で取り上げた伝達経路解析(airborne Transfer Path Analysis)への適用も可能です。定常音であれば一つのPUプローブを用いて対象物をスキャンするScan & Paintシステムで非常に簡単に可視化することができます。

アプリケーションや製品の開発ステージ、現象に合わせ、これらの解析手法をより適切に使い分けていくことにより、ニアフィールドにおけるMicrofl own音響粒子速度センサを最大限に活用することが可能になります。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 営業第11部

鈴木 一広

1993年 東陽テクニカに入社。
現在は主にMicrofl own粒子速度プローブを用いた音・振動関連アプリケーションを担当。